「いい意味でサプライズを」と言い切った本田…先制弾が日本の数少ない希望に

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 1時間に何度も暴風雨がやってくる最悪の天候の中、行われた6月14日の2014年ブラジル・ワールドカップ初戦、コートジボワール戦(レシフェ)。両者ともに堅い入りを見せた前半16分、日本は左タッチライン際でスローインを得た。これを長友佑都が投げ、香川真司がリターン。長友は狙いすましたように中央へラストパスを送った。ここに待ち構えていたのが、エース・本田圭佑。前日に28歳になったばかりの勝負師は、事前にシュートコースを一瞬にして思い描いていたのか、迷うことなく左足を一閃。弾丸シュートを蹴りこみ、ネットを激しく揺らした。

 値千金のゴールを叩き込んだ彼は、4年前のカメルーン戦(ブルームフォンテーヌ)で先制点を奪った時と同じように、一目散にベンチへ駆け寄り、アルベルト・ザッケローニ監督やチームメートと歓喜の抱擁を交わした。4年前は先輩の中村憲剛に「ゴール取ったら俺らのところに来いよ」と言われていたのを思い出して、ほんの少し遅れて走っていったのだが、今回の本田には“俺のゴールでチームを勝たせるんや”というリーダーの風格が見て取れた。ザック監督が練習で何度も取り入れていた素早いスローインからうまく点を取ったことにも、満足感を抱いたのではないだろうか。

 指宿合宿途中だった5月24日から日本代表に合流して3週間あまり。日本の絶対的エースである本田が本来の輝きをなかなか取り戻しくれないことを日本中が不安視していた。本人は「自分を大丈夫かという声が挙がっている? どこが大丈夫じゃないんですか。それを言っている人は、僕に求めているものがすごく高いんでしょうし、そういう人には大会が終わって感謝したい。逆にこれで良しとしている人には『本田圭佑はこれ以上もっといいパフォーマンス出せるよ』ってところは見せていきたいし。どちらに対しても、いい意味でサプライズを起こせるといいと思います」とネガティブな評価を一蹴。重要な本番で結果を出すことだけを追い求めてきた。この先制弾は存在価値を再認識させるだけのインパクトがあった。それ以外の前線からの守備やタメを作る動きも含め、この日の本田はアタッカー陣の中で最も効果的な仕事をしてみせた。

 けれども、彼は試合後のミックスゾーンを無言で通り過ぎた。ご存じの通り、日本は後半に入ってから失速。コートジボワールが温存していたディディエ・ドログバを投入してから4分後にウィルフリード・ボニー、その2分後にジェルビーニョに立て続けてゴールを奪われ、瞬く間に試合をひっくり返されたのである。それも中盤でボールを奪われ、右サイドバックのセルジュ・オーリエにクロスを蹴りこまれるというパターンを2度も繰り返してしまった。90分間のボール支配率も57%対43%と圧倒され、シュート数もコートジボワールの20本(うち枠内シュートが10本)に対して、日本はわずか7本(同4本)にとどまった。

「自分たちのやりたかったことを相手にやられてしまった」と途中出場した遠藤保仁も悔しさをかみ殺すように語っていたが、本田もまさに同じ思いだっただろう。理想高き男がワールドカップ通算3点目を挙げたからといって、チームの敗戦に納得するはずがない。この日の無言は自分自身、そしてチーム全体への不完全燃焼感の表れだったに違いない。

 ただ、彼は11日の取材対応の際、こんな話をしていた。

「初戦転んだとしても、後の2戦勝てばいいというような考えですけどね。理想はもちろん初戦勝って、その後、勢いよく行くってことなんでしょうけど、だいたいそんないい風に行かないのが今までの人生経験なんで」と。つまり、ここから巻き返せば、グループリーグ突破の道は開けてくると前向きに考えているのだ。そのためにも、今回の逆転負けからいち早く気持ちを切り替えて、19日のギリシャ戦(ナタル)へ向かわなければならない。

 コートジボワール戦の数少ない希望となった本田のゴール。それが次も生まれ、今度こそチームを勝利に直結してほしい…。日本中がそう祈り続けている。

文=元川悦子