苦しみながらも成長を続ける次世代の選手たち この時間を乗り越えてこそ飛躍がある(Getty Images)

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 先々週、米ツアーのチューリッヒ・クラシックで韓国のノ・スンヨル(盧承烈)が待望の初優勝を果たした。そんな彼の姿を眺めていたら、同い年の石川遼や松山英樹の姿が重なり、さらには、かつて米ツアーで戦った日本人選手たちのことが思い出された。
ああ、やっぱり、みんな同じ道を辿る――。今、そう思わずにはいられない。
 ノは韓国アマチュア界を席巻し、16歳でプロ転向。年齢制限で韓国ツアーに出場できなかったため、アジアンツアーに出向いたら08年に初優勝、10年に2勝目を挙げ、欧州ツアー出場権獲得。アジアでは賞金王にまで輝いたノが、世界のゴルフ界から注目を集め、スポンサー推薦で米ツアーにスポット参戦を開始したのは19歳の春だった。
 「たぶん3年後にはメジャータイトルがいくつか取れていると思うから、それらを取った上で、僕は世界一になる」
 そう言った彼の表情や眼差しに傲慢さは感じられず、彼は心底、それができると信じているのだと思えた。だが、それからの彼が実際に歩んだのは「メジャータイトルをいくつか取る」日々ではなく、シードを維持できるかどうかの茨の道だった。そして3年後、苦労して苦労してやっと掴んだのは、メジャー優勝ではなく、レギュラー大会の優勝だった。
 3年前の19歳当時といえば、石川遼もすでに米ツアーにスポット参戦を始めていた。その石川は、常々、こう言っていた。
 「僕は20歳でマスターズに優勝する」
 石川も心の底から、そうできると信じて、この夢を語っていた。だが、マスターズ優勝どころか、米ツアーの正式メンバーとなって本格参戦を開始した昨季は、ノと同様、茨の道になった。シード維持の危機に瀕し、下部ツアーのファイナル4戦へ。今季の米ツアー出場権はどうにか死守したが、今年のマスターズは出場さえ叶わないという現実を見た。
 そして、松山英樹。今季から米ツアー本格参戦を開始した松山は、最初から「目標は優勝」を口にしている。マスターズも「優勝以外の目標を立てて、どうすんですか?」と強気に語り、手首の故障もあってオフを取るときも「試合勘?気にしないっす」。
 だが、その後は暗雲が立ち込めつつある。マスターズもヘリテージも大崩れして2週連続予選落ち。先週のウエルズファーゴは日に日に後退して38位の下位どまり。精彩を欠いている松山の今後が、ノや石川と同様、茨の道と化していく危険性はもちろんある。
 若くて有能な彼らが米ツアー選手になった途端、苦しみ始めるのは一体なぜなのか。本人もファンも首を傾げる。だが、その疑問は見方を変えるだけで疑問ではなくなる。夢を見ていた視線を現実へ向け直せばいい。そうすれば、困難に直面している今は、不本意に苦しんでいるのではなく、むしろ試練を乗り越えながら成長していると思えて前向きになれるはずだ。
 ジュニア時代、アマチュア時代、学生時代でさえ、あれだけの成績が出せたのだから、あれから何年か経ち、それなりに経験も積み、プロになったあかつきには、今度はこれだけの成績が出せるはずだと思いがち。そこが、若くして大活躍した選手が陥りやすい罠だ。
 石川は今季開幕シリーズのシュライナーズ・ホスピタルオープンで2位に食い込んだとき、その罠に気づき、夢から醒めたことを自ら明かした。
 「昔は知らないことが多すぎた。両サイドにOBがあってもドライバーで打ち終わるまで(OBがあることを)知らなかった……みたいな感じでやっていて、日本でたまたまうまくいった。あれから時間が経って、いろいろ苦しい時期があって、今はメンタル的にリカバリーできている」
 だから今季の石川のゴルフは昨季より格段に安定し、成績も向上しつつある。昨季はシード維持が危うかったが、今季はすでに来季出場権獲得はほぼ安泰だ。
 先々週、初優勝を挙げた際のノも、石川とそっくりな言葉を口にした。
 「不調で苦しんだ去年の1年があったからこそ、僕は精神的に強くなった」
 ノも石川も松山も、ティーンエイジで世界の注目を集めるほどの活躍ができたのだから、大人のプロたちと伍して戦えるだけの技術力はすでに身に付けている。だが、だからと言って、その技術を肝心なときに発揮できるかどうか、活用できるかどうかと問われたら、答えはノーだ。プロになった若者たちがなかなか勝てなくなるのは、彼らの技術が足りなくて「勝てない」のではなく、彼らより勝ち方や上位入りの仕方を知っている大人のベテラン選手たちの合間で「勝たせてもらえない」「上位に行かせてもらえない」のである。
 マスターズで優勝争いに敗れたジョーダン・スピースは、前述の3人よりさらに若く、現在20歳。スポンサー推薦で米ツアーに出始めた昨年、19歳にして米ツアー初優勝を達成し、今年は早々にメジャー優勝に王手をかけた。その活躍ぶりは前述の3人とは異なっている。スピースもジュニア、アマチュア時代に輝かしい成績を挙げたという点では彼ら3人と同じだが、スピースだけは大学時代に経済的困窮を味わい、生活難、生活苦という、ぎりぎりのプレッシャーを味わった。
 「大学時代の僕は、それはそれは貧しかった。失うものは何一つなかった」
 苦しみを乗り越え、精神的に強くなるという経験を、スピースはプロになる以前に人間として味わった。だから、プロになったときの彼は、すでに人間的に少し大人だった。
 だが、そんなスピースでも、オーガスタのサンデーアフタヌーンの戦いではバッバ・ワトソンに勝利を阻まれた。ワトソンのような選手がいたことでスピースは勝たせてもらえなかった。その理由は、スピースが少し大人になった以上に、スピースより格段に年上のワトソンがさらに成熟していたからだ。ワトソンもマスターズチャンプになり父親になったこの2年間で苦労を重ね、乗り越え、精神的に強くなっていた。
 そうやって、若者たちの成長や歩み以上に、大人の選手たちがもっともっと成長していく。だから、若者たちは、なかなか上に行かせてもらえず、勝たせてもらえない。それが米ツアーの層の厚さであり、それが現実であることを、しっかりと認識し、謙虚になれるかどうか。
 夢を捨てる必要はない。卑屈になる必要もない。だが、自信と過信は別ものだ。謙虚な姿勢からしか現実は見えず、精神面の成長もない。強い選手になる以前に、成熟した人間になれるかどうか。若者たちの成功を左右するのは、間違いなく、そこだ。
文 舩越園子(在米ゴルフジャーナリスト)
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