それぞれの思いを抱えながら…全米オープンが幕を開ける(撮影:上山敬太)

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 いよいよ明日、全米オープンが開幕する。パインハーストが舞台となる今大会の最大の注目選手は、何と言ってもフィル・ミケルソンだ。

 ミケルソンはパインハーストで初めて全米オープンが開催された99年大会で、ペイン・スチュワートと激しい優勝争いを演じた末に惜敗し、2位になった。あのとき、ミケルソンの愛妻エイミーは初産を控えており、ミケルソンは緊急用のホットラインとなるポケベルをゴルフバッグに忍ばせて戦っていた。
 72ホール目で4.5メートルのパーパットをねじ込み、勝利を決めたスチュワートは、敗者となったミケルソンの頭を掴むように抱えながら「良き父親になれ!」と激励した。歴史に残る名場面だ。
 だが、そんなスチュワートの激励むなしく、それ以後にミケルソンが全米オープンでぎりぎりで敗れ、2位になること5回。愛国心に富み、「アメリカ人に生まれた以上、合衆国のナショナルオープンを制するのは夢の夢だ」と幾度も幾度も語ってきたミケルソンだが、彼はいまだに全米オープンを制覇したことがない。
 しかし、昨年の全英オープンを制したことで、ミケルソンはグランドスラム達成に一気に近づいた。そして最後に残ったタイトルが全米オープン。ミケルソンの長年の悲願は、そうやって一層意味深き悲願と化し、今、彼の目前に立ちはだかっている。
 「このチャンスを絶対にモノにしたい」
 だが、パインハーストで99年大会(2位)にも05年大会(33位)にも出場してコースを知っているからと言って「それが必ずしも有利になるとは思わない」。
 今大会ではコースが大幅に改修され、かつての深いラフは取り払われて、代わりに野生植物を植えた砂地が広がっている。入れたら出すだけだった粘っこいラフに比べれば、今大会の砂地は「10回中9回はグリーン近くまでもっていける」と、やや楽観視。とはいえ、「以前とは別モノのコース。過去の経験はさほど役には立たない」とミケルソンは言う。
 さらに言えば、今季のミケルソンはゴルフそのものにおいて苦しんできた。故障や不調が続き、とりわけグリーン上で病んできた。2週前のメモリアル・トーナメントからはクロウグリップまで試し始め、今週もクロウグリップを「試すつもりではいる」。
 だが、今のミケルソンが最も苦しんでいるのは技術面よりメンタル面だ。全米オープンを間近に控えた大事な時期にメモリアル・トーナメント会場内でFBIからインサイダー取り引きに関する事情聴取を受けたのは、まったく想定外の出来事だった。「やましいことは何もない」と胸を張ってみせたが、心が揺れなかったはずはない。
 そして何より、全米オープン制覇をあまりにも長く深く夢見てきたせいで、「どうしても自分で自分にプレッシャーをかけてしまう」と、ミケルソンは言った。
 「だから今年は、チャンスがある大会の一つぐらいに思うことにした」
 グランドスラムに王手をかけるビッグプレーヤーであっても、ミケルソンはミケルソンなりに苦しみながら明日の開幕に備えていた。
世界一のスコット
ホットな松山
 「苦しんでいる」という意味では、世界一のプレーヤー、アダム・スコットも同じだ。
「これまで僕は全米オープンで好成績を出せたことがない」
 それは、イーブンパーとの戦いと言われる全米オープンの大会スタイルやコースセッティングが自分のゴルフに合わないせいだと思っていたそうだ。
 「でも、去年(マスターズを制して)自信が高まった。これまで全米オープンで成績が悪かったのは、自分に合わないせいだと思ってきたけど、これからは、単なる偶然だったんだと思うことにした。今年は自分にとっての全米オープンの位置付けを変えられるかどうかの転機になる。全米オープンでも優勝争いに絡みたい。そう、このパインハーストは僕に合っているんだ!」
 そう思うことで、自分自身を奮起させようとしていた。
 そのスコットは、メモリアル・トーナメント最終日に松山英樹と同組で回り、松山の勝利への軌跡を間近で眺めた「証人」だ。
 「ヒデキはとても強くて、上手い。弱点らしい弱点が、ほとんど見当たらない。彼は今後、やればやるほど、まだまだ成長していく選手だ。僕が思う彼の今の最大の長所はメンタル面の強さだ。(メモリアルで)あの18番でバーディを奪い、プレーオフを制したあのメンタリティの強さはすごい」
 しかし、世界ナンバー1にそれほど絶賛されたというのに、松山自身は自分のメンタル面が強いか弱いかなんてことは、おそらく今は考えてもおらず、全米オープン開幕を控えての緊張や盛り上がりも「全然ない」と飄々としている。
 とはいえ、松山だってゴルフにおいては苦しんでいる部分がもちろんある。パインハーストのコースの状態は「グリーンとフェアウェイの柔らかさに差があるから、手前から転がしていけない。そこらへんに難しさがある」。
 USGAは4日間に最低1日は「given day」と名付けた「スコアが伸ばせる日」を設け、その日は、いくつかのホールのティが思い切り前に出されて距離が短くなる。そうした全米オープンならではの特徴や事情に、まだ出場2回目の松山が精通しているはずはない。その日その日のティの位置を見て「しっかりマネジメントしていければいい」と謙虚に慎重に構えている。
 目指すべきスコア、出せそうなスコアも「全然見えない」と、そこだけは少々、不安そうに首を傾げた。
「1打1打、頑張っていくしかない」
 結局、最大注目のミケルソンも、世界一のスコットも、ルーキーにして初優勝を挙げたばかりのホットな松山も、156名の出場選手全員が、1打1打に全身全霊を傾け、挑んでいくしかない。
 それがゴルフ。それがイーブンパーとの戦い。それが、全米オープンなのだから――。
文 舩越園子(在米ゴルフジャーナリスト)

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