トヨタ・プリウスに代表されるハイブリッドカーが街中にあふれ、さらにニッサン・LEAFのように100%電気の力で走行するEV(フルEV)の姿を見かけることも多くなってきましたが、今度は水と空気を燃料にして走行する「空気アルミニウム電池自動車」の開発が進められています。2017年にはルノー・日産アライアンスによって実用化される予定であることも明らかになってきたこの技術は、従来のガソリンの替わりに普通の水をタンクに給水し、アルミニウムと反応する際に生じる電力をエネルギーとして利用するというもので、理論上は1600kmという距離をノンストップで走り続けることが可能とされています。Renault-Nissan To Use Phinergy’s Aluminum-Air Battery - HybridCars.comhttp://www.hybridcars.com/renault-nissan-to-use-phinergys-aluminum-air-battery/An Electric Car That Can Travel 1,600 Kilometers Unveiled By Alcoa And...http://www.autogo.ca/en/news/technology-and-accessories/an-electric-car-that-can-travel-1-600-kilometers-unveiled-by-alcoa-and-phinergy水と空気で走る究極のエコカーともいえる車両を開発したのは、イスラエルに拠点を置くPhinergy(フィナジー)社と、世界でも有数のアルミニウムおよび関連製品メーカー「Alcoa(アルコア)」のカナダ法人であるAlcoa Canadaの開発チーム。両者が開発した空気アルミニウム電池を搭載した車両はすでに走行実験を済ませており、F1カナダGPが開催されているカナダ・ケベックのジル・ヴィルヌーヴ・サーキットでのデモ走行も実施されています。そのデモ走行の様子が以下のムービーに収められています。Alcoa-Phinergy electric car demonstration at Circuit Gilles-Villeneuve - YouTube走行デモに用いられたテスト車両。ベースとなっているのは、トヨタとPSA・プジョーシトロエンによる合弁企業が開発し、シトロエンが販売していたシトロエン・C1とみられます。左側のドアには、Phinergy社の赤いロゴがデザインされています。反対側にはAlcoa社のロゴが見えていました。トランク部分には、どーんと空気アルミニウム電池のシステムが搭載されています。黒い姿を見せているのがシステムのメインとなる電池モジュール。正確なサイズや重量などは公開されていませんが、25枚のユニットをつなげたモジュールが上下に2台配置されており、合計で50枚のユニットから構成されています。緑あふれるジル・ヴィルヌーヴ・サーキットの本コースに入りました。順調に走行する車両。さすがにレーシングスピードでの走行というわけには行かなかったようですが、4名の乗員を乗せて順調にコースを周回する様子。2017年の実用化に向け、高いレベルまで技術開発が進められています。Phinergy社が開発して実用化目前に達している「空気アルミニウム電池自動車」のシステムについて、以下のムービーで解説されています。Phinergy drives car by metal, air, and water - YouTube空気アルミニウム電池とは、空気中の酸素をアルミニウムで反応させることによって電力を発生させる電池。その仕組みは古くから知られていたものでしたが、実用化にはさまざまなハードルが立ちはだかっていました。電池の内部では薄いアルミの板が負極の電極(Metal Anode)として持ちいられており、これに電解液(Electrolyte)となる水と、正極としての空気の層(Air Cathode)が配置されるいう構造になっています。通常の電池では正極にも金属を用いる必要があるのですが、今回はこれを空気に置き換える技術が開発されたことで大幅な軽量化が可能になり、高い重量エネルギー密度を実現して長い航続距離を得ることになった、というわけです。PhinergyのCEOであるAviv Tzidon氏は、この技術がもたらすのは「非常に高いエネルギー密度」であり……二酸化炭素を一切排出しない『ゼロCO2エミッション性』環境に負荷を与えないことなどによるサスティナビリティ(継続可能性)そしてほぼ100%のリサイクル性を挙げています。用いられるアルミの電極は、Alcoa社のような企業が提供するアルミナ(酸化アルミニウム)から製造されます。電池の中で化学反応を起こしたアルミ電極は水酸化アルミニウムへと変化してしまい。以降はもう電極として利用することはできなくなります。そのため、Phinergyではアルミ板を交換可能なカートリッジ式とし、寿命を迎えたアルミ板を取り外して再利用するというリサイクルシステムを作り上げています。取り外されたアルミ板は再処理が施され、新たなアルミ素材(アルミナ)として再利用される、という仕組みになっています。この車両に実際に試乗したBloombergの記者によるレポートがこちらのムービー。Phinergy 1000 Mile Aluminum Air Battery On The Road In 2017 - YouTube手に持っているのが、実際に使われているアルミ電極です。ムービーを見るとわかりますが、少し派手なのを差し引くと普通の乗用車のように走行するデモ車両。運転の様子も、特に変わった点はありません。そしてたまに必要になるのが、電池用の水の給水。ガソリン車と同じように、給水タンクにホースを差し込んで水を流し入れます。実際に給水されている水を飲んでみる2人。このように、まったく害のない普通の水が使われるのも特徴の1つとなっています。Alcoa社によると、化学変化を起こし続けるために必要な給水は通常で1か月から2か月に一度でOKとのこと。なお、この技術は自動車向けの用途に限らず、さまざまな方面での活用が可能とのこと。停電時のバックアップ電源や、災害時に電源を確保するための予備電源としての活用も可能とされています。これらのムービーを見てもわかるように、空気アルミニウム電池自動車の技術はかなり実用化に近いところにまで達しているようです。実際にアルミ板をリサイクルする際には大きな電力が必要になるため、トータルで考えた二酸化炭素排出量やコストがどうなっているのか、注意深く見つめることも重要ではありますが、空想の世界でしか存在しなかった「空気と水で走るクルマ」がいよいよ実現するという瞬間が近づいてきているのは確実なようです。・関連記事Googleのハンドル・ペダルがない自動運転カーの性能に圧倒されるムービーまとめ - GIGAZINE自動車線変更・自動追い越し・自動停止などの自動運転ができる「ニッサンLEAF」がついに日本の公道で実証実験開始へ - GIGAZINEモノ作り大国ニッポンの礎を垣間見た、学生の作るEVカー「NATS EV-Sports Prototype02」 - GIGAZINE2014年から納車開始のTESLA「モデル S」は高級感あふれる正統派EVセダン - GIGAZINE3億円を投じて東レが作った時速147kmで走るカーボン製電気自動車「TEEWAVE AR1」の実車を間近で撮影してきました - GIGAZINEトヨタの次世代パーソナルモビリティ「i-Road」チョイ乗りレポ - GIGAZINEGoogleが自動運転カーの体験試乗会を一部報道陣向けに実施 - GIGAZINEAppleの次の一手は「電気自動車」と「医療機器」分野への進出である可能性が増大 - GIGAZINE日産が汚れが付かない自動車を開発 - GIGAZINE自動車のワイパーが不要になる新技術をマクラーレンが開発中 - GIGAZINEコンピューターが自動車を運転する世界で人間が考えるべき問題とは? - GIGAZINE