全一冊 小説 上杉鷹山

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「全一冊 小説 上杉鷹山」(童門冬二著、集英社文庫)

上杉鷹山(1751〜1822年)は若干17歳(数え年)にして米沢藩15万石の第9代藩主となり、破綻寸前の貧窮した藩の財政を立て直した名君と謳われている人物である。鷹山は10歳の時に第8代米沢藩主の養子となり、世嗣となった。藩主と言えば聞こえは良いが、17歳で当時極貧状態の真っただ中にあった米沢藩の家督を継ぐ。童門冬二氏著の「全一冊 小説 上杉鷹山」は、このような状況の米沢藩を鷹山がどのように藩政改革を行い、財政再建を図るのかを家臣や藩民との人間模様を通して展開していく。

現代社会に置き換えても十分に共感

この小説は鷹山が生きた江戸時代の話ではあるが、現代社会に置き換えてもその内容は十分に共感でき、私たちの生き方の参考になる。

鷹山は財政再建にあたり、藩政窮迫の実態の正確な把握、その実態を全藩士と共有、そして藩士全員への協力要請を掲げた。今でこそ、企業情報の公開や分析、全社員の参加によるモラルアップなどは当たり前のことであるが、当時としては画期的な発想であったといえる。

また鷹山は藩政を変えることは、政治改革をすることよりも藩人を改革することとしている。前藩主に仕えた保守派の藩の上層部の家臣を如何に説得していくかは、非常に見ものである。

鷹山は藩政改革の目標を藩を富ませるのではなく、藩民を富ませるためとしている。また財政逼迫といえども活きたお金は惜しみなく使うという思想の持ち主であった。活きたお金の使い方はまさに現在でも活かせる考え方である。言われてみれば当たり前のことであるが、どれだけ自ら悟り、実行できるか。それも藩主というそもそも贅沢できる立場にいる者おや、である。

ケネディ大統領が最も尊敬する日本人

私はまたこの小説を通じて、従来の考え方に縛られない(その時代では考えられないような)発想を持つ重要さを感じた。そのためには、自分の責務を明確に把握し、変化する社会経済状況の中で何が求められているのかを知り、そのニーズに応えるために今の目的や組織の職員の意識がそれでいいのかを常に問う必要があるように思う。鷹山の気持ちや心の変化、葛藤、また登場人物との話のやり取りを通じた鷹山の人との接し方や考え方には、時代が変わっても変わらないものがある。覧古考新という言葉があるが、昔の事例が良いベストプラクティスになる。

米国の故ケネディ大統領が日本人記者団と会見した際、記者団から最も尊敬する日本人は誰かとの質問に、即座に上杉鷹山と答えたという。この本を読んで、故ケネディ大統領の気持ちが分かった気がする。

(某省 室長級)