化粧品メーカーとして140年以上の歴史を持つ資生堂は、この4月よりグローバルブランド「SHISEIDO」の強化に乗り出している。老舗の復権を担うのは、新社長に就任したばかりの魚谷雅彦氏(59)だ。

 日本コカ・コーラの社長などを歴任し、国内外から“プロ経営者”としての評価も高い魚谷氏。業種をまたいで活躍するトップという点では、日本マクドナルドの元社長、原田泳幸氏(65)も有名だが、2人には共通点も多い。

 経済誌『月刊BOSS』編集委員の河野圭祐氏が解説する。

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 魚谷氏と原田氏。それぞれがトップを務めたコカ・コーラ、マクドナルドと言えば、米国の食を象徴する2大メガブランド。そして、両氏ともに日本法人を任せられたため、自社では海外展開ができず、国内市場だけで勝負しなければいけないという点で共通点があった。

 そこで大きくものを言うのがマーケティング力の巧拙だが、両氏はこれまた、マーケティングの達人として知られてきたのだ。

 原田マジックの肝は、割安価格でまず客数を上げ、そこから付加価値商品に誘導していくものだったが、そこには季節要因から時間帯の要因まできめ細かいマーケティングの仮説があった。

 タイミングよくセットメニューやイベント、期間限定キャンペーンなどを絡ませてきた。その勝利の方程式が崩れたのは、東日本大震災が起こった2011年から。同年はラストスパートで何とか前年比の売り上げをクリアしたが、2012年からは水面上に上がれない。

 原田氏がライバルとしたコンビニに何かと浸食され、マクドナルドの商品力が相対的に低下したことも効いて、同氏のプロ経営者としてのビジネス勘をもってしても再浮上できなくなったのが昨年だった。そして社長交代に至っている。

 マーケティングの考え方として、原田氏と魚谷氏には共通点がある。原田氏は過去、「お客の期待値を超える驚きが提供できなくてはいけない」と語っていたが、魚谷氏も自著の『こころを動かすマーケティング』(ダイヤモンド社)の中で次のように触れている。

<お客さまが変わったから自分たちも変化するというのではなく、ヒントになるような現象を見て、自分たちからその変化を先取りすることです。先回りして驚かせ、感動させることにマーケティングの面白さが潜んでいるのです>

 要は、時代の半歩先を行く感性というところだろう。魚谷氏のコカ・コーラ時代の大きな功績の1つが、女優の飯島直子を起用して「男のやすらぎキャンペーン」と銘打った缶コーヒーのジョージアのヒットであり、もう1つが「当時としてはまだ、大胆かつ先進的なネーミングだった」と魚谷氏も自著で回想していた「爽健美茶」といえる。

 一方の原田氏も「店舗デザインは企業の顔、ブランドなのです。従来の外食業界はまず商品ありきで、ブランド力をライフスタイルイメージにしていく力が弱い」と語り、黄色と赤の強烈なツートーンカラーイメージの店舗を落ち着いたモダンなデザインに変えていった。

 魚谷氏はマーケッターとしての力量が買われ、日本コカ・コーラの会長時代、NTTドコモの「特別顧問」に迎えられ、2008年に行われた新ロゴや4カテゴリーの新携帯端末シリーズの発表会で当時の社長とともに登壇、プレゼンまで行っている。

 この効果で、ドコモは一時的にだが、満足度調査でソフトバンクモバイルやKDDIを抜いて首位に立った。が、その後はiPhoneの登場と急速なスマホの普及で、ドコモは再び劣勢を強いられている。

 また飲料業界で見ても、トータルでコカ・コーラ陣営の首位の座は変わらないが、ここ2、3年、2位のサントリー食品インターナショナルにジワジワとシェアで差を縮められてきているのが実情だ。

 そこで両氏の「新天地」である。奇しくも、ほぼ時を同じくして、今度はともに外資系の日本ブランチから日本企業の再生にステージが移った。新規事業に打って出る、あるいは海外展開を強化する、さらにM&Aや持ち株会社化など、事業の可能性は以前よりも格段に拡大する。ただし、成功するのかどうかは両氏ともに未知数だ。

 原田氏の場合、教育分野ではIT通を利してタブレット端末などでのビジネスチャンスが広がる一方、介護関連事業は商売の目利きやマーケティングだけでは通用しない、難しい世界だ。

 魚谷氏も就任早々、コアブランドの絞り込みなどは表明したが、資生堂で一時期は成功要因だった国内のチェインストアとネット通販との棲み分け確立など、過去の生え抜きトップでは成しえなかった課題や、しがらみなくスクラップ&ビルドが保守的な老舗企業でどこまでできるかはわからない。

 原田氏が新たに就くベネッセHDの創業家は「福武家」、魚谷氏が掌握した資生堂のルーツは「福原家」。両氏のうち、どちらが早く企業の“福”をつかめるだろうか――。