「先進国→新興国」だったマネーの流れが「新興国→先進国」へと逆転し始めている。リスクオフの流れが広がることで、世界経済全体の成長率に影響が出る可能性も出てきた。これは1994年型の危機とよく似ているという指摘がある。

ニューヨークでは年初から、CFR(外交問題評議会)といったシンクタンクやウォール街の金融機関が今年の世界経済の懸念事項として新興国を挙げている。反政権デモが続くウクライナやタイに代表される地政学的リスクだけでなく、インフレ圧力に外貨流出という新興国特有の経済危機が世界経済の成長に与える影響を恐れているのだ。

通称「フラジャイル・ファイブ(脆弱な5カ国)」。アナリストらが注目するのが、ブラジル、インド、インドネシア、トルコ、南アフリカの新興国群である。5カ国とも国家のキャッシュフローともいえる経常収支が赤字で、対外短期債務に対する外貨準備高の水準が低い。

フラジャイル・ファイブでは、昨年末から通貨、債券、株式が同時に売り込まれる「トリプル安」が加速しており、安全通貨とされる米ドルや円に資金が還流している。新興国の株価動向を示すMSCI新興国指数は、1年前から約1割低い水準に低下した。

つまり、「先進国↓新興国」だったマネーの流れが「新興国↓先進国」と逆転し始めたのだ。リスクオフの流れが広がることで、世界経済全体の成長率に影響が出る可能性が出てきた。「今年の経済環境は1994年の相似形ではないか」。こんなことも投資家の間でささやかれるようになった。

1994年当時は足元と同様に長短金利差が小さく、金利曲線が平たかった。米国の投資家は運用難に陥り、高利回りを求めて新興国の債券を積極的に購入していた。だが、インフレ圧力を嫌ったFRB(連邦準備制度理事会)が金融引き締めを決めると、新興国から資金が流出し、「テキーラ・ショック」と呼ばれる新興国危機が発生した。

あおりは米国内にも還流する。複雑な金融派生商品を組み合わせることで金利の低位安定に賭けていた米国カリフォルニア州オレンジ郡が巨額損失を抱えて破綻し、地方債市場が混乱した。債券買い入れ(量的緩和)規模を縮小する「テーパリング」という形態だが、FRBは金融緩和策の解除に乗り出している。シャドーバンキングに代表される中国の不良債権問題に対する懸念が伝染した側面もあるが、足元での新興国経済の混乱は、根っこは1994年危機と同じ。FRBが出口戦略のレールを敷いたためだ。

新興国の対外債務は多くがドル建て。資本流出を防ぐためには、マネーサプライのM2(現金と預金の合計)と同じ水準の外貨準備が必要だが、およそ2〜3割程度にとどまる。1月半ばにCFA(米国証券アナリスト協会)がカリフォルニア州オレンジ郡で主催した勉強会で関心が集まったのが、金利上昇局面での資産運用。基軸通貨国の政策転換は、低金利の米ドルで資金調達して新興国の証券に投資していた「キャリートレード」の巻き戻しを意味する。折しも、「ビッドコイン」も急落中。「過剰流動性相場」終焉の号砲が鳴ったのだ。

松浦 肇

産経新聞

ニューヨーク駐在

編集委員

まつうら・はじめ/日本経済新聞記者、コンサルタントなどを経て現職。ペンシルベニア大ウォートン校、コロンビア大法科大学院、同ジャーナリズム・スクールにて修士号を取得。




この記事は「WEBネットマネー2014年5月号」に掲載されたものです。