【2014年NBAファイナル展望】

 レギュラーシーズン82試合、そしてプレイオフ1回戦、2回戦、カンファレンス・ファイナルを戦い抜き、最終的に勝ち残ったのは、昨年と同じ2チーム――。マイアミ・ヒートとサンアントニオ・スパーズが、現地6月5日、NBAファイナルの舞台で再び激突する。2年連続で同じチームがファイナルで対戦するのは、1997年、1998年の「シカゴ・ブルズ対ユタ・ジャズ」以来だ。

 ヒートは4季連続のファイナル進出となり、1985年のロサンゼルス・レイカーズとボストン・セルティックスに次ぐNBA史上3チーム目の快挙となった。一昨年はカンファレンス・セミファイナルで、昨年、そして今年はカンファレンス・ファイナルでヒートに敗れたインディアナ・ペイサーズのフランク・ヴォーゲルHCは、「3年連続で同じチームに負けるのは、ほろ苦い経験だ。だが、我々は現世代のマイケル・ジョーダン、現世代のシカゴ・ブルズと戦った」と、最大限の賞賛をエースであるレブロン・ジェームズと常勝軍団ヒートに贈っている。現在NBA2連覇中のヒートは、12年前(2002年)にレイカーズが成し遂げた「スリーピート(3連覇)」に挑む。

 一方、球団史上初となる2年連続ファイナル進出を決めたスパーズは、リベンジに燃えている。昨年、3勝2敗で迎えたファイナル第6戦。残り28秒で5点をリードし、もはや優勝が目の前だったにもかかわらず、残り5秒でヒートのレイ・アレンに3ポイントシュートをねじ込まれ、延長に突入した末に敗戦。続く第7戦も落とし、掴みかけたチャンピオンズリングは、その掌(てのひら)からこぼれ落ちた。今年、カンファレンス・ファイナルでオクラホマシティ・サンダーを4勝2敗で退けた直後、ティム・ダンカンはファイナルへの意気込みを聞かれ、こう答えている。

「また相手がヒートで嬉しい。まだ俺たちの口の中には、昨年の苦い味が残っている」

 両チームとも、昨年からメンバーはほぼ変わらない。ひとつ大きく違うのは、昨年はヒートが持っていたホームコートアドバンテージを、今年はスパーズが持つことだ。ただし、昨年まで2−3−2(ホーム2戦→アウェー3戦→ホーム2戦)だったファイナルのフォーマットが、2−2−1−1−1に変更されている。昨年、2勝3敗の状況からホームで2試合を行なえたヒートは、結果論だが、フォーマットの恩恵を最大限に享受したと言っていいだろう。今年のプレイオフ、ヒートはホームで9戦9勝、スパーズは9戦8勝と、ともに本拠地で無類の強さを誇っている。実力はまったくの五分。フォーマットの変更によって、第6戦で決着がつくならヒート、第7戦までもつれればスパーズが有利か。

 ただし、フォーマットがどうであろうと、両チームとも、ここまで積み上げてきたスタイルを崩す気は毛頭ないはずだ。

 奇しくも両チームは、「ビッグスリー」と呼ばれる3選手を擁する。ヒートが誇るビッグスリーは、SFレブロン・ジェームズ、SGドウェイン・ウェイド、Cクリス・ボッシュ。スパーズのビッグスリーは、Cティム・ダンカン、PGトニー・パーカー、SGマヌ・ジノビリの3選手だ。

※ポジションの略称(PG=ポイントガード、SG=シューティングガード、SF=スモールフォワード、PF=パワーフォワード、C=センター)

 しかし、互いにビッグスリーを擁するも、その戦い方は正反対と言ってもいい。例えばヒート。カンファレンス・ファイナル第5戦、レブロンがファウルトラブルに陥り、プレイオフ自己最低の7得点に終わったゲームがあった。ヒートはレブロンのプレイングタイムが24分と制限される中、ペイサーズに善戦するも、90対93の3点差でゲームを落としている。今プレイオフにおいて、レブロンの平均27.1得点、6.8リバウンド、5.0アシスト、1.8スティールは、すべてチームナンバー1。レブロンがコートに立っているか否かで、ヒートは別チームに様変わりする。

 反対にスパーズは、ビッグスリーの誰かがコートにいない状況でも、チーム力も、そのスタイルも一変しない。主軸になるのは前述の3選手であっても、もはや芸術といっていいほど洗礼されたパスワークで相手ディフェンスを切り裂き、ミスマッチが生じれば見逃さず、相手の急所をいやらしいほど突いていく。サンダーとのカンファレンス・ファイナル第6戦、パーカーは足首を捻挫した影響で後半以降、一度もコートに立っていない。だが、チームナンバー1の平均17.2得点を上げているパーカーの不在は、チームの致命傷とはならなかった。ベンチスタートのオールラウンダー、ボリス・ディアウがチームハイの26得点を挙げ、延長戦の末に勝利を収めている。

