バケツとタボ(柄杓)は、フィリピンで暮らすためには必須アイテムだ【撮影/志賀和民】

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フィリピン在住17年。元・フィリピン退職庁(PRA)ジャパンデスクで、現在は「退職者のためのなんでも相談所」を運営する志賀さん。仕事のパートナー家族と同居する志賀さんの悩みは、次から次へとモノがなくなること。フィリピン人特有の「借りたものを返さない」考え方は、土地の購入や商売の名義借りにまで及ぶというので、ご用心。

「もらう」「借りる」「預かる」はフィリピーノにとって同義語だ。

 フィリピン人にお金を貸しても戻らない、預けておいた金を使われてしまった、などという経験は誰もがしていると思う。最近もフィリピン通の退職者の方が、「自分が住むために知り合いの家の改築資金にと100万円渡したら、いっこうに工事は始まらず、渡したお金は相手の家族にお産の費用やらに使われてしまった」と嘆いていた。

 どんな事情があろうが、いったんお金を渡したら、その使い方はお金を手にした人間が決めることで、その人の考える優先順位で処理されるのだ。もちろん貸主に断るようなことはしない。だからお金を渡すときは、その使い道についていっさいの権限を委譲する覚悟をするべきで、それがいやなら自分で直接支払えばいいのだ。

こうして、私のタボとバケツは門外不出となった

 先日、夜中に便意を催してお尻を洗おうとしたら、タボ(柄杓)とバケツが風呂場にない。フィリピンでは用をたした後、タボでお尻を洗うから、タボがないというのは死活問題だ。かといって、こんな夜中に大声でトイレから「タボ〜〜」と怒鳴るわけにもいかない。

 落ち着いて考えてみると、トイレにはお尻を洗うためのシャワーがついている。これを上向きにお尻に当てると、勢いのある水がお尻を経由して顔に命中する恐れがあるので、普段は使わないでいるやつだ。

 そのシャワーを使って何とか危機を克服し、翌朝、ゲスト用の風呂場を見ると、私のタボとバケツが鎮座している。いったい誰がなぜ私の風呂場からタボを持ち出して、しかもそのままゲスト用の風呂場に置いておくのか、ふだん私が使っているものを持ち出したら困るとは思わないのだろうか、などなど、自問自答が続く。

 しかしこんなことで大騒ぎをすると周囲に白い目で見られるから、何事もなかったように観察を開始する。その甲斐あって、我が家に遊びに来ている小学生の子どもたちが、私のタボとバケツをゲスト用の風呂場で身体を洗うために使ったことを突き止めた。

 ゲスト用の風呂場にはもちろんホットシャワーがついているが、子どもはバケツに水を汲んでタボを使って身体を洗う。ゲスト用の風呂場にはタボもバケツも置いていなかったから、私のものを使うようマム・ジェーン(私の事務所の相棒)の指示があったそうだ。マム・ジェーンの命令とあれば、子どもたちは免罪される。彼らにとって「借りたものを返す」という意識はまったくないので、タボを返さなかったことに罪の意識は毛頭ない。

 次に、ジェーンを問い詰める。普段から私は、「私がいないときに私のものを勝手に使ってもいいが、使用後は必ず返すこと」と言っている。ジェーンは私のタボを借りるよう言ったが、それを返しておくようにとまでは指示しなかったようだ。いったん渡してしまったら、後は受け取った者の自由裁量だから、次回使いやすいようゲスト用の風呂場に置いておくのは彼らにとって当然のことなのだろう。そこに元の持ち主の意向を顧みる余地はない。

 結論として、「今回は良しとしよう。次回、このようなことが起きたら二度と私のタボとバケツを使うことは許さない」とした。ジェーンは子どもたちに私の目の前で、きつく私のお達しを伝えていた。しかし案の定、数日後、ふたたび夜中にタボとバケツが行方不明になっていたのだ。ジェーンは、今度はキム(ジェーンの義理の娘)のせいだと言うがウソくさい。それで約束どおり、私のタボとバケツは門外不出となったのだ。

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