内田篤人 (撮影/岸本勉・PICSPORT)

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 4年に一度の世界との遭遇が幕を閉じた。ブラジルでの日々は、冒険と呼べない短い旅で終わった。あまりにもあっけないほどに、終わってしまった。

 すでにグループステージ突破を決めているコロンビアと、勝ってなおコートジボワールの結果に運命を委ねる日本の間には、精神的に大きな違いがあった。リラックスしたメンタルに包まれているコロンビアに対し、日本は精神的に追い詰められていた。あとがなかった。
 
 勝てば無条件で2位以内に滑り込めるなら、割り切ったメンタルで臨める。だが、2点差以上の勝利という条件は、選手たちの気持ちを固くする。慎重さと大胆さのバランスが取りにくい。
 
 最初にして最大の躓きは、17分に喫した失点にあった。ビハインドを許してしまった時点で、グループステージ勝ち抜きのハードルが3点差以上の勝利へ上がったからだ。
 
 コロンビアは第1戦でギリシャを完封し、日本が2失点したコートジボワールに2対1で勝利した。この日はセンターバックのジェペスが欠場していたといえ、一定水準以上の守備力は保たれている。
 
 そもそも、W杯で3点差以上の勝利をつかむのは、どのチームにとってもタフなミッションだ。そして、日本はW杯で3点差以上の勝利をあげたことがない。
 
 前半終了間際に岡崎が決めた同点弾で、試合の流れはどうにか修正された。1対1でハーフタイムを迎えたのは、悪くなかったはずである。
 
 だが、次にゴールを奪ったのは日本ではなかった。「2点目が痛かった」と選手たちは口を揃えたが、痛みはリードを許したことにとどまらない。同点、逆転と試合を動かすには、当然ながらリスクを冒さなければならない。そして、日本が背負ったリスクは、スコアに反映されていく。前がかりになった背後を巧みに破られ、日本は失点を重ねた。1対4の完敗となった。

「勝たなきゃいけないのは分かっていて、そのなかで勝ちきれなかった。こういう試合は先に失点しちゃいけない。後半は前にいったぶん後ろにかかる負担があったし、相手は(日本の守備ラインの背後を)つねに狙っていた」

 こう話したのは内田篤人だ。グループステージの3試合を通して、彼は高い安定感を示した。今大会の日本でもっとも計算できる選手にして、価値ある働きを見せた選手と言っていい。この日も1対2とリードされたあとに、大久保嘉人に決定的なラストパスを通している。

 だが、内田本人は伏し目がちだ。

「結果が出てないと、なんとも言えない。負けてしゃべっても説得力がないし。自分たちのサッカーをやらせてもらえないのは、地力の差じゃないですか」

 続けて語った言葉が印象深い。

「世界は近いけど広いなあ、と。それはこの大会だけじゃなく、ドイツ(のクラブへ)へ移籍してすぐ思ったことなんだけど。世界は近くなったけど、広いなあと思います」

 南アフリカでベスト16入りしたチームに比べれば、今回のチームは力をつけていた。

 4年前は4人しかいなかった海外クラブ所属選手が、今回は10人をこえている。
 だが、他国との相対評価ではどうだろうか。世界における日本の実力は、まだまだトップレベルに遠い。海外クラブでプレーする選手が増えることで個人の経験値が上がり、それがチーム力を押し上げるサイクルは、日本だけのものではないのだ。
 
「世界は広い」という内田の皮膚感覚が告げるのは、絶対評価ではなく相対評価でチームの実力を見極めなければならない、ということだろう。海外組のプレーに頼もしさを感じ、視点に甘さが入り込んでいた僕も、相対評価の意識が欠如していた。日本代表の敗退を自分自身の痛みとして受け止めることから、我々の4年後は始まると思う。