「今季は、2月のウェイストマネジメント・フェニックスオープン(4位タイ)、そして先週(クラウンプラザ招待/10位タイ)と、チャンスがありながら優勝できなくて......。悔しい気持ちがあった。でも、こうやって早くに優勝ができてよかった。本当にうれしいです」

 松山英樹が、メモリアル・トーナメント(5月29日〜6月1日/オハイオ州)で米ツアー初優勝を飾った。青木功(1983年ハワイアン・オープン)、丸山茂樹(2001年グレーター・ミルウォーキー・オープンなど3勝)、今田竜二(2008年AT&Tクラシック)に次いで、日本人選手としては4人目の快挙である。

 松山が結果を出しそうな雰囲気は初日からあった。前週のクラウンプラザ招待では優勝争いを演じながら、「不安のほうが大きい」と後ろ向きな発言ばかり繰り返していたが、今大会では強気で、前向きな言動が目立っていたのだ。2アンダー、21位タイとまずまずのスタートを切った初日は、パッティングのよさを強調した。

「パッティングが最近の中ではいちばんいい感触で打てていた。いいタッチで、短いパットも外さなかった。その影響で、ショットもうまく打てた」

 2日目は「67」で回って、通算7アンダー4位タイに浮上。自分の思いどおりのショットが打てず、好スコアにも不満な表情を浮かべていたが、松山が発する言葉からはしっかりと上を見据えた姿勢が感じられた。

「今日は、悪いショットがたまたまピンについてくれたりして、ラッキーなことが多かった。パットの出来も今ひとつ。結果はよかったと思うけど、ここで満足していたら、先週みたいに(最終日でパットが)悪くなる。ともあれ、自分の調子が上がってきて、優勝争いをしているという、自信も自覚もある。ショットも、パットも、ミスが多いなりに、ある程度は打てるようになってきた。その『ある程度』が、『確信』に変わったら、優勝が見えてくると思う」

 ショットが好調だった3日目は、フェアウェーを一度も外すことなく、通算10アンダーと3つスコアを伸ばした。順位も首位バッバ・ワトソン(アメリカ)に2打差の単独3位に上がった。

「優勝争いの終盤、例えば残り5ホールとかでは、いいショットがいいショットでなくなったりして、(結果が)運、不運に左右されることはあると思う。でも、この3日目までの成績に関しては、運、不運はないと思っています。先週(クラウンプラザ招待)は、調子が上がってきていても、まだ不安な部分が多かった。(結果を出す)自信もない感じだった。でも今週は、すっきりとショットが打てている。(最終日にも)自信も持って臨めそう。それで、先週と同じ結果になったとしても、先週と今週では(意味合いが)まったく違う。優勝のチャンス? あるのかな、と思います」

 迎えた最終日、松山は前半、順調にスコアを伸ばした。マスターズチャンピオンのバッバ・ワトソン、世界ランキング1位のアダム・スコット(オーストラリア)らを相手に回しながら奮闘。スコアを通算15アンダーとし、一時は単独首位に立った。だが、16番でダブルボギー、17番でボギーを叩いて、先にホールアウトした通算13アンダーのケビン・ナ(アメリカ)に首位の座を譲った。

 残るは、最終18番パー4。平均スコア4.338と最も難易度の高いホールだ。誰が見てもその状況はかなり厳しいものだったが、松山はピン1.5mに寄せる圧巻のセカンドショットを放つと、4日間連続となる会心のバーディーを奪取。その勢いのままプレイオフを制した。

「最終18番で(首位のケビン・ナと)1打差なのは、わかっていた。バーディーが必要だと思っていました。ティーショットは(右の)バンカーの上くらいに飛んでいって、バンカーだったら『バーディーをとるのは厳しいな』と思ったんですけど、風の影響でフェアウェーまで戻ってきてくれた。うれしかったですね。あれで、(バーディーをとる)チャンスがあるかもしれないと思った。ティーショットの調子はよくなかったけれども、アイアンだけはキレていましたから。最後(の2打目)は、残り175ヤード。7番アイアンでした。小さい頃からいちばん練習していたクラブ。自分を信じて打った。それが、ピンにピタリ。土壇場でああいうショットを打てて、本当によかったと思う」

 松山の圧巻のプレイには、同組でプレイしたアダム・スコットや、大会のホストを務める帝王ジャック・ニクラウス(アメリカ)も手放しで称えた。

「ヒデキの18番のプレイを見られて、今日はとてもハッピーだった。あのセカンドショットで試合に勝つチャンスができたんだからね。昨年の10月に(プレジデンツカップで)一緒にプレイしたときから、ヒデキは素晴らしい選手だった。世界でもベストプレイヤーに挙げられるひとりだよ。今回の勝利で、大きな自信がつくだろうし、ますますうまくなっていくと思う」(アダム・スコット)

「マツヤマは、これから10年、15年と、長い間活躍する選手になる。何より、彼のスイングのテンポが素晴らしい。そして、すごく落ち着いている。16番で池に入れたときも、まったく動じていなかった。パッティングのストロークも非常にスムーズだ。それが、22歳でできているのが素晴らしい」(ジャック・ニクラウス)

 また、ゴルフジャーナリストの三田村昌鳳氏は、松山にとって今回の勝利は「いろいろな意味で大きな価値がある」と語る。そのうえで、2週間後に迫った今季メジャー第2弾の全米オープン(6月12日〜15日/ノースカロライナ州)への期待も膨らむという。

「松山はもともと米ツアーでも勝てるポテンシャルを持っていたけれども、ゴルフ以外のこと、例えば移動とか宿泊とか、そうした米ツアーで戦う環境(『チーム松山』のチームワークも含めて)に慣れてきたことが、今回の優勝につながったと思う。また、今回は周りが崩れてチャンスが回ってきたことに、彼の"運"の強さを感じる。というのも、もし今回勝てていなかったら、いろいろな重圧とか、煩(わずら)わしさというものが増して、優勝という"壁"がさらに厚くなっていたと思うからだ。勝てる力があっても、なかなか結果が出ないと精神的に参ってしまう。すでに何度かチャンスを逃してきた松山は、そうした領域に入りそうな気配があった。しかし、まさにちょうどいい時期、優勝への壁が強固になる直前に、松山はその壁を打ち破った。その価値は大きいし、松山の"強運"を感じる。

 そういう意味では、これからがますます楽しみ。1勝したことによって、今後2年間の米ツアーのシード権が保障されるなど現実的な特典と同時に、精神的な特典というものも増えるからだ。自分のペースで試合に臨むことができるし、あらゆるトーナメントにおいても、より思い切ったプレイができる。もちろんメジャー、近いところで言えば全米オープンにおいても、試合への入り方、気持ちの持ち方がこれまでとはまったく違ってくる。メジャーとなれば、当然セッティングは非常に厳しくなるけれども、精神的な部分でさらなるプラスアルファーを得た今の松山なら、十分にチャンスはあると思う。今回も、結果的には世界ランキング上位者と争って勝っているわけだから、ここで得た"自信"は本当に大きいと思う」

 見事、米ツアーで結果を出した松山。日本人初のメジャー制覇を成し遂げる日も、そう遠くはないかもしれない。

武川玲子●協力cooperation by Takekawa Reiko