年間取扱高4000億円以上を誇る“世界最大の魚市場”築地市場。海外からの観光スポットとしても注目を集めるが、その華やかなイメージのウラで、どのように巨額の魚マネーが動いてきたかは、これまでベールに包まれてきた。本誌連載「サカナとヤクザ」で密漁という業界最大のタブーを暴いた鈴木智彦氏が、ついに本丸へ潜入した。

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 師走の凍てつく午前2時、原付バイクを走らせた。自宅のある練馬から1時間、股引を2枚穿き、作業着にカッパを重ねても体が震える。行き先は世界最大の魚市場──東京・築地の魚河岸だ。ネットで老舗仲卸の求人を見つけたのは1週間前だった。応募すると即決で、翌日から軽子(かるこ)と呼ばれる運搬人として働き始めた。

 仲卸は築地に7社ある卸業者から、直接魚を買える鑑札を持った業者のことである。売買参加権の鑑札を持たない業者は、この仲卸を通じてしか魚が買えない。卸→仲卸→小売店→消費者という流れを経て魚が売買され、1回の商いあたり1割から3割の利益が上乗せされる。仲卸と小売の間に、「納め屋」という仲介業者がさらに挟まる場合もある。

 たとえば卸業者がキロ700円で鮭を売ったとしよう。これを買った仲卸は原価の700円に1割の利益を上乗せし、770円で小売店に売る。小売店はこれに3割から5割の利益を乗せ、1000円から1200円程度で売るのだ。

「ただし、相場がほぼ確定している魚もある。旬の時期のサンマは、よほどのことがない限り、1匹100円程度が相場だ。逆算すると70円程度の卸値だが、これが築地では1匹5円で買えたりするから気が抜けない」(仲卸業者の役員)

 底値でサンマを買いつけ、100円で小売店に売り抜ければ、5円で買ったサンマが100円に化ける。株式市場に似たギャンブル性がある。仲卸業は、荷主から魚を買い付け、それに利益を乗せて転売する。魚の値段を大きく左右する存在である。理論的にはメーカーと消費者の間の工程が少なくなればなるほど、魚の価格は安くなる。

 が、仲卸にも存在理由はある。

 市場に過当競争が蔓延すれば、そこにまた別の不正がはびこってしまうのだ。産地偽装し、安い魚を高く売りつける悪質業者に対しては、いまのシステムが確実に抑止力になっている。価格が下がった、しかし品質もまた下がった、となれば、消費者にとっても歓迎すべき事態ではないだろう。

 仲卸の経営者たちも、自分たちが衰退産業であることは自覚している。バブル期、2億円で取引された仲卸の鑑札は、いまや700万円程度にまで暴落。今の仲卸は半分以上が赤字経営の零細企業で、豊洲への移転が実現した際には、600社ある仲卸業者の半分近くが廃業する見込みだ。

「引っ越しの費用だけでも数千万円はかかる。赤字なのにそんな金は出せない。不透明なことが多く、市場内の動線もメチャクチャなまま計画が進んでしまったよ」(4人の従業員を抱える業者社長)

※週刊ポスト2014年5月9・16日号