全米オープンはマーティン・カイマーの圧勝で幕を閉じた。開幕前の注目は、悲願の全米オープン優勝とグランドスラム達成に挑むフィル・ミケルソンに集まっていたが、そのミケルソンはまたしても勝利を掴み取ることができず、米国のナショナルオープンのタイトルはドイツ人に奪い取られた。
松山英樹、メジャーに「勝てると思っている」
 パインハーストで初めて全米オープンが開催された99年大会を制したのはペイン・スチュワート。そのスチュワートに惜敗したミケルソンが、15年ぶりにこの地に戻り、勝利を挙げれば、米国のゴルフファンにとっては最高のストーリーだったのだが、残念ながら、それは夢物語と化した。
 なぜ、ミケルソンは一番取りたいメジャータイトルを取ることができないのだろう。ミケルソン自身、その「なぜ」を開幕前に散々考え、彼なりに分析して対策を考えた。
 「僕は好成績を期待していないときのほうが好成績を出す傾向がある。だから今回は、優勝するチャンス、グランドスラム達成のチャンスがある大会の1つという程度に考えて挑むことにする」
 期待値を上げ過ぎないようにしよう。自分で自分にプレッシャーをかけすぎず、できる限り、平常心を保ちながら、いつものようにプレーしよう。ミケルソンはそんな戦いに挑んだが、その戦いに勝つことはできなかった。
 それならば、カイマーはどうだったのかを振り返ってみた。
 開幕前、カイマーは自らの勝利を予想してはおらず、4日間が終わったとき、自分のスコアは「8オーバーぐらいになる」と思っていたという。
 だが、初日も2日目も「65」をマークして単独首位に立ち、予選2日間の最少スコア記録を更新するほどの好プレー。「自分でも驚くほどのグッドショットがいくつもあって、びっくりしたなってキャディに言ったぐらいだった」と、胸躍る発進ぶりだった。
 だが、そこから先のカイマーの思考の保ち方に目を見張るものがあった。
 「2日間で10アンダーなんて普通ではない。あれだけの好発進をすると、平常心を保つのは難しかった」
 3日目に「72」とオーバーパーを喫したことで、逆にカイマーの気持ちは少し落ち着いた。だが、2位に5打差で迎えた最終日の朝は、5打も差があったにも関わらず「やっぱり普通ではいられなかった。プレッシャーを感じずにはいられなかった」。
 カイマーの胸がドキドキと高鳴ったのは、2つ目のメジャータイトルがかかっているからというよりも、むしろ「予選2日間のような非日常的な何かがまた起こるのではないか」という奇妙な予感を抱いたからだと言う。
 良かれ悪しかれ、非日常的な何かが起こると、ちょっとした何かがきっかけとなってコントロール不能になっていく。それが一番怖かったのだとカイマーは振り返った。
 「序盤から安定したショットが打てて、前半を1アンダーで回ったとき、ようやく気持ちが落ち着いた。よし、僕は自分を自分のコントロール下に置いている。大丈夫。僕は日常の中にいる。平常心を保てている」
 そう思えたことが、2つ目のメジャータイトルを勝ち取ることができた最大の理由。圧勝したカイマーは平常心を保つ戦い、非日常を日常に変える戦いに勝ち、全米オープン・チャンピオンになった。
 そして、カイマーは、こうも言っていた。
 「プレイヤーズ選手権の勝ち方と今回の勝ち方はまるで違う。異なる勝ち方ができるたことは大きい。そして、今日の10番はボギーを喫し、エリック・コンプトンとの差は4打に縮まったが、そこでも平常心を保つことができた。その2つが僕の勝因。その2つが僕を人間として成長させてくれた。さまざまな状況に対応できるゴルファーになることができた」
 今年の全米オープンはイーブンパーとの戦いにはならなかったが、その代わり、平常心との戦いを制したカイマーが、大会を制し、パインハーストは日常を取り戻した。
文 舩越園子(在米ゴルフジャーナリスト)
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