今週はこれを読め! SF編

 5篇集録の短篇集。なじみやすいアイデアや設定から展開される、懐かしい匂いがするSFばかりだ。「現代SFってサイバーなんとかとかポストなんとかとか、どうもヤヤコシくてかなわん」というむきにも、本書は安心してお薦めできる。サイバーでもポストでもなく『サムライ・ポテト』ね。

 表題作の主人公サムライ・ポテトはハンバーガー・チェーンの宣伝キャラクターで、ロボット化されて店頭に配備されている。こうしたコンパニオン・ロボットが日常化した近未来の物語だ。カフェの店頭にはリトル・アリス、ドラッグストアにはイワサキ先生、書店にはヨムゾーといった具合。同じ商店街のロボット同士は短距離通信で情報交換をしている。ある日、サムライ・ポテトは顔にあざをつくった少年を目撃する。そして、リトル・アリスやイワサキ先生からの情報を重ねあわせて、その子を虐待しているであろう父親アツミケンを特定した。その男は商店街でたびたびトラブルを起こしている人物だったが、幼児虐待の事実については警察も把握をしていない。駅前交番の小西さんは気のいい警官で、彼に相談すれば犯人を捕まえることができるかもしれない。しかし、犯罪の告発などコンパニオン・ロボットの機能として設定されてはいない。サムライ・ポテトやリトル・アリスが意識を備えているとわかれば、開発メーカーが解決に乗りだすかもしれない。実際、アツミケンとトラブルを起こしたイワサキ先生は、動作不良と見なされ初期化されてしまった。

 アイザック・アシモフ「ロビー」に連なる情緒的なロボットSF----というのが、初読時の印象だった。ストーリーが幼児虐待犯をやっつける方向へではなく、サムライ・ポテトやリトル・アリスが自分でありつづけるための逃走劇へと転じるところが面白い。結末にむけて、物語は哀切の色調をあげていく。ただし、ロボットに内面性が生じる経緯がはっきり描かれておらず、そこがぼくはちょっと物足りなかった。作中のメーカー技術者は「開発環境では確認できない誤動作が、人とふれあうリアルは起こる」と語り、ここをもっと掘りさげればいいとも思ったが、まあ、それはないものねだりというものだろう。この作品の力点は意識の機構ではなく、あくまで登場人物の行動にある。理不尽な状況に追いこまれたときにどうふるまうか? 主題を中心にみた場合、極端にいえばサムライ・ポテトがロボットである必要すらない(ただし、マイノリティの問題へ収束させてしまうと、小説のふくらみを捉えそこなう)。

 本書収録のほかの4篇も、理不尽な状況と対峙する物語だ。もっとも、それが前面に出るとはかぎらず、作品そのものの傾向・趣向はさまざまだ。片瀬二郎は一篇ごとに新しい景色を見せてくれる。たとえば、学園を舞台にした仮想現実SF「三人の魔女」は、理不尽な状況そのものは結末まで明かされない。理不尽を整理するための行為が、逆流して迷路のような日常を構成してしまい、おまけにその行為の主体が誰なのかも(そういう主体が存在していることすら)内部にいる人物たちは気づかない。フィリップ・K・ディック『虚空の眼』の構図を、強迫観念性を抜きに端正に書き換えるとこうなるかもしれない。

「00:00:01pm」は静止時間のアイデアだ。主人公が静止世界に取り残されるのだが、それ自体が理不尽なのではない。通常の時間感覚で動ける彼は、あちこちで事故の瞬間と遭遇するのだが、時間が止まった物体は重く(時間の慣性とでもいうのか)、犠牲者を救助することがほとんどできない。だんだんと彼は無気力になっていく。ところが、この静止世界を動きまわっている者がほかにいることがわかり、物語は急展開する。

「三津谷くんのマークX」はロボットを自作するホビイストの青年が、図らずも国際的なテロリズムに巻きこまれる。好きなことをしていただけなのに、それが政治や闘争に利用されてしまう理不尽。ネット文化時代における自由の行使を、そこにはらむ矛盾も含めて直視した問題作だ。ただし、テーマを社会全体・時代全体のフレームで扱うのではなく、あくまで主人公個人の焦燥や衝動にフォーカスする点が面白い。「サムライ・ポテト」は逃走の物語だったが、この作品は反抗の物語だ。

「コメット号漂流記」はスペースコロニーの大事故により、一区画ごと宇宙へ放りだされた少女の物語だ。サバイバルに主眼が置かれると思いきや、事故の背後に横たわる謀略、さらには人類規模の葛藤するイデオロギーが浮かびあがる。コロニーで幸せに育った少女にとっては、宇宙進出の捻れた歴史も、大人たちが拘泥している禁忌や差別も、すべて理不尽にしか思えない。憤怒に駆られた彼女は反撃に出る。そこに正義があるかどうか、彼女がもたらす一撃が人類にとって最適解かどうかはわからない。そもそも、そんなことはどうでもいいのだ。その感情はいっそ清々しく、物語を躍動させる。

(牧眞司)




『サムライ・ポテト (NOVAコレクション)』
 著者:片瀬 二郎
 出版社:河出書房新社
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