5月30日金曜日、東京・新宿ピカデリーにて、公開中の映画「たまこラブストーリー」のスタッフ舞台挨拶が行われた。この舞台挨拶は、作品の好評とそれに伴う上映期間の延長を受けて、急遽企画されたもの。本舞台挨拶には山田尚子監督、演出を担当した小川太一、プロデューサー・瀬波里梨が登壇した。

匠の技を見せた撮影チーム
 
トークセッションの冒頭、山田監督は改めて本作品を「たまこやもち蔵はじめ、みんなが少しずつ成長する、一歩踏み出すフィルムをつくれたのではないかと思います」と振り返った。続いて印象的なシーンに、もち蔵がたまこに告白する場面を挙げた。時間をかけゆっくりと画面の色が変化するシーンで、直後、?飛び石?の引きの絵へと切り替わった瞬間、山田監督は「キレイ!」と感動したという。また、望遠カメラで撮影したかのようなシーンに仕上がっており、望遠カメラ独特の?揺れ?も表現されている。山田監督は「劇場サイズの画面での過剰な手ぶれは、観客の不快感につながりかねません。そこを今回撮影監督の山本倫さんが厳しくチェックしたおかげで、いい感じになったのだと思います」と語った。
 
演出の小川は完成当初、客観的に本作を見られなかったと明かした。時間がたった現在では「いい作品ができた」と、達成感を噛みしめているという。瀬波プロデューサーも立場上、未完成ではあるがフィルムを繰り返し見ていたこともあり、小川と同じく客観的に見られなかったと打ち明け、「今までの記憶を消して、まっさらな気持ちで見たいです(笑)」と、純粋な観客として楽しみたい願望もうかがわせた。実際に劇場で2度見た感想として、「作品全体のおもしろさはもちろんですが、見る度に視点が変わって楽しめました」と満足そうに語った。
 
 
「たまこ」からは恋愛を切り離せない
 
企画当初はOVAという案もあった中、山田監督との打ち合わせを進めるうちに「映画しかない」と瀬波プロデューサーは感じたという。「監督の描きたいものをスクリーンで見たらきっといい青春映画になるんじゃないかなと思いました。たまこの世界観やポテンシャル、あとはこのスタッフ陣を考えると映画以外の選択肢はなかった」と瀬波プロデューサーは振り返った。
 
ただ、その時点ではまだ?ラブストーリー?ではなかったそうだ。たまこを掘り下げるための物語を探っていくうち、どうしても恋愛要素と繋がってしまうことに気づいたのだと山田監督は語った。中でも「もち蔵と豆大を大きな要素として外したくなかった」とのことだ。
また「たまこの母=ひなこ」のエピソードも作品には欠かせなかった。「最初にたまこを掘り下げたいと監督と話していた時、ひなこのことをやりたいんだなと伝わってきました」と瀬波プロデューサーは語った。山田監督は「最初のプロットはそうでしたね」と頷きつつ、現在の「たまこ」というキャラクターへ至った経緯を描く中で、ひなこも掘り下げていこうと話し合ったのだそうだ。
 
ラブストーリーをやると初めて聞かされた時、小川としては「ド直球の作品が少ない近年、直球のラブストーリーをやることは正直不安でした」とのこと。ただ作業を進めるにつれ迷いは消え、「直球で行こう」と覚悟を決めたのだと語った。
山田監督は自身の絵コンテの上がりが遅かったことを引き合いに出し「(コンテの遅れ)そういうのもあって、直球にするのかそうでないのか、不安にさせてしまった部分もあったと思う」と小川を気遣ったが、その点に関して小川は「シナリオはあったので、山田監督がどんなコンテを切ってくるのか、想像するのも来るのも楽しみでした」と、監督に対する信頼感でこたえていた。
 
 
産みの苦しみ。告白されてから、たまこも私も走り出せた
 
絵コンテの上がりが遅かったのは、山田監督がたまこのシーンをなかなか描き出せなかったから。公式HP〈http://tamakolovestory.com/special/interview/〉でも語られているが、中盤まではたまこのカットがごっそり抜けたコンテを元にスタッフは作業を進めていた。進まないたまこのコンテに対し、進みのよかったもち蔵のカットについて山田監督は「もち蔵の気持ちはよくわかったので、グングン進みました」と語った。当初、進まなかったたまこのカットも、「たまこが告白されて走り出してからは自分も、コンテマンとして、カメラマンとして、走り出せたかな」と振り返った。
「たまこを描くのは難しかったですね」と述べた小川へ、山田監督から送られた言葉は「よく頑張ってくれました」、そして、「小川さんの中の乙女が開花していましたね」だ。たまこの繊細な心理描写・表現を見事に描ききった小川への最大の賛辞だろう。
 
