事の発端は、小学館の週刊少年マンガ誌「ビッグコミックスピリッツ」の4月28日発売号に掲載された同作品内で、福島第一原子力発電所を訪れた主人公の新聞記者・山岡士郎らが取材後に"原因不明"の鼻血を流す描写があったこと。さらに、同作中には福島第一原発のある双葉町の前町長・井戸川克隆さんが「鼻血はよくあること」との発言もあり、これも騒動を大きくさせているようです。

 すでに報じられている通り、福島県双葉町は、この問題について小学館に抗議を行っています。

「(前略)双葉町は、福島第一原子力発電所の所在町であり、事故直後から全町避難を強いられておりますが、現在、原因不明の鼻血等の症状を町役場に訴える町民が大勢いるという事実はありません。(中略)町役場に対して、県外の方から、福島県産の農産物は買えない、福島県には住めない、福島方面への旅行は中止したいなどの電話が寄せられており、復興を進める福島県全体にとって許しがたい風評被害を生じさせているほか、双葉町民のみならず福島県民への差別を助長させることになると強く危惧しております」(抗議文より一部抜粋)

 原因不明の鼻血を出している町民が大勢いるという事実はなく、またこうした描写はいたずらに風評被害を生じさせ、福島県民への差別につながると厳しく批難している内容です。

 また本件に関して、石原伸晃環境相も9日の記者会見で「風評被害を呼ぶことがあれば、あってはならないこと。(中略)専門家によって、今回の事故と鼻血に因果関係がないと既に評価されており、描写が何を意図しているのか全く理解できない」とコメント。さらに環境省では「放射性物質対策に関する不安の声について」と題して、見解をホームページに掲載しております。そこでははっきりと、「東京電力福島第一原子力発電所の事故の放射線被ばくが原因で、住民に鼻血が多発しているとは考えられません」としています。放射線の健康影響調査や除染などを所管する同省としては、当然の対応と言えます。

 一方の小学館側は「鼻血や疲労感の表現は、綿密な取材に基づき、作者の表現を尊重して掲載させていただきました」としています。

 また、作者の雁屋哲さんも、「私は自分が福島を2年かけて取材をして、しっかりとすくい取った真実をありのままに書くことがどうして 批判されなければならないのか分からない。 真実には目をつぶり、誰かさんたちに都合の良い嘘を書けというのだろうか。(中略)今度の「美味しんぼ」の副題は「福島の真実」である。 私は真実しか書けない」と反論しています。

 つまり雁屋哲さんは2年間かけて取材した結果が、あの描写であり、作品となったのです。なにもウソをついているわけではない。あれが真実であると。また、そんな雁屋哲さんの姿勢を支持する人も一定数います。

 雁屋哲さんは、今日になって自身のブログで「内容についての責任は全て私にあります」と綴っております。内容に誤りがあれば、責任を取るということでしょう。

 彼の取材が正確であったのか、取材対象者の選別に偏りはなかったのかわかりません。いずれにせよ、多くの情報から、なにが正しいのか正しくないのか、これは信ずるに価するファクトがあるのか、ないのか......といった石ころと宝石の選別作業の繰り返しが、報道には求められると思います。『美味しんぼ』は報道ではありませんが、今回のようなナイーブな情報を伝える場合、それと同等のリテラシーが求められてしかるべきです。仮に真実を語っていない人の話を聞いて「これが真実だ」と言われても、それはそれで困るわけです。いや、困るでは済まない人が多くいるのです。

 震災から3年経っても、放射線や放射能の影響について、「よくわからないから危ない」と騒ぎたてる人がいます。しかし、まず危ないと言う前に、放射線とは何なのかをそろそろ勉強した方がいいのではないでしょうか。その上で本来、取るべき対応、対策を粛々と取ればいいだけの話だと思います。


【関連リンク】
やっかいな放射線と向き合って暮らしていくための基礎知識
http://www.gakushuin.ac.jp/~881791/radbookbasic/



『やっかいな放射線と向き合って暮らしていくための基礎知識』
 著者:田崎 晴明
 出版社:朝日出版社
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