米ツアー優勝を成し遂げた松山 その視線はすでに次の目標へ(Photo by Sam GreenwoodGetty Images)

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 メモリアル・トーナメント最終日の朝、優勝候補の筆頭は、言うまでもなく単独首位に立っていたバッバ・ワトソンだった。今年の4月に2度目のマスターズ制覇を成し遂げたワトソンは、人間的な成長が著しいからこそグリーンジャケットにまたしても袖を通すことができたと、彼自身が感じ、周囲も彼の変化を感じていた。
松山英樹、史上4人目米ツアー優勝までの歩み
 そんなワトソンが、3日目の夜、こんなことを言っていた。
 「最初にマスターズで勝ったあとは、マスターズチャンプの名にふさわしい選手にならなくてはいけない、ふさわしいゴルフを見せなくてはいけないと思って、自分で自分にプレッシャーをかけていた。でも2度目のマスターズ優勝を果たした今は、こう思う。自分は思っていたより小さな人間で、小さな人間の悪いスコアなんて、何の意味もなさない。nothingなんだって。そう思ったら、とても気が楽になった」
 なるほど。それはそれで、とても頷ける言葉だった。だが、マスターズを2度も制した35歳だからこそ言える言葉だとも思った。
 なぜ私は、そのとき、そんなふうに思ったのだろう。ドライバーを振れば地球の果てまで飛ばしてしまいそうな怪物的ロングヒッターのワトソンや、昨年のマスターズを制し、今や世界一の王座に座っているアダム・スコットらに、これから挑もうとしている松山英樹が、どんな心境でメモリアル最終日迎えようしているのか。そうやって松山の胸中をあれこれ想像していたから、ワトソンの言葉をちょっとばかり否定したくなったのかもしれない。
 米ツアーで勝つことを目指し、勇んでやってきた今季。松山は松山英樹の名にふさわしい選手になろう、ふさわしいゴルフをしようと思い続けてきたはずだ。だが、昨秋から思っていた以上に悔しい思いを重ねてきた。開幕から体の故障が続き、欠場や棄権を繰り返した。今季最初のメジャー、マスターズは予選落ち。レギュラー大会では、フェニックスオープンで優勝争いに絡みながら「勝てなかった」と肩を落とし、先週のクラウンプラザ招待では最終日を最終組で回りながら序盤から崩れ、10位に終わった。
 その先週は、最終日の前夜、「不安のほうが大きい。ネガティブなものが全部出てしまったら、どうなるんだろう……」と弱気な言葉を口にした。そして、全部は出なかったにせよ、彼が抱いた不安は、ある意味、現実化して崩れ、10位に甘んじた。
 だが、今週は最終日の前夜から力強い言葉を口にしていた。「先週と今週は違う。今週は、ある程度、自信を持っていける」
 そんな松山が、自分自身を「大きな人間」と考えているか、「小さな人間」と考えているかはさておき、「悪いスコアなんて何の意味もなさない」と最初から割り切れるはずはない。ワトソンやスコットと松山は、まるで違う状況、まるで違う心境で、ミュアフィールドビレッジのサンデーアフタヌーンを迎えようとしている。私には、そうとしか思えなかった。
 絶対に勝ちたい。絶対にいいゴルフをしてみせる――松山は勝つ気でいた。勝ちに行く気構えだった。悪いスコアを出すなどというネガティブな結果を、今週の松山は考えてもいなかったのだ。
「自信を持って出ていけた」。プレー内容は決して完璧ではなかった。
「ミスショットもあった。納得いかないプレーもあった」
 とりわけ後半はワトソン、スコットと大混戦になり、松山を含めた3人全員がボギーやダブルボギーを喫して沈んで行った中、松山だけは18番のバーディで不死鳥のように蘇り、先にホールアウトしていたケビン・ナとのプレーオフに持ち込んで、勝利をつかみ取った。
 72ホール目はドライバーショットが右に飛び出したにも関わらず、跳ね返ってフェアウェイに戻ってくれた。ピンまで175ヤード。手にした7番アイアンは「小さいころから一番練習してきたクラブ」だった。そのクラブでピン下2メートルに付け、奪ったバーデーが彼をプレーオフへ生き残らせた。「僕の好きなミドルアイアンで打てた。一番練習してきたクラブが最終ホールで残った」
 最終日の19ホールを戦っていた間、精神状態は「いつも通り」だったという。
 「気持ちをどう持っていきたい、持っていこうというのはない。まったく緊張しなかったと言えば、うそになるけど、緊張はなかった」
 そんなふうに19ホールを振り返る松山は、ウイニングパットを沈めた興奮を早くも胸の中のどこかに収め、いつもの松山に戻り始めていた。さすがに祝勝会はしますよねと尋ねると、やや首を捻りながら「僕はどちらでも大丈夫」。
 大会最年少優勝。初出場にして初優勝。米ツアーわずか26試合目で達成した勝利。帝王ニクラスがホストを務めるビッグな大会で記録づくめのビッグな勝利を挙げたというのに、松山はあっという間に、その勝利をあたかも「nothing」であるかのごとく気持ちを切り替え、早々に「次はメジャーで勝てるよう頑張りたい」。
「僕自身、切り替えていかないと次はない」
 その落ち着き、その切り替えができる22歳の松山は、想像以上にビッグな男であることを、あのワトソンも今ごろ認めているかもしれない。
 深夜のミュアフィールドビレッジで、そんなことを思いながら、この原稿を書いた。
文 舩越園子(在米ゴルフジャーナリスト)
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