代々木第一体育館と東京体育館で、8日間に渡り行なわれた世界卓球選手権。団体戦の今大会、女子は準決勝・対香港戦を3対1で勝利して31年ぶりの決勝進出を果たした。村上恭和監督は「勝ちましたね。信じられませんよ」と言って顔を綻(ほころ)ばせた。

「香港は福原愛を苦手にしているから、これまでの戦法だと彼女が2勝をあげて、あと1勝を誰かがあげるという形だった。でも今回は(福原愛不在で)その2勝分が無い状況だったので、大変苦しいオーダーでした」

 村上監督によれば、日本のチームランキングは2位になっているが、それは福原がいての順位。彼女を抜くと7位くらいになってしまうという。決勝トーナメントは、苦手な韓国や北朝鮮と当たらない組み合わせには恵まれたが、総合力から考えれば本当に良く戦ったと評価する。

 好成績をあげられた要因としては予選リーグ5試合を、1ゲームも落とさずすべて3勝0敗と完勝した勢いと、石川佳純が「オランダ戦を乗り切れたから、今日も勝てた」というように、苦しみながらも準々決勝を制することができたという下地があった。

 5月3日の準々決勝・対オランダ戦は、世界ランキング13位で41歳のリー・ジャオに苦しめられた。石川と平野早矢香がともに1ゲームづつ敗れたのだ。だがそれを救ったのは、福原の疲労骨折で急遽代表に招集された石垣優香(24歳)だった。

 オランダは村上監督が驚くような布陣を取ってきた。2本柱のひとりであるシェークカット型のリー・ジエを2試合に出すのではなく、石垣の3番手起用を予想してぶつけてきた。

 カット型同士の対決では10分が経過しても終わらない場合、レシーブ側が13回リターンを成功させればレシーブ側のポイントになるという促進ルールが適用される。そんな中、第1セットを落とした石垣はそこから3セットを連取して貴重な1勝をあげた。

 そして4ゲームの平野が負けて2対2になったあと登場したのは石川。村上監督曰く「速いスピードに慣れるために男子と練習しているが、その練習は強い選手に対して(自信を持って)向かっていけるが、格下の選手相手でうまくいかない時はイライラする弊害もある」と言うように、世界ランキング100位のブリット・エーラントを相手に2セット先取しながらも、その後の2セットを取られると、ファイナルセットも1対4とリードされた。そのときの心境を石川は、「負けたと思った。でもみんながまわしてくれた5ゲーム目だから、絶対に諦めないと誓った。自分との戦いだった」と振り返り、涙を流した。

 そんな経験を経て臨んだ準決勝・香港戦。「石川が2勝をあげて、残りのふたりがどこかで1勝を奪うという作戦だった」という村上監督は、石垣を1番手、石川を2番手にし、平野を1ゲームだけの3番手にした。だが相手の1番手の李皓晴(リ・コウセイ)は世界ランキング14位で、2番手の姜華※(キョウ・カクン/※は王へん君)は17位。さらに3番手の呉穎嵐(ゴ・エイラン)は33位だが、平野は最近2連敗している相手。苦しい戦いが予想された。

 石川がフルセットで勝って1勝1敗にした後の第3ゲーム。平野は2セットを連取され、第3セットは4対9とリードされて絶体絶命の危機を迎えた。にも係わらず、「そんなに点差があったんですか。信じられない」と試合後に話した平野は、そこから粘りを見せた。

「6対9で相手がタイムアウトを取った時、平野が『このサーブで突いてみようと思う』と言ったんです。彼女は自分の戦い方を見つけるのに時間がかかるが、それを見つけたんです」

 村上監督が言うように、平野は呉のバックハンドからの攻撃的なレシーブであるチキータを封じるために、フォア側をより深く狙うサーブに変えた。それでセットポイントを先に取られながらも12対10でセットを取ると、次は11対2。そしてファイナルセットもジュースまでもつれながら、12対10で取って逆転勝利を収めたのだ。

 第4ゲームは石川がセット数1対2とリードされる場面もあった。そこで持ち直すきっかけとなったのが、「試合に勝ちたいという気持ちが出すぎるとミスをするというのを忘れていたが、それをコーチに指摘された」ことだったという。結果、ファイナルセットは主導権を先に握って11対7で勝利した。

「2ゲーム目の時は落ち着いていたが、4ゲーム目はずっと焦っていて苦しかった。でも平野さんがいい試合をしてくれたので絶対に勝ちたいと思って。昨日(オランダ戦)は負けたらベンチに戻れないと思っていたが、今日はみんなでつかんだ勝利だと思う」

 こう話す石川は前日の涙と違い、満面の笑みで勝利を喜んだ。

 そうして迎えた5日の決勝。中国はやはり強かった。

 村上監督は「中国は今の監督になって初めての団体の世界選手権なので、油断の無いオーダーを組んできた。最強の3人を並べられると、石川以外には勝つチャンスがなかった」と言うように、11年世界選手権優勝の丁寧(テイ・ネイ)、12年ロンドン五輪優勝の李暁霞(リ・ギョウカ)、世界ランキング1位の劉詩※(リュウ・シブン/※は雨かんむりに文)は次元が違った。

 結局1番手の石垣が1セット取っただけで、石川と平野は0対3で敗れる完敗だった。それでもそれぞれに収穫はあった。

 平野は「いろいろなサーブを出してきたのでそれを読む事ができず、相手のペースにされた」と完敗を認めながらも「ロンドン五輪後は良かったり悪かったりで成長を実感できていなかったが、今回は中国戦以外では課題にしているバックハンドやチキータを五分まで持っていけた。地元開催の団体戦で持っている力は出し切れたと思う」とスッキリした表情で話した。

 石川も「これが世界女王の強さなんだと肌で感じたし、中国に近づくにはもっとレシーブを改善しなければいけないと分かった。でももっと強くなれるとも感じた」と話す。

 村上監督も、「(以前の)石川は李の前陣速攻にまったく歯が立たず空振りを重ねたこともあるが、男子との練習でスピードに慣れてボールを返せるようになった。それが8点、7点、7点という得点につながった。課題はレシーブの悪さ、男子の水谷隼のようなレシーブができれば中国選手にも勝てる可能性が出てくる」と話す。

 とはいえ、日替わりで厳しい戦いを勝ち抜くヒロインも出て、福原抜きで31年ぶりの銀メダル獲得は殊勲といえる結果。村上監督も「個々の実力を中国勢と比べると、石川が3対7くらいでそれ以外の選手は1対9。それでもロンドン五輪の銀よりは中国に近づけたと思う」と成長を認めた。

 五輪では日本が得意とするダブルスがある。リオデジャネイロ五輪に向けて村上監督はこう話す。

「福原が戻って来れば、中国との差は1対9から2対8くらいになる。団体戦の場合は競り合うと弱い方が強気になって、強い方が守りに入るから3対7か4対6くらいまで持っていけば勝機も出てくる。2010年の世界選手権でシンガポールが中国に勝ったのもそういう状況。だからリオデジャネイロまでには何とか、3対7まで持っていきたい」

 福原は今大会疲労骨折で欠場したが、今もなお成長しているという。加えて石川がレシーブを克服すれば、中国との差を縮めるのも可能だ。さらに村上監督は、「最終的に2020年の東京五輪までには五分五分くらいの力をつけて、金メダルを狙えるようにしたい」という構想も持っている。

 今回の銀メダルが、そのための第一歩になったのは間違いないだろう。

折山淑美●取材・文 text by Oriyama Toshimi