米ツアーと日本ツアー 選手の育て方の違いとは…(撮影:米山聡明)

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 バイロン・ネルソン選手権と聞いて、すぐさま想起されるのは「2002年に丸山茂樹が優勝した大会」だ。当時のこの大会はタイガー・ウッズら大物選手がこぞって出場する強豪フィールドだった。が、いつしか顔ぶれはすっかり淋しくなり、今年も世界ランク上位者はほとんど見当たらなかった。
石川遼、松山英樹らの歩みに見る米ツアーの厳しさ
 それなのにギャラリー入場者数は練習日でも延べ1万人超。試合が始まると、1日7万人超が連日押し寄せる大盛況となった。
 一体どうすれば、大物選手不在の中でそれだけの観客を動員できるのか。その秘訣は、目先の成績や人気によって目先の客寄せに走るのではなく、「長い目でじっくり選手を育てる」ことにあるのだと思う。
 TPCフォーシーズンズを訪れた人々のお目当ての選手は2人いた。1人は、今年のマスターズで最年少優勝に王手をかけた20歳のジョーダン・スピース。そして、もう1人は、そのスピースと同じ道を辿ろうとする17歳のアマチュア、スコッティ・シェフラーだった。
 スポンサー推薦で初出場したシェフラーは決勝進出を果たした。3日目にはホールインワンの見せ場まで作り、4日間を戦い抜いて22位になった。ひょっとしたら今週、最大のギャラリーを引き連れていたのは彼だったかもしれない。
 振り返れば、スピースは、まだハイスクールに通っていた16歳のとき、スポンサー推薦でこの大会に出場し、見事に予選を突破して16位になった。その2010年大会が彼の米ツアーデビュー戦になった。翌年も出場し、やはり4日間を戦って32位。そうやって体験したプロの世界に魅了された彼は2012年の末にプロ転向を決意。そして昨年、ノーステータスで米ツアー挑戦を開始し、7月にはジョンディア・クラシックで初優勝を達成して、シード選手へ、トッププロへと走り始めた。
 そんなスピースの歩みを、プロを目指す米国の若いゴルファーたちは「ジョーダン・スピースする」と動詞化し、目標にしている。そうやって“第2のスピース”を目指す筆頭が、全米ジュニアランクで現在1位のシェフラーだ。大学もスピースが在籍したテキサス大学への進学を希望しているという。そんなシェフラーに、かつてのスピース同様、ジュニアのうちからこの大会でプレーする機会を与え、じっくり育てていこうという姿勢。
 「ジョーダンもスコッティも、我らがテキサスの宝だ」
 大会を支えるボランティアの人々は誇らしげにそう言っていた。その考え方、その姿勢こそが、大物選手が不在でも大勢の観客に足を運ばせる秘密、秘訣なのだと感じた。
 アマチュアのうちにプロの大会に出場させてもらい、そこからプロの世界へ入っていったという意味では、石川遼も日本のゴルフ界や周囲から「育ててもらった」と言える。だが、石川がアマチュアのうちに日本ツアーで優勝した、しないに関わらず、日本のゴルフ界が3年、4年、5年と彼をサポートし続け、プロの世界に導いたかどうかは大いに疑問。
 高校生がセンセーショナルに優勝したからこそ、その瞬間から注目を集め、国民的スターになったわけで、結果ありきのスター扱い。芽が出る前からサポートする米ゴルフ界とは、そのあたりの順番と姿勢がまるで異なる。そして、日本でセンセーショナルにデビューし、数々の勝利を挙げたこと、賞金王になったことと、米ツアーで勝つことは、はっきり言って、まったく次元が異なる。
 石川自身がその次元の違いをはっきりと認識したのは、シード落ちの危機に瀕した昨季だった。そして、その違いに気づき、謙虚に必死になったときから、彼の本当の成長がようやく始まった。昨季と今季では石川自身がいろんな変化を実感し、自ら育ちつつある。
 たとえば、今大会初日は前半で3つもスコアを落とす乱れ方だったが、後半はずるずる崩れることなく、どうにかイーブンパーで持ちこたえた。
 「こういう傾向なら、こうなのかなというのが、最近はわかるようになった。ショットが左へ左へと行っているときは、リリースが早いか、インパクトで手の位置が高いか。今までも、そういうのを考えてはいたけど、ラウンド中に直せずに終わることが多かった。でも今日は(9ホールで修正できて)早かった」
 ミスの傾向を自己分析して自力修正。さらには、出鼻をくじかれるスタートにめげることなく、我慢して盛り返そうとする粘っこい精神力も身に付いてきた。
2日目は予選通過を目指して集中力を保ち、カットラインぎりぎりで決勝進出を決めた。「予選を通ることが大事。この重要さを昨シーズンに身を持って経験した。今日までは窮屈な想いでプレーしたけど、今日で予選を通ったので、明日からはスコアを伸ばしていくだけです」
 結果的にはセカンドカットに引っかかり、最終日はプレーできずに終わったが、予選通過の大切さを強調する石川の言葉は、昨季前半の彼の口からは聞かれることが無かった。
 こうして文字にしてしまうと、「プロなら当たり前だろ?」と思えてしまうことばかりかもしれない。が、世界一レベルが高いこの米ツアーに外国人の若者が挑み始めると、どうしても目先の成績にとらわれ、当たり前のことになかなか気づくことができなくなる。
 いや、当たり前のことがなかなかわからない、気づけないという現象は、外国人選手のみならず、母国の米国人の若者たちも必ず最初は直面する問題で、だからこそ、ジュニアのうち、アマチュアのうちから米ツアーを経験させ、プロとしての厳しさ、ツアーで戦う大変さを五感で感じさせる。そうやって、3年、4年、5年というスパンで若者を育て、プロの世界へ導いていく。地元のファンは、その長いプロセスを含めて、プロ予備軍にも若きプロにも温かい声援を送る。
 だからテキサスの人々はスピースやシェフラーにエールを送り続ける。そういう文化が醸成されているからこそ、大物選手がいなくても、米ツアーの試合は盛り上がる。
文 舩越園子(在米ゴルフジャーナリスト)

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