「機動戦士ガンダム 劇場場 公式サイト」より

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 1979年に「ファーストガンダム」と呼ばれるテレビアニメ『機動戦士ガンダム』(テレビ朝日系)が放送開始されて以来、今年で35周年を迎えるガンダムシリーズ。5月17日には人気小説を7話構成で映像化した『機動戦士ガンダムUC(ユニコーン)』の最終話『episode7 虹の彼方に』のイベント上映&配信&ブルーレイ劇場先行販売が開始され、今秋にはガンダムの生みの親である富野由悠季氏が久しぶりに監督を務める新作『ガンダム Gのレコンギスタ』も公開予定とあって、メモリアルイヤーにふさわしい盛り上がりを見せている。

 そもそもガンダムシリーズは『機動戦士ガンダム』以降も、『機動戦士Zガンダム』『機動戦士ガンダムZZ』『新機動戦記ガンダムW』(いずれもテレビ朝日系)、『機動戦士ガンダムSEED』『機動戦士ガンダム00』(ともにTBS系)など、これまでに計12作品(外伝的作品除く)ものテレビアニメシリーズが放送され、そのほかにも劇場版、OVA(オリジナルビデオアニメ)シリーズなどアニメ作品が数多く展開された。

 アニメ以外にもプラモデル(ガンプラ)やテレビゲームといった関連商品の派生ビジネスも成功しており、アニメ制作を担当するサンライズ、ガンプラやゲームの販売を一手に引き受けているバンダイグループにとって、ドル箱コンテンツであるのは周知の事実である。

●バンダイグループ内でダントツの売り上げ

 バンダイナムコホールディングスが5月8日に公表したグループ全体のキャラクター別の売上高によると、ガンダムシリーズは2013年度だけで802億円というダントツの数字を叩き出している。2位の仮面ライダーシリーズが307億円であることを考えると、バンダイグループへの貢献度の高さがうかがえる。

 では、ガンダムシリーズがなぜロボットアニメの金字塔となり、他作品を凌駕するほどのモンスター作品へと成り得たのだろうか? ガンダムファン歴30年にして全シリーズに精通するライター、昌谷大介氏にガンダムビジネスの歴史を振り返ってもらった。

「バンダイナムコホールディングスのキャラクター別売上高では、ガンダムシリーズは11年度が447億円、12年度が652億円となっており、802億円を記録した13年度まで、ここ数年で急拡大しているのです。今まさにガンダムビジネスは隆盛期と言っていいでしょう。これはアニメやプラモデルの収益が堅調なのはもちろん、ネットワークゲームなどの収益も好調なのが要因だと思います。ですが、今でこそわが世の春を謳歌しているガンダムですが、1作目の『機動戦士ガンダム』は、実は低視聴率のため全52話予定のところが43話で打ち切りとなるほど、当時は人気作とは言い難い状況でした」(昌谷氏)

 しかし、その骨太な作品性により放送終了後から徐々に火が付き、中高生や20〜30代のアニメファンから強い支持を集めるようになっていったのだという。

「放送終了後にアニメ雑誌でガンダム特集が組まれ、再放送を求める嘆願書が殺到するなどして、81〜82年にかけて公開された劇場版三部作につながるのです。しかし、やはりビジネス的見地から見るとガンプラブームは見逃せません。80年から発売されたガンプラは、30周年を迎えた10年当時で総販売個数は4億個を突破して話題になっていましたが、実は84年の時点で1億個を突破していました。発売開始から5年で1億個というのは、極めて早いペースです。81年の第一次ガンプラブームの頃は、主役機のガンダムが売り切れ続出なのはもちろん、敵機のザクなどでも入手困難な時期があったといいます。人気プラモデルを抱き合わせ販売する玩具店が出てきたり、欲しいガンプラを入手できなかった大人が子供から奪う“ガンプラ狩り”など、社会問題に発展するほど一大ムーブメントとなっていました」(同)

●再びブームを生んだ“中興の祖”SEED

 その後、85年に『機動戦士Zガンダム』、86年に『機動戦士ガンダムZZ』と、続編テレビアニメが放映され、シリーズとしての人気を確固たるものにする。

「しかし、人気が常に右肩上がりだったわけではありません。88年の劇場版『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』(松竹)で、一旦シリーズの人気はピークを迎えてしまいました。その後もOVAシリーズ、ゲーム、ガンプラといった関連商品で堅実に収益は上げていましたが、93年の『機動戦士Vガンダム』(テレビ朝日系)でテレビシリーズを再開した当時は、人気は頭打ちの印象が否めませんでした。実際、『機動戦士Vガンダム』以降の10年ほどは、全盛期の売り上げに比べれば大きく落ちていたと思います。しかし、そのシリーズの閉塞感を打ち破る作品が02年に登場したのです。21世紀最初のテレビアニメシリーズとして注目を集めた『機動戦士ガンダムSEED』です。登場人物のキャラクターデザインが、それまでのガンダムシリーズとは打って変わって萌え絵のようになっていたため、賛否両論が巻き起こりました。特に古参ファンからは批判の嵐でした。結果的にみれば、『機動戦士ガンダムSEED』の大ヒットは、そのキャラデザインが大きな要因となったことは揺るぎない事実です」(昌谷氏)