山田監督にとって小川は「堀口(悠紀子)さんと同じで、自分の感覚と遠くないと思っているんです」とのことだ。そのため言葉に表せない感覚的な部分も確実に伝わっている手応えを感じていたのだという。
小川は山田監督から「(演技を)生っぽくしてほしい」という指示を受け、「常に意識していました」と語った。またレンズ感やカメラを用いたカメラワークの手法などにも監督から細かい指示があったと振り返った。
 
 
山田監督、「旅に出てきます」と山ごもり
 
最後の挨拶に入る直前に瀬波プロデューサーが打ち明けた話題が、?山田監督、山ごもりをする?だ。監督が絵コンテ作業に入る直前に「旅に出てきます」と残して行ってしまったとのこと。この話題が出ると場内は大きくざわめいていた。
山田監督は「本当に山にこもって滝に打たれてきました(笑)。岩に頭をくっつけて滝に打たれて。山の中で、毎日毎日、今まで聞いたこともなかったトカゲの鳴き声が聞こえて怖かった(笑)。でもいいところでした」と楽しそうに語った。
瀬波プロデューサーによると「シナリオが上がってきて、さあこれからどうしていくか、というかなり大変な時期での出来事でびっくりしました。でも山ごもりから帰って来てからの仕事ぶりがすごかったので、必要な時間だったんだなと納得しました(笑)」とのこと。まさに今だから笑い話にできる、といった様子で、会場からも笑いが生まれていた。
 
 
幸せな作品に携わることができて最高でした
 
濃密なスタッフのトークセッションは最後に登壇者からの挨拶をもって大盛況の内に締めくくられた。
 
「5月31日から始まる入場者プレゼントや、今回のスタッフ舞台挨拶などが実現したのはみなさんの応援のおかげです。みなさんの反響を受け、感謝の気持ちを込めて今回やらせていただきました。そろそろ上映が終わってしまうところもありますが、引き続きたまこラブストーリーの応援よろしくお願いいたします。ありがとうございました」(瀬波里梨:プロデューサー)
 
「このような舞台に立たせていただくのは、以前京都で出演させていただいたのも合わせて2回目のことです。こういった場に自分が立つことになるなんてと感動しています。皆さまのおかげです。本当にありがとうございました」(小川太一:演出)
 
「公開初日、期待もいっぱいありましたが不安もいっぱいありました。それがこんな、本来予定になかった挨拶をさせていただけることになるなんて。たまこたちの勇気が、みなさんに届いた結果だということでよいのでしょうか。(会場から万雷の拍手)。ありがとうございます。たまこラブストーリーを世に送り出せて、幸せな作品に携わることができて本当に最高でした。これからもどうか、大事な一本として、みなさんに愛されたいなと思っております。ありがとうございました」(山田尚子:監督)

 
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「たまこラブストーリー」
大ヒット上映中!!
公式サイト:http://tamakolovestory.com/
 
監督:山田尚子
脚本:吉田玲子
キャラクターデザイン:堀口悠紀子
美術監督:田峰育子
色彩設計:竹田明代
撮影監督:山本倫
設定:秋竹斉一
音響監督:鶴岡陽太
音楽:片岡知子
編集:重村健吾
主題歌:洲崎綾「プリンシプル」
アニメーション制作:京都アニメーション
製作:うさぎ山商店街
配給:松竹
 
『たまごラブストーリー』
北白川たまこ:洲崎綾
大路もち蔵:田丸篤志
常盤みどり:金子有希
牧野かんな:長妻樹里
朝霧史織:山下百合恵
北白川あんこ:日高里菜
北白川豆大:藤原啓治
北白川ひなこ:日笠陽子
北白川福:西村知道
大路吾平:立木文彦
大路道子:雪野五月
 
『南の島のデラちゃん』(同時上映)
デラ・モチマッヅィ:山崎たくみ
チョイ・モチマッヅィ:山岡ゆり
メチャ・モチマッヅィ:下野紘
 
©京都アニメーション/うさぎ山商店街