ウクライナ情勢が混迷を深めています。今年3月、ロシアはウクライナ領であったクリミア半島を自国領に編入。一方、ウクライナ暫定政権と欧米各国は、"ウクライナ東部の各地で行われている反政府活動はロシアが支援しているものである"と非難し、ロシアに対する制裁を強化しています。また直接的な軍事力行使はありませんが、米国とロシアの支援を受けた各勢力の活動や、両国の非公然の介入が拡大しつつある状況です。

 極めて危機的な情勢ですが、これを鎮圧し安定化させるほど、暫定政権側には力が残っておりません。現在のウクライナ軍は、一部の精鋭部隊を除き、十分な作戦能力のある部隊がほぼないに等しく、また統制も取れていません。

 そんな中、今月1日、ウクライナのトゥルチノフ大統領代行は「ロシアのウクライナ領土に対する侵害の脅威」に対応するため、昨年の10月にヤヌコビッチ大統領(当時)が廃止したばかりの徴兵制度を復活させる法令に署名しました。クリミア編入で多くの兵士と装備を失ったこともあり、ウクライナは軍の立て直しを図るために徴兵制度の復活に踏み切ったのです。

 しかし、この決定に国内の反応は冷ややかなもの。TwitterやFacebookなどでウクライナ国民の"生の声"を見てみると、徴兵制撤廃を望む意見や、これほどの財政危機の中で軍隊を運営できるのかといった不安の声などで溢れ返っています。目下、対立している東部、西部のウクライナ人の共通認識として、徴兵制復活が本当にウクライナの再建に結びつくかどうかという疑問を抱いているのです。

 さて、日本では徴兵制というと「非常に古い制度」のイメージがありますが、現在でも世界には徴兵制を採用している国が多く、お隣の韓国もそのひとつ。また同じアジアの国々でも、タイやマレーシア、シンガポール、ベトナムなどにも徴兵制は存在し、タイではくじ引き、マレーシアではコンピュータで無作為に選ばれた男女が一定期間の兵役に就くことになっています。

 一方、一部の成熟している国家では徴兵制は必ずしも戦闘訓練のみを目的に行われるとは限りません。例えばフィンランドでは、軍隊の管理が厳格で安全であるため、礼儀や忍耐力を身に付けることが出来る、仲間を増やし社会生活で活かせるスキルを身に付けることが出来る、という理由で徴兵制は国民に支持されているようです。また、フィンランドでは兵役を拒否することも可能で、それが認められれば社会奉仕活動に参加することによって兵役を代償できる制度が存在している点も、重要なポイントといえるでしょう。

 世界各国、それぞれの事情と思惑があるので、一概に徴兵制度が悪であるとは言えないと思います。しかし、戦争突入が秒読みであると言われている状況の中での、今回のウクライナ暫定政権の徴兵制復活の決定は非常に特殊なケースであり、国民から不満が噴出するのも当然のことでしょう。実際に"若者を戦争に参加させるため"の制度復活は、政権に対する国民の不満をさらに高めかねない非常に危険な選択といえます。

 アメリカ中央情報局や外務省の資料によると、軍隊またはそれに類した組織を保有している約170ヵ国のうち67ヵ国が徴兵制度を採用しています。日本では採用していませんが、今、世界で起こっていることに目を向け、現存する最古の制度の一つである徴兵制について一度じっくり考えてみる必要もあるかもしれません。    



『徴兵制と良心的兵役拒否―イギリスの第一次世界大戦経験 (レクチャー第一次世界大戦を考える)』
 著者:小関 隆
 出版社:人文書院
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