スマートフォンの方が正確な時刻がわかる時代にあって、それでも腕時計が売れているのは、背景にある物語に惚れる人が多いから。そのため時計の記事は、モノ単体よりも歴史や文化的背景の話を混ぜた方が受けがよい。これはスポーツ記事における戦術論に近いところがあって、ニッチでマニアックな方が好まれる傾向にある。

 だから時計ブランドがアスリートをサポートする場合も、他の商品とは事情が異なる。

 知名度を高めたい新興ブランドであれば注目の集まりやすい旬な人選になるが、老舗ブランドになるほど物語を知ってもらおうという気持ちが働くため、どんどんマニアックになっていく。彼らが望むのは、知名度の高さよりも"濃度"。ブランドの物語と響き合うかを重視するため、メジャーかマイナーかは関係ないのだ。

 その結果"知る人ぞ知る"トップアスリートが多く起用されることになる。前回紹介したポロ競技のトッププレイヤーだけでなく、馬術競技の選手やスカイダイバー、アイスダイビングという凍てつく湖を潜るエクストリームスポーツの選手をサポートしているところもあるほどだ。

 いずれの場合も、そのスポーツのファンでなければ人選の凄さはわからない。しかし時計ブランドの物語に合致しているため、プロモーション効果は十分なのである。


 名門「ブライトリング」とアスリートの関係も独特だ。

 ブライトリングはパイロットウォッチのパイオニア。1952年に"世界初"の航空計算尺付き腕時計「ナビタイマー」を発表したが、このモデルがA.O.P.A(航空機オーナー&パイロット協会)の公式時計となり、"パイロットのための時計"という名声を確立。その後もパイロット業界とのつながりを深め、1984年にはイタリア空軍のアクロバット飛行チーム「フレッチェ・トリコローリ」と協力して機械式クロノグラフを製造。コレが評判となり、機械式時計の復権を後押ししたという歴史もある。それくらいブライトリングとパイロットの結びつきは強固である。

 こうなるとサポートする相手も一筋縄ではいかない。

 まずユニークなのは、民間最大級のアクロバット飛行チーム「ブライトリング・ジェットチーム」を結成してしまったこと。フランス・デジョンを本拠地とし、ヨーロッパを中心に世界中で華麗な飛行ショーを行なっている。さらに昨年は初めて日本を訪れ、被災地の人々を元気づけるために福島でのフライトも行なった。

 さらに日本を代表するアクロバット・パイロット室屋義秀もサポートしている。

 彼は世界最速のモータースポーツ「レッドブル・エアレース・ワールドチャンピオンシップ」に、アジア人で唯一参戦中。地上20〜25mという大きなパイロンの間を、最高時速370kmというパワフルな小型飛行機で縫うように飛び回りながらタイムを競うエクストリームスポーツであり、彼が所属するトップカテゴリー"マスタークラス"は、世界で12名しか参戦できないという狭き門。つまり室屋義秀は、世界に誇るべき空のトップアスリートなのである。

 ちなみに彼とブライトリング・ジャパンとのつながりは2011年から。そして、2013年に「EXTRA300L」という飛行機を導入する際に、ブライトリング・ジャパンが支援したことから交流が活発化。前述のブライトリング・ジェットチームの来日時は、飛行許可申請などの準備段階から協力してもらうほど、密接なパートナーシップを結んでいる。

 ブライトリングは時計業界ではまれに見る骨太なブランドだ。独立資本を貫き、高精度の証であるCOSC認定を全モデルで取得。さらに徹底した顧客サービスを行うことで、ブランド自体にファンがついている。ブライトリングの世界観に惚れ込み、ブライトリング自体を応援しているのだ。

 だからブライトリングがサポートする相手にも"ブライトリングらしさ"が求められる。そういえばかつて広告に登場した俳優ジョン・トラボルタは、飛行場付きの家に住み、自らジェット機を操縦するという本物のパイロットだった。こういうブレの無さが、ブライトリングの物語をさらに強固なものにしている。

 こういう意識があるから、有名アスリートなら誰でも良いという考えには至らない。根底に流れる魂が響き合わなければ意味がないから、ブライトリングは室屋義秀を選んだのだろう。

 彼が操縦するブライトリング・イエローのEXTRA300Lは、福島市で開催される第98回日本陸上競技選手権大会でエアショーを披露する予定になっている(6/7-8のみ)。福島の空を舞う室屋義秀の姿を通して、ブライトリングの物語を体感するチャンスである。

篠田哲生●文 text by Shinoda Tetsuo