戯曲『ロマンス』には、ものすごく響く一文があると語る石井さん

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 お笑い芸人のみならず、俳優や声優、そして脚本家など、多岐にわたって活躍の場を広げるタレントのラサール石井さん。そんなラサール石井さんに前編に引き続き、ご自身と"本"にまつわるお話をお聞きしています。

――ラサールさんといえば、6月19日から始まる舞台「こまつ座 第104回公演『てんぷくトリオのコント』〜井上ひさしの笑いの原点〜」で監修・脚本を担当されていますよね。

「そうなんです。井上さんは昔てんぷくトリオの座付き作家をやっていて、150本ほどのコントを書かれているんですけど、そのコントをもう一度ナベプロにいる我が家さんに再現してもらうことになって。僕はそのコントの監修と、間をつなぐ部分の脚本を書いていたので、これを機会に井上さんの作品をたくさん読み直してみました」

――中でもお気に入りの一冊はありますか?

「チェーホフの生涯を書いた戯曲の『ロマンス』ですかね。井上さんの作品には珠玉の言葉がいっぱいあるんですけど、この本の中に、笑いをやっている人間にとってはものすごく響く一文があるんです。それが、

『人は元々あらかじめその内側に苦しみを備えて生まれて落ちるのです。だから生きて病気をして年をとって死んでいくというその成り行きそのものが苦しみなのです。けれども笑いは違います。笑いというものは、人の内側に備わってはいない。だから外から、自分の外側(手)で、作りだして互いに分け合い持ち合うしかありません。元々ないものを作るんですから大変です』

というもの。これはチェーホフの考えというよりたぶん井上さんの考えだと思います。苦しいとか悲しいというのは本来人間に備わっている感情だけど、"笑い"というものは誰かがつくり出さなければならない。だから、意識して笑いを作るということがどれだけ大切なのか、笑うことによって希望を見いだし、悪い状況を克服していくことがどれだけ大事なことなのかということをおっしゃっているのだと思います。非常にいい言葉です」

――ラサールさんも、これまでコント赤信号として数々の笑いをお茶の間に提供してこられたわけですが、この井上さんの考え方には、ご自身の"お笑い論"としても通ずるものはありますか?

「笑いっていうものが内に無い、っていう考え方は僕にはなくて、笑いも自然に出てくるものかと思っていました。井上さんはもうちょっと人間をシニカルに、クールに見てるんでしょうね。だからこそ、笑いは大切だという井上さんの考え方は、説得力がありましたし、笑いを作るという自分の仕事がいかに大事な仕事なのか改めて気づかされました。でも、我々がやっている仕事は時に少し低く見られるものなんですよ。つい先日のことなんですけど、とある議員の方がNHKでやっていたコントの番組に『そんなものは民放でやればよくて、NHKがやるなんて...』みたいなことをおっしゃっていたんです。それを聞いて、僕も『あぁ、いつまで経ってもそういうことは言われるんだな』と。そのことは井上さんもずっと苦しんでいたことは他の場所でも書いていらっしゃいます。でもそう文句を言う人だって、笑いで助かったこといっぱいあると思うんです」

――確かに、どんなに辛くても笑いで元気をもらった経験って誰にでもあるものですよね。

「人間って実はどんなにどん底にいても、笑うことは笑うんです。でも、よっぽどどん底に落ちてしまうと自分から笑うことができなくなるので、人から笑わせてもらうしかない。よくお葬式とかお通夜とかで、式が終わった後飲んだりしますよね。そういうところを観察していると、結構みんな驚くほど笑ってるんです。『あぁそんな人だったね、アハハ』とか。それも誰かが誰かを励まそうと思っておもしろいこと言っているんですよね。そういうのを見ると、『あぁ、笑いってやっぱり大事なんだな』と思いますね」

<プロフィール>
ラサール石井  らさーる・いしい/1955年生まれ。芸人、俳優、声優、脚本家。お笑いグループ・コント赤信号のメンバーとして78年から活動を開始。その後もお笑いのみならず、ドラマや舞台、映画と活躍の場を広げる。