残業代を気にする「モンスター新人」の是非を問う声がネットで大きい。なぜ残業代を気にしてはいけないのか。コラムニスト・オバタカズユキ氏はそこにテレビの世界の歪んだ構造をみる。

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 ここ最近、ネットで「モンスター新人」という造語を見かけることが多い。唐突に出回った感があるので、なんだろうと確かめてみると、テレビでそういう番組が放送されたせいだった。

 4月4日にフジテレビの情報番組が、4月29日にTBSのバラエティ番組が、それぞれ「モンスター新人」を特集にした。それらの番組で紹介されてたモンスターな新入社員のケースは、例えばこんなものだ。

・プライベートを重視しており、上司が飲みに誘っても断ってくる。
・遅刻や欠勤をしても平気で、連絡をするにしてもメール1本で済ます。
・やりがいのある仕事でも、残業代が出るかどうかをすぐに気にする。
・ロクに挨拶ができず、敬語も使えない。
・言われたことしかやらない。
・叱ると逆切れし、そのまま家に帰る。下手すりゃ、会社を辞めてしまう。

 番組ではスタジオの出演者たちが「モンスター新人」の再現ビデオを見て一方的に嘆いたり呆れたりしていた、わけではない。特にフジテレビのほうの出演者たちは、「わからなくもないよね」といった感想も交わしていて、その寛容さがむしろ意外なぐらいであった。

 しかし、刺激的な言葉というものは、そういうニュアンスなどを脱ぎ捨てて、一人で勝手に歩き出す。そして、ネット世間のさらし者にされる。

 私が見まわった限り、「モンスター新人」は評判が実に悪い。そんなイメージを勝手に作るなよ、マスゴミが、という調子で。特に「残業代を気にする」件に非難が集中している。気にして当たり前だろ、それをテレビが非難するような日本だからブラック企業がはびこっているんだ、という具合に。

 ネット用の記事でネット側に立つのは、どうも卑怯な気がしてためらうところもあるのだが、私もこの特集の台本をつくった番組制作者の感覚はズレていると思う。だいたいテレビを含めたマスコミは、ずーっと長いこと「サービス残業」問題をとりあげて、働く一人一人の意識が変わらなきゃいけないと言ってきたではないか。

 だったら、「残業代を気にする」≒「サービス残業を厭う」若者の出現は喜ばしい話で、少なくとも問題視するような件ではないのである。普通に考えてやはりそうなのだ。

 他の件でも、けっこうな違和感がある。「上司が飲みに誘っても断ってくる」と言うが、いまどきの若者を対象とした市場調査では、「上司と飲みたい」派が多いとの結果がいくつも出ている。「遅刻や欠勤をしても平気」「挨拶ができず、敬語も使えない」こと自体は問題だが、そういう人間を通した採用面接って何?

「言われたことしかやらない」件だって、「マニュアル人間」や「指示待ち人間」などの言い方で、もう30年以上前から批判され続けている。その主体性の足りなさは、老若男女を問わない現代日本人の国民性なのではないか。

「叱ると逆切れし、会社を辞めてしまう」のは困るだろうが、そういう火薬みたいな社員を抱え続けるのも大変だろう。会社的にはさっさと辞めてもらったほうが、リスクもコストも少なくて済むのではないか。

 というふうに、まあ、どの件も、どんどんサカサマの解釈ができてしまう。ここまでペラペラひっくり返される「モンスター新人」は、それだけ根拠が薄いのである。

 同じモンスター系でも、2000年代後半に流行った「モンスターペアレント」や「モンスターペイシェント(患者)」は様相が異なる。それらにも誇張や作為が混じっていたはずだが、一方でまだ言葉になっていない事実をうまく捉えた造語だったから、今でも使われているし、その概念の下で学校や病院がクレーマー対策を講ずるなどしている。

 比して、「モンスター新人」は、番組制作者の感覚だけで放たれた造語に思えてならない。しかも、そのセンスが明らかに時代からズレていて、ここぞとばかりにネット世間から叩かれてしまうのだ。

 なぜズレるのか。これは私の直感だが、テレビ番組の制作者の日常が、一般世間から遊離しすぎているからだ。

 びっくりするような高い給料をもらって、芸能人なんかとも仲良くしちゃっている日々だから? 違う。それはテレビ業界の中のごくごく一部であるキー局の正社員の話で、彼らは番組をつくってなんかいない。いわゆるテレビ局員は、系列の番組制作会社の管理他で忙しい。

 では、その系列の番組制作会社の社員たちがズレているのか。それもまだ違う。番組づくり自体は、もう10年以上前から、テレビ局の下請けのそのまた下に位置する孫請け会社の社員たちが担っている。彼らは、番組制作の必要に応じて現場に集められる派遣労働者として働いている。

 テレビ業界ピラミッド構造の下層に位置する孫請け会社の制作者たちは、まさしくワーキングプアだ。

 つい先日、その当事者から話を聞いた。月収は手取りで14〜15万がアベレージだという。なのに、仕事が非常に激務かつ急用も多いため、テレビ局にすばやく駆けつけられるよう都心に住まざるを得ない。安い物件を探し出しても、賃料が月に6〜7万かかる。必然、貯金は増えない。基本的に昇給もない。先のことを考えたら怖くなるが、今現在の仕事をこなすことで精一杯なので、なんとかやっていられる。

 そういう状況にある人たちが、ピッカピカの大企業の世界では「モンスター新人」的な若者が増えていると、どこかで耳にしたら……。それは、人情としてムカッときておかしくない。「残業代を気にする」だなんて、フザケルナと思うだろう。お笑いネタにして、気持ちを晴らしたくなるかもしれない。弱い者がさらに弱い者を叩く、といったように。

 もちろん、その弱い立場にいる者だからこそ持てる反骨の精神だってありえるのだが、「だから誇りを持って頑張れよ」とは私には言えない。そんなキレイ事は口にするだけ虚しい。

 そのかわりに、「もう下手はこくな」と言いたい。「モンスター新人」の企画を立てて番組にした制作者は、見事なまでに下手をこいたのだ。余計なお世話だけれども、そういう話なのだと思う。