聖火が燃える。

 56年の歴史に幕を下ろす東京・国立競技場で、ラグビー日本代表の魂も燃えた。25日のアジア五カ国対抗の最終・香港戦。「灰になっても、まだ燃える」をモットーとするロック大野均も体を張った。

 日本最多キャップ81に並ぶ試合で、36歳の大野は来年のワールドカップ(W杯)出場を決めた。言葉に安ど感が漂う。

「ホッとしています。ここは単なる通過点。数字は、引退してから振り返るもの。最後の国立でのプレーを楽しむことができました」

 相手は格下とはいえ、W杯出場がかかった大一番にやはり緊張感があった。スクラムで圧倒しているのに、攻め急いではハンドリングミスを続発する。ブレイクダウン(タックル後のボール処理)で重圧を受けると、日本のリズムが乱れた。

 日本のスタイルは高速展開の「アタッキングラグビー」である。重層的に変化をつけながら素早くパスをつなぎ、防御に的を絞らせない連続攻撃でトライを奪う。でも、スクラムハーフ(SH)日和佐篤、スタンドオフ(SO)田村優のハーフ団はラインをうまく使い切れなかった。

 初トライは前半12分だった。ゴール前のラインアウトを押し込んで、主将のフランカー(FL)リーチ・マイケルがラックサイドを突く。右に回し、センター(CTB)立川理道がひとり飛ばして、外のウイング(WTB)藤田慶和が右隅に飛び込んだ。ここは若手が並んだラインが機能した。

 結局、計8トライを重ね、49−8で香港を圧倒した。スコアはともかく、個々のプレーが雑だった。3トライを奪った藤田の快走、リーチの突進、フッカー堀江翔太のボディーコントロール、NO8ホラニ龍コリニアシの猛タックルなど光るプレーもあったが、総じてボールを大切にしていないように映った。

 つまり、成長過程とはいえ、まだ判断、スキルの精度が不足しているのである。チームを引っ張ったリーチは「自分たちで納得できるプレーができなかった」と反省した。

「一番、ノックオン(ボールを前方に落としてしまう反則)したのはオレ。スペースが空いているのがわかって、先に前を見てしまってボールを落とす。集中していないのではなく、たまたまなんだけど......」

 それでも、アジアでは余裕を持って勝つことができた。国際ラグビーボード(IRB)の世界ランキングを見れば、アジア5カ国対抗7連覇となった日本(13位)に対し、香港(23位)以下、韓国(26位)、スリランカ(48位)、フィリピン(52位)だった。いわば勝って当然だったのだ。

 これからが本当の勝負である。エディー・ジョーンズヘッドコーチ(HC)は、アジア5カ国対抗の収穫は「セットピース(スクラム、ラインアウト)の強化とリーダーシップの成長」と説明した。し烈なチーム内競争の中で、20歳の藤田や24歳の立川ら、若手が経験を積んだ。フィジカルも着実にアップし、チームの底上げもできた。

 ジョーンズHCが選手に求めてきた「瞬時の判断」も、選手の意識はできてきた。試合後必ず、選手自身に課題を考えさせてきた。

 日本はこれで8大会連続のW杯出場権を獲得した。

「次のターゲットはW杯の準々決勝(ベスト8)進出」と、ジョーンズHCは試合後に言明した。そのためには、フィジカルや体力、スキルなどのベーシックな部分も、セットピースも、アタックシェープ(攻める形)も、ディフェンスのシステムももう一段、レベルアップしないといけない。

 W杯では、1次リーグでB組の日本は、南アフリカ(世界ランク2位)、スコットランド(同10位)、サモア(同8位)、米国(同18位)と対戦する。準々決勝進出を果たすためには3勝が必要で、米国戦の勝利はマストとして、スコットランド、サモアも倒さなければならない。もっと言えば、初戦の南アに番狂わせを演じるくらいの勢いが必要なのだ。

 ジョーンズHCは言う。

「アジア5カ国対抗ではキックはしなかった。でも、W杯では使わないといけない。ポゼッション(ボール保持)が大事になる。セットピースも重要になる。キックの使い方も、成長していかないといけない」

 5月30日に秩父宮ラグビー場にサモアを迎える。来月にはカナダ、米国、イタリアとの対戦が続く。何が通用し、何が課題なのか。まだ発展途上。W杯8強に向け、"エディー・ジャパン"の戦いが続く。

松瀬学●取材・文 text by Matsuse Manabu