モーターショーにも出展されたトヨタの燃料電池コンセプトカー

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 燃料に水素を使い、大気中の酸素と反応させて動力源となる電気モーターを回転させる――。「次世代エコカーの本命」とも目されている“燃料電池車(FCV)”が、いよいよ市販目前である。

 自動車業界関係者の話を総合すると、トヨタ自動車はセダンタイプのFCVを2015年に発売すると公言しているが、間に合えば年内生産・販売を目指しているという。また、2008よりFCV車『FCXクラリティ』をリース販売してきたホンダも、その改良車を来年にも一般販売する方針だ。

 FCXクラリティで2時間ほどの試験走行と、初の水素補給を体験したという自動車ジャーナリストの井元康一郎氏が、燃料電池車の魅力を語る。

「排気ガスをまったく出さずに、出るのは水だけという究極のエコ技術は確かにすごいのですが、単純に車としての乗り心地も良かったです。エコカーの割には力強い走りで、加速時にはモーター音に加えて燃料電池に水素を供給する際の送風機の音が“キュイーン”と高まっていく。エンジン付きの車とは違ったワクワク感がありました」

 だが、水素の燃料補充には若干の不便さを感じたという。

「補給口を車に接続するのも面倒でしたし、水素が周りに漏れていないかをテスターで計測してからようやく補給が始まります。なにせ、高圧タンクに圧縮水素を送り込むまでは液体水素として配管を通っているので、管の周りはぶ厚い氷がついて冷凍庫のよう。

 冷やされた煙がモワーッと漂っている様子をみると、水素エネルギーを車に補給するのがいかに大変なことかが分かります」(井元氏)

 こうした補給設備や安全性を担保した水素ステーションは、1か所設置するのに4〜6億円と莫大なコストがかかるため、国の目標100か所(2015年中)に対して、まだ25か所の建設しか確定していない。これではFCVが市販されても普及のメドが立たないのは当然だろう。

「水素ステーションの建設には国の補助金も出るが、住居の近くには建設できないなどの制約が厳しく、アベノミクスによる地価の高騰もあって都心部での拡大が遅々として進まない」(大手石油会社幹部)

 また、普及の最大のネックといわれているのがFCVの本体価格。水素を電気エネルギーに変換する部品には1台約100gのプラチナ(白金)が使われている。貴金属としても高価なプラチナが部品に必要なために、「1台あたりの燃料電池システムのコストは600万円以上」(業界関係者)といわれている。

 トヨタはさらなる技術革新と量産化によって、2020年代には500万円以下で販売したいと意気込むが、それも普及速度が頼みの綱といえる。

「かつて1台1億円といわれていた頃から見れば、トヨタやホンダが市販するFCVは1000万円を切る価格になりそうで、コスト削減の努力はうかがえる。

 最初のモデルは富裕層向けに認知度を高め、徐々に価格を下げて東京五輪が行われる2020年には何とか水素ステーションの整備と、大衆車ブランドのFCVを登場させたいと考えている」(業界関係者)

 果たして、大手自動車メーカーの思惑通りにFCVの普及は進むのか。前出の井元氏に、ブレークスルーの分岐点を占ってもらった。

「年間2万台も売れれば将来的に主流になってくると思いますが、その台数を売るためにはやはり安心して航続できる水素ステーションの整備や、ガソリン価格よりも高いと思われる水素の燃料代も安くしなければエコカーとしての魅力は薄れてしまう。

 なによりも、燃費やエコ性能ばかりに縛られすぎて、ユーザーに欲しいと思わせる車体デザインや走りの追求を怠ったら、宝の持ち腐れになってしまうでしょう」(井元氏)

 FCVは1回の水素補給で500kmの航続が可能だとされているが、「安心して走れるのは300km程度」(業界関係者)との見方もある。

 ただでさえ、ハイブリッド車(HV)や電気自動車(EV)など最新エコカーが入り乱れる時代。燃料電池車が選ばれるためには、ユーザーを惹きつける“理由”が必要だ。