企業の社外取締役導入、なぜ急増?経営トップ支持率を左右、増加する官僚からの“天下り”

写真拡大

「CEO(最高経営責任者)がお仲間を呼んでくるだけで、お目付け役になってさえいない」と苦言を呈し、社外取締役導入に強く抵抗してきたキヤノンの御手洗冨士夫会長兼社長が、3月末に開催した12月期決算の同社株主総会で、初の社外取締役となる齊田國太郎・弁護士(元大阪高検検事長)と加藤治彦・証券保管振替機構社長(元国税庁長官)を選任した。23年間に及ぶ在米経験を生かし、合理的経営を実践する御手洗氏は、米国流経営の長所と短所を知り尽くしており、社外取締役について「お飾りだ」と言い続けてきた。

 3月10日付日本経済新聞記事の中で御手洗氏は、社外取締役導入を決断した理由を次のように語っている。

「1つはM&A(合併・買収)への法的対応の強化。そこで法務部門の指導や人材育成を弁護士で元大阪高検検事長の齊田國太郎氏にお願いした。もう1つは移転価格税制への対応。国際税務部門の人材を育て外国政府との交渉力を高めるために元国税庁長官の加藤治彦・証券保管振替機構社長をお招きする」

 一方で御手洗氏は「体裁を整えるために社外取締役を導入しても仕方がない。この点で私の信念は全く変わっていない」と語っているが、御手洗氏が意に反して社外取締役を受け入れたのは、政府と機関投資家からの圧力に押されたためだといわれている。

 昨年6月に閣議決定した安倍政権の成長戦略には、「会社法を改正し、外部の視点から社内のしがらみや利害関係に縛られず監督できる社外取締役を導入する」と盛り込まれた。現在、国会で議論されている会社法改正案では、社外取締役を置いていない大企業に対し、株主総会でその理由を説明することを義務付けている。

 かねて御手洗氏は社外取締役を置かない理由について、「日本の会社では入社してから30年間、仕事の能力や人格やいろいろなことをチェックされて、この人ならいいだろうということで役員に選ばれる。米国のようにいきなりヘッドハンティングされて社長になるわけではないので、外部の目でチェックする必要はない」と主張してきた。

 だが今回、キヤノンがこの方針を転回した理由としては、大手の議決権行使助言会社が「社外取締役が1人もいない場合、経営トップの役員選任議案に反対するように」と機関投資家たちにアドバイスしたことが大きかった。

 キヤノンの昨年3月の株主総会では、御手洗氏の選任議案における賛成票が72.21%で、その他の取締役の賛成票が90%を超えていたのに比べて異例の低さだった。今年の株主総会における御手洗氏の選任議案の賛成票は90.08%と、社外取締役を導入したことで反対票が劇的に減った。

●大手企業が続々と社外取締役を導入

 キヤノンと並んで社外取締役導入反対の立場だった新日鐵住金も、大塚陸毅・東日本旅客鉄道(JR東日本)相談役(元社長)と藤崎一郎・日米協会会長(前駐米大使)を社外取締役に起用する。6月下旬に開催する株主総会で承認を得て就任する。

 新日鐵住金が社外取締役を起用するのは初めてだが、同社もキヤノン同様に昨年の株主総会で批判票が大量に出た。宗岡正二会長の賛成票は78.12%、その前年の合併前の新日鐵の総会より10ポイント強も得票率が下がった。友野宏社長も79.51%にとどまり、社外取締役を置かないことに批判が集まり、導入に踏み切った。

 社外取締役がいない企業の象徴だったトヨタ自動車は、昨年6月の株主総会で一気に3人を起用した。マーク・ホーガン元ゼネラル・モーターズ(GM)副社長、宇野郁夫日本生命保険相談役、加藤治彦元国税庁長官の3人だ。起用に当たりトヨタの豊田章男社長は、「より開かれた会社になってグローバルに発展したい」と述べた。

 社外取締役には、企業のコンプライアンス(法令順守)や株主の利益が守られているかをチェックする重要な役割がある。株主である機関投資家の発言力が強まる中で、彼らをサポートする格付け会社や議決権行使助言会社が、社外取締役導入の必要性を強く訴えていることが、企業にその導入を強く後押しする事態が進行している。

官僚の新たな“天下りポスト”化の懸念も

 以上みてきたような動きを受け、東京証券取引所は上場基準を改正し、今年2月から上場企業に対して独立取締役(社外取締役)を1人以上確保する努力義務を課した。キヤノンの社外取締役に起用されたのは、トヨタと同じ加藤治彦氏。現在は、財務省の天下り先である証券保管振替機構社長を務めているが、企業ににらみを利かせる国税庁の有力OBだ。

 キヤノンのもう1人の社外取締役の齊田國太郎氏は、検察OBで住友大阪セメントと平和不動産の社外取締役も兼務している。住友商事は昨年、松永和夫・前経済産業省事務次官を社外取締役に起用した。カゴメは今年、近藤誠一・前文化庁長官を起用する。社外取締役のポストは、官僚の格好の天下り先となりつつある。

 注目は、みずほフィナンシャルグループ(FG)の社外取締役だ。みずほ銀行の暴力団関係者への融資を放置していた問題を受けて、佐藤康博みずほFG社長は「6月に委員会設置会社に移行し、社外取締役のもとで新しい組織として、みずほFGは生まれ変わる」と宣言した。

 みずほFGでは現在、野見山昭彦(JXホールディングス名誉顧問)、大橋光夫(昭和電工相談役)、安楽兼光(日産自動車元副会長)の3氏が社外取締役を務めている。だが、この3氏は暴力団向け融資の資料を見る立場にあったため、通常なら続投は困難である。

 6月の委員会設置会社への移行に合わせて、新しい布陣を3月中に発表するとしていたが、5月に先送りされた。社外取締役の人選が難航しているからだ。

 社外取締役を導入する動きが広がる中、果たしてどれほど本来求められる機能が働くのか、もしくは結果的に官僚の天下りポストを増やすだけで終わってしまうのか。今後の動向を踏まえ、日本の企業文化に合った社外取締役のあるべき姿について、十分な検証が必要になってくるといえよう。
(文=編集部)