●女性ファン層を開拓

「『機動戦士ガンダムSEED』は、従来のガンダムシリーズとは違うマーケットを開拓しました。特に、多くの女性アニメファンの獲得に成功しました。主役のキラ・ヤマトをはじめとしたモビルスーツに搭乗する主要美少年キャラたちが、アニメオタク女子層の心をしっかりつかんだのです。『機動戦士ガンダムSEED』は直近の作品よりガンプラの販売個数も多かったのですが、女子人気のおかげで登場人物のフィギュアや、アニメ関連商品専門店・アニメイトで売っているようなキャラものグッズの売り上げも大幅に伸びました。コスプレイヤーたちにガンダムキャラを浸透させたのも同作品。つまり、従来のガンダムビジネスはモビルスーツ人気に頼るところが大きかったのですが、『機動戦士ガンダムSEED』では登場人物人気でも売り上げを伸ばすという新たな柱を創出したわけです。DVDもトータル100万枚以上を売り上げるほどの勢いで、DVDの発売イベントでは登壇した声優さんに女性ファンの黄色い声が飛び交っていたのが印象的でした。そして、この美少年キャラで人気を集めるという流れは、続編である04年から放送された『機動戦士ガンダムSEED DESTINY』(TBS系列)、07年から放送された『機動戦士ガンダム00』にも踏襲されました。実は95年放送の『新機動戦記ガンダムW』でも、主要5人の美少年キャラに女性ファンはついていたのですが、大きなムーブメントは起こせていなかった。しかし『機動戦士ガンダムSEED』は、シリーズの人気を再び爆発的なものに押し上げたといっても過言ではなく、間違いなくガンダムの中興の祖となった作品でした」(同)

●ガンダムUCは新たなビジネスモデルを創出

 こうして802億円も売り上げる現在に続くのだが、ここ数年の人気を牽引してきたのは『機動戦士ガンダムUC』。アムロ・レイとシャア・アズナブルの最終決戦を描いた劇場版『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』から3年後を描いた作品だ。

「シャアは『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』のラストで行方不明となるのですが、『機動戦士ガンダムUC』ではシャアと同じ容姿をしたフル・フロンタルという人物が登場し、シャア本人なのかどうかという議論を巻き起こして大きな話題を呼びました。また、古参ファン垂涎のモビルスーツや人物が多数登場するのも特徴。主役機のユニコーンガンダムは、アムロの乗機であるv(ニュー)ガンダムに採用されていたサイコフレームを全身に使用しているという設定ですし、フル・フロンタルはかつてのシャアの乗機を彷彿させる真っ赤なシナンジュに搭乗しています。ほかにも、かつてシャアが乗っていた百式の発展形であるデルタプラスも登場するなど、盛りだくさんです。登場人物も贅沢で、ブライト・ノアやカイ・シデンといったファーストガンダムの人気キャラも登場しているので、昔ながらのファンにはたまらない作品に仕上がっています。そして同作は劇場公開、インターネット有料配信、ブルーレイ販売といった複数の公開形態を短期間で同時進行させるという変わったかたちで展開し、ビジネス的ヒットにつながっています。全7話を各1時間程度にまとめて発表していくという形態なのですが、5話目に当たる『機動戦士ガンダムUC 5』は、12年のオリコン年間ブルーレイディスクランキングで、年間12.4万枚を売り上げて総合1位を獲得するほどでした。これから発売される最終巻『機動戦士ガンダムUC 7』も、それ以上の売り上げが期待できます」(同)

『機動戦士ガンダムUC』人気は、他のSF作品にも多大な影響を与えたという。

「1本1時間程度のシリーズ作品を複数の公開形態で同時進行的に発表していくというのは、この『機動戦士ガンダムUC』が初めて取り入れた方式だったのですが、漫画『攻殻機動隊』の新シリーズ劇場用アニメ『攻殻機動隊ARISE -GHOST IN THE SHELL-』(ワーナー・ブラザース)や、『機動警察パトレイバー』の実写版シリーズ『THE NEXT GENERATION パトレイバー』(松竹)でも、似たような形態を採用しています。『機動戦士ガンダムUC』のビジネス的な大ヒットを受けて、『攻殻機動隊』や『パトレイバー』といった人気作も追随したのは明らかです。したがって、アニメや付随するコンテンツの売り出し方において、新しい手法を確立したという点でも『機動戦士ガンダムUC』は高い評価を得ています」(同)

 35年前の立ち上げ当初は順風満帆ではなかったガンダム。ときに批判を受けながらも、その時代その時代に即した攻めの戦略を取ってきたことで、年間802億円も動かすモンスターコンテンツにまで成長してきたということなのだろう。
(文=編集部)