今後ありうる「訴訟沙汰」は?

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ゴーストライター騒動で記者会見を開いた佐村河内守氏。作曲者は新垣隆氏であることを認め、聴覚については「3年くらい前から聞き取れることもあった」と明かした。道義的責任は免れず、世間の目は厳しい。では、法的にはどのような責任があるのだろうか。

まず、障害者手帳の交付を受けていた点について。本人は聞こえなかった耳が回復したと説明。もし、手帳を交付されたときには聞こえなかったという説明が虚偽なら自治体に対する詐欺罪が成立するが、過去の「聴力」については、証明が難しい。

では、CDを買ったファンが佐村河内氏に損害賠償請求することは可能だろうか。長谷川裕雅弁護士は次のように解説する。

「損害賠償を請求するには損害が発生している必要があります。ファンは実際にCDを手に入れた以上、損害を被ったとまではいえないでしょう。CDを自主回収したレコード会社には損害が発生したので、レコード会社が損害賠償を請求することは可能かと思います」

著作権に関してはどうか。ゴーストライターの新垣隆氏が作曲したものを、佐村河内氏名義で発表したことについて、問題はないのだろうか。

一般に、ゴーストライターがいる場合、著作者は著作物への関与の度合いによって決まる。たとえば単行本をつくるとき、著者が言ったことをゴーストライターがそのまま文字起こしするだけなら、著作者はゴーストライターではない。一方、著者は内容にタッチせずゴーストライターが考えてすべて書いたのなら、著作者はゴーストライターであり、名前が出ている著者ではない。今回、佐村河内氏は設計図を書いて新垣氏に指示を出したというから微妙なところだが……。

「実は、そもそもどちらが著作者であるかはそこまで重要ではありません。仮に佐村河内氏が著作者でなくても、金銭の授受によって著作権は新垣氏から佐村河内氏に譲渡されていると考えられます。佐村河内氏が著作権を持っているなら、レコード会社と佐村河内氏が契約しても、著作権法上の問題はほとんど発生しません」

著作権の譲渡が有効になされているとして、一般に指摘されてはいないが、むしろ新垣氏による違法行為が成立する余地もある。

「一般的にゴーストライター契約を結んだ場合、その存在を公表しないという合意がなされていると考えられます。新垣氏がゴーストライターだと自ら名乗り出たのは、民法上の債務不履行。それにより損害を被ったとして、佐村河内氏が新垣氏に損害賠償請求することは、理論上ありえます」

新垣氏は騒動になる前に記者会見を開き、自ら共犯者だと告白した。その潔い姿勢を見て世間から擁護の声があがったが、2人の関係に限っていえば、被害者は佐村河内氏のほうというわけだ。

ただし、佐村河内氏が新垣氏を訴えても損害賠償が判決で認められるとはかぎらない。

「新垣氏側の告発は社会的に意味のあるものであり、結果的に損害賠償債務を認める結論はおさまりが悪い。結局、佐村河内氏が得た利益は虚構によるもので、損害を受けたとしても法律上保護に値しないというところに落ち着くのではないでしょうか」

いまのところ訴訟の動きは具体化していない。このまま泥沼化しないことを祈るばかりだ。

(答えていただいた人=東京弁護士法律事務所代表パートナー弁護士 長谷川裕雅 図版作成=ライヴ・アート)