『アナ雪』の“レリゴー”を教室の楽器でやっちゃった世界一楽しい人たち
 日本での観客動員1390万人を超え、興行収入も170億円を突破という空前の大ヒットを記録している映画『アナと雪の女王』。先の連休中に観に行った人も多いかと思います。

 3月12日に発売された映画のサウンドトラックも、それまで歴代第一位だった『さらば宇宙戦艦ヤマト』の売り上げ枚数を上回り、その勢いはもはや社会現象。

◆貧しい楽器の豊かな音楽

 この記録づくめの熱狂を強力に後押ししたのが音楽であることは言うまでもありません。初めてなのにどこかで聴いたことがあるようなメロディ。あやふやなまま歌いだしても、ちゃんと着地できそうな気がする親しみやすさ。『Let it go』は、言わばユーザーフレンドリーな楽曲なのですね。

 そんな“レリゴー”の素朴な魅力が最大限に引き出されたこのシーンをご存知でしょうか。 

●Jimmy Fallon, Idina Menzel & The Roots sing “Let It Go”
⇒【動画】http://youtu.be/17QQcK4l6Yw

 今年の3月アメリカの人気テレビ番組『ザ・トゥナイト・ショー・スターリング・ジミー・ファロン』にイディナ・メンゼルが出演したときのこと。“教室の楽器でヒット曲をやっちゃおう”という名物コーナーで披露されたのはもちろん『Let it go』。

 これは司会のジミー・ファロンと番組のハウスバンドであるザ・ルーツがおもちゃの楽器でゲストのヒット曲を演奏しようというもので、過去にもマライア・キャリーの『恋人たちのクリスマス』やロビン・シックの『Blurred lines』などが取り上げられています。

 ここではピアニカやウクレレ、その他色々な小型の打楽器。さらにはカラフルな鍵盤の小さな木琴といった小学校低学年向けの教材楽器が用いられます。当然のことながら、その響きは凄腕で鳴らすザ・ルーツの面々が普段使用する愛器とは比較にならないほどに貧しいものです。

 ゆえに『Let it go』のオリジナルにあるようなミュージカル的なのびやかさを湛えたアレンジメントは施せない。そこでザ・ルーツは『Let it go』をジャグバンドのようにゆったりとハネたリズムで演奏しているのです。余韻や共鳴の助けが得られない中で、曲を生かし聴き手を退屈させないための最善の策だと言えるでしょう。

 しかしこの手の企画でありがちな、道具に合わせて演奏そのものも拙く装うといった間違いは起こしません。粗末な楽器にふさわしいアレンジメントの中で演者が全力を尽くし、素材の持つ貧しさを使い切ったところに豊かさが浮かび上がってくる。

 それは楽曲自体が極めて素朴であるからこそどんな構成にも対応できる、そんな柔軟さによる部分も大きいのかもしれません。

◆楽器は洗濯板とポット

 この一見すると微笑ましい余興のように思える“教室の楽器でやっちゃおう”シリーズですが、実はアメリカの大衆音楽の過去をきちんと踏襲した企画なのですね。

 主に1920〜30年代に録音されたルーツミュージックの豊富なコレクションで知られるアメリカのヤズーというレーベル。音源だけでもレアなのですが、そこから『Times ain’t like they used to be』というタイトルの映像集がリリースされています。

 収録されているのはジミー・ロジャースやボブ・ウィルスといったカントリーのビッグネームから、名もなき黒人ミュージシャンのフィールドレコーディングに至るまでの貴重なコレクション。その中のエディ・トーマスとカール・スコットという二人による『Tomorrow/My old home』という曲の演奏シーンが、まさに“教室にある楽器でやっちゃおう”の原風景なのです。

●Eddie Thomas and Carl Scott Tomorrow/My Old Home
⇒【動画】http://youtu.be/xtbhE6s4wHE

 洗濯板をパーカッションの、ポットを管楽器の代わりにして奏でられるのは作者不詳のメロディ。この二人が書いたのかどこかで学んできたのか、はたまた盗んだメロディなのか、それは定かではありません。

 しかしこの決して高級とは言えない家財道具がチャカポコと鳴る中、カズーのひび割れた音色を必死にたどっていくと、曲のようなものが浮かび上がってくる。するとそれを聴いた他の誰かが、別のやり方でそのメロディを貧しく響かせる。初めてなのにどこかで聴いたことがあるような気がするメロディというのは、こうした繰り返しを経て屈強な生命力を得ていくものなのでしょう。

 ジミー・ファロンの番組での『Let it go』は、まさにそのしたたかさを強く印象づけるものでした。唐突にも思えるジャグバンド的なシャッフルにも動じない図太さがある。楽曲に作者の顔や名前がちらつかないことが強みになっている。

◆”レリゴー”は傑作ではない

 ディズニーは過去にも多くの名曲を生んできました。近年で言えばヴァネッサ・ウィリアムスが歌った『Colors of the wind』(『ポカホンタス』)やランディ・ニューマンのペンになる『When she loved me』(『トイストーリー2』)などは、注意深く作られた美しいバラードの傑作です。

⇒【動画】http://youtu.be/lrfoEAzwHdI

 『Let it go』の完成度がそれらに比べると物足りないことは否定しがたい。しかしその作りこまれていない部分が幅広い聴き手に門戸を広げているのだと考えると、なかなかに教訓めいて思えてきます。

 もしや、その“不完全さ”さえも計算づくなのでしょうか……。などと深読みさせられてしまうのも、またディズニーの底知れぬ奥深さなのかもしれません。

<TEXT/音楽批評・石黒隆之>