小宮良之のブラジル蹴球紀行(3)

 日本はコートジボワールに敗れた。当惑。失望。落胆。そんな感情の渦巻きが試合から一夜明けても収まらない。

「コートジボワールは、ドログバの登場が試合の流れを決定的に変えた。一方、ザッケローニ監督の長谷部→遠藤という交代はポジティブな結果をもたらさなかった」

 スペイン最大のスポーツ紙「Marca」は、このゲームをそう検証している。第三国の客観的な寸評だけに、説得力がある。

 コートジボワールのエースであるドログバは、スピード、フィジカルに長(た)けているわけではなく、周りの選手を使うインテリジェンスを持ち合わせたセンターフォワードだ。彼の登場により、日本の陣中にくさびを打ち込んだような状態になった。バックラインを押し下げる一方、右サイドから積極的にクロスボールを放り込み、立て続けに2得点を奪う原動力になっている。

 ドログバはダイナミックさばかりが取り上げられるが、左サイドバック、長友佑都に蓋(ふた)するため献身的に走り、基本的なプレイに忠実だった。

 結局、たった一人に日本はかき乱された。相手エースを潰すという機能を持っていなかった。それどころか、ボール支配率で43%と苦戦。シュート数に至っては7本で、20本を放ったコートジボワールの約3分の1だった。

「敵陣近くでできるだけ長くボールを回し、ゴールを狙う」という"攻撃こそ最大の防御"、"肉を切らせて骨を断つ"という戦術は空転した。

「向こうも力はあるし、その中で自分たちがやりたいことができないこともある。自分たちのサッカーができなかった」

 この日、11人の中で最も効果的なプレイを見せていた内田篤人は、慎重に言葉を選びながら言った。

 老獪な試合運びを見せたのは、戦前は「無垢なチーム」という下馬評だったコートジボワールの方だったことになる。日本のプレスを完全に外し、前に出てきたところを両ワイドに人を走らせた。シンプルだが、効果的だった。とりわけ、日本の"崩す力はあるが受けにまわると脆い"左サイドの手薄さを突いてきた。

「いい守備がいい攻撃を作る」

 それがフットボール戦術の昔からの定石だが、アルベルト・ザッケローニ監督率いる日本代表は、逆の発想に立っている。すなわち、守るための守りを否定しているわけだから、「もっと守備的に」という批判は的外れだろう。

 しかしながら、時間の経過ごとに攻守両面のプレーインテンシティが弱くなっていった事実は看過できない。

「コンディションが大事」

 そうザッケローニは言い続けてきたが、選手の動きは明らかに重かった。それは強烈な湿気だけが理由ではなく、準備の失敗と置き換えられる。連続失点した「魔の2分間」はクローズアップされやすいが、その前後も日本は押しまくられていた。いつ失点してもおかしくはなかった。そして、"ここが難所"という場面で出たドログバに壊滅させられたのである。

 心理的衝撃の強い試合は、現場の取材者の脳内に、無数のたら、れば、を発生させる。

「選ばれたら、日本のために戦います」

 W杯メンバー発表前、豊田陽平はその志を語っていた。

「僕をW杯の日本代表に選んでくれるなら......たとえピッチに立てなくても、なにかの役に立ちたい。対ドログバの練習台だってやりますよ。スタッフが要求した通りの動きをしてみせます。それが日本のためになるなら。まあ、代表に選ばれるような選手は、みんなきっとそういう身を捨てる覚悟を持っているでしょうけどね」

 この期に及んで、何かが決定的に変わることはない。陳腐な打開策だが、やはり覚悟を固めるしかないだろう。19日(現地時間)、同じく初戦で敗れたギリシャと、生き残りを懸けた一戦になる。

小宮良之●文 text by Komiya Yoshiyuki