 現地6月3日、スパーズのグレッグ・ポポヴィッチHCはパーカーの状態について、「日に日に回復している。第1戦はプレイできると思う」と語り、パーカー本人も「準備はできている」と、出場への意思を示した。昨年のファイナルでも、パーカーは左ハムストリングに肉離れをおこした際、以下のように語り、コートに立ち続けた。

「俺のハムストリングはいつ断裂してもおかしくない。レギュラーシーズンだったら10日ほど休んでいただろう。だけど、今はNBAファイナルだ。もし切れてしまったら、それも人生」

 たとえ足を引きずる状態でも、パーカーはファイナルの舞台に立つだろう。もちろん、プレイングタイムを制限せざるを得ない可能性は十分にある。それでもスパーズには、それを補うだけのベンチメンバーが控えている。

 ファイナルでの両チームの注目選手を挙げるなら、ヒートでは、SFラシャード・ルイスとSGレイ・アレンの元シアトル・スーパーソニックスの2選手だ。ヒートのオフェンスは、とにもかくにもレブロンが主体。パワーとスピードを兼ね備えたレブロンを1on1で守れる選手はいない。そのため、ボッシュはインサイドのプレイヤーながら、レブロンのドライブ時のスペースを確保するため、スリーポイントライン付近にポジションを取ることが多い。

 レブロンがペネトレイト(※)からシュートをねじ込めばOK。2枚目、3枚目のディフェンスがたまらずカバーに入れば、レブロンは3ポイントシュートラインで待つアレンやルイスにキックアウトパス。このパスを、プレイオフの3ポイントシュート通算成功数で歴代第1位の記録を保持するアレン、もしくはカンファレンス・ファイナル第5戦で6本のスリーポイントを沈めたルイスが、いかに高確率で沈められるか――。その確率次第で、ヒートの攻撃力は激しく上下する。

※ペネトレイト=ゴールに向かってドリブルで切り込み、オフェンスの突破口を作るプレイ。

 一方のスパーズは、個の力にとらわれないチームカラーに最も適した選手ともいえる、フォワードのディアウに注目したい。インサイドもアウトサイドもこなすオールラウンダーのディアウは、マッチアップによってポジションを変え、どこからでも点を取れる。しかも、プレイオフに入って調子も右肩上がりだ。ファイナルでヒートは、この第4の男に手を焼くだろう。

 そして、誰よりもリベンジに燃えているはずのジノビリにも要注目だ。昨年のファイナルではスランプが続き、第5戦こそ24得点・10アシストと活躍したものの、運命を分けた第6戦では9得点止まり。さらに、ターンオーバー8回とチームに大きなブレーキをかけた。昨年のファイナル後、一度は引退を示唆したものの、現役続行を決断し、今シーズンに臨んでいる。ファイナルで残した後悔は、ファイナルでしか払拭できないはずだ。

 異なる両チームのスタイル。しかし、どちらのスタイルも、ヘッドコーチの戦術、ひいては首脳陣のチーム編成は共通し、「優勝するためには」という思考を具現化したものだ。このファイナルは、どちらのスタイルが優れているのか、「イズム」と「イズム」の頂上決戦と言っていいだろう。

 ヒートも、スパーズも、これまで積み上げてきたスタイルとイズムを貫き通すはずだ。ファイナルの舞台だけ、よそ行きのドレスでなど踊れない。

 ちょうど20年前の話だ。1994年のNBAファイナル――。アキーム・オラジュワン擁するヒューストン・ロケッツと、パトリック・ユーイングの所属するニューヨーク・ニックスが対戦した。ニックスはレギュラーシーズン、そしてプレイオフに入っても苦戦の連続。ただ、ファイナルの切符を手に入れるまで幾度となく窮地を救ったのが、ジョン・スタークスだった。しかし、ファイナルになると、スタークスは絶不調に陥る。それでも、現ヒートのGMであり、当時ニックスのヘッドコーチを務めていたパット・ライリーは、スタークスを起用し続けた。その結果、第7戦までもつれ込む大激戦の末、ニックスは敗退。スタークスは戦犯扱いされた。

「なぜ、スタークスを使い続けたのか?」というメディアの問いに、ライリーは静かに、こう答えている。

「ダンスは、パーティーに連れて行ってくれた者と踊るものだ」

 ヒートはレブロンと踊る。
 スパーズのダンススタイルは決まっている。

 ヒートのスリーピートか、スパーズのリベンジか。今シーズン最後のダンスパーティーの幕が切って落とされる――。

水野光博●構成・文 text by Mizuno Mitsuhiro