今週はこれを読め! SF編

 ロラン・ジュヌフォールはフランスの現役SF作家。かの地のSFというと、ぼくあたりの世代はかつてのサンリオSF文庫(ミシェル・ジュリやフィリップ・キュルヴァルなど)、それより少し前に邦訳されたレジス・メサック(牧神社から全3巻の全集が出ていた)など、異端文学的な濃密文学空間の印象がまずあるのだが、本書はそれとはまったく別の系統だ。むしろジュール・ヴェルヌの21世紀モード。ヴェルヌの逞しい想像力がおよそ一世紀のあいだ英米SFに預けられ、さまざまな養分をぞんぶんに吸収して、ふたたび源流へ戻ってきた! いや、実際のSF史はそう単純じゃないのだけど、まあ、断片的にしかフランスSFに触れられないでいた日本の読者としては、そんな感慨すら抱いてしまう。雄大にして現代的なSFだ。



 題名の『オマル』は、物語の舞台そのものを示している。複数の知的生命種が棲む天体で、総面積が地球の5000倍......ってどんだけ広いんだよ!(ちなみに太陽系最大惑星の木星でもたかだか120倍程度) それほど広いと全体像など知りようないのだが、とりあえずこの物語はヒト族、シレ族、ホドキン族という3つの知性種が併存する地域(それだけでも地球の200倍)で進行する。この3種族ともオマルで発生したのではなく約1500年前に移住してきたらしいが、その起源はもはや曖昧だ。理論物理や天文学はあまり発達していない一方で、自動機械がそれなりに普及している。特別な者しか使用できないが大型コンピュータ(十二面体人工頭脳[ドデカエドル])も存在している。生活全般としてはローテクだが、滅びゆくハイテクがまだらに混じっている。この設定がなかなか良い雰囲気で、ちょっとスチームパンクっぽい。なにしろ、物語の導入から前半にかけては、巨大飛行船によってのトラヴェローグなのだ。



 互いに顔も名前も知らない6人が、何者かの導きで飛行船イャルテル号に乗りこむ。彼らの元に送られてきた乗船券はなんと22年前に発券されたもの。そして、一人ひとりが卵の殻の欠片(内側にメッセージが刻まれている)を携えている。それが互いを識別する符牒で、全員分を嵌めあわせるとひとつの卵が完成するのだ。22年前からの乗船券にせよ、6つに割れた卵にせよ、いかにも時代がかった冒険小説の道具立てで、もうそれだけで楽しくなる。



 イャルテル号に集まった6人は、それぞれがいわくつきだ。随意に無の境地に達することができるアメス(ホドキン族男性)、タフでシニカルなシェタン(ヒト族女性)、麻薬中毒のアレクサンデル(ヒト族男性)、屈折した自信家の小説家カジュル(ヒト族男性)、乗船券を使わずなぜか船医として乗りこんでいるハンロルファイル(シレ族男性)、海賊を率いて飛行船を強奪しようとするシカンダイルル(シレ族女性)。この6人は「旅の仲間」になるのだが、そもそも利害や思惑が一致しているわけではなく、種族間のこじれた問題(かつては激しい抗争があったし、心理的/文化的な軋轢と依存が入り組んでいる)も手伝って、疑心暗鬼や暴力的衝突も生じる。しかし、飛行船が危機に陥り、彼らはいやおうなく協力をしなければならぬ状況へと追いこまれてしまう。



 そうしたピンチのなかにあってもなお、6人はひとつになった卵が示すゲームに興じる。そのフェジイと呼ばれるゲームは、チェスや碁に似ているが数人の競技者がグループでおこなうもので、遊技という以上に宗教的儀式に近い。このあたりはジャック・ヴァンスが用いそうな趣向だ。



 ゲームの導入は意匠のみならず、作品構造においても重要な意味を持つ。6人はフェジイで負けた者が自らの秘められた過去を告白するルールを追加する。かくしてこの作品は、登場人物がそれぞれの物語を順に語っていく「枠物語」となるのだ。この形式の代表は『デカメロン』や『カンタベリー物語』だが、SF読者にはダン・シモンズ『ハイペリオン』をあげたほうがわかりやすいだろう。



 そして、枠物語内で明かされる登場人物のそれぞれの来歴が、オマル世界の異様性をさらに際立たせる。異種族を家畜人として使役する風習、不老不死の秘法、太陽崇拝教が資金援助する天文学の研究、通常は双子で生まれるシレ族が単独で生まれた場合にたどる運命......それら挿話は別個に興味深いが、それだけにとどまらず、やがて6人がイャルテル号の旅に導かれた理由と関わっていることがわかってくる。さらにその先には、オマルそのものの真相へつながる大きな扉が。



(牧眞司)




『オマル-導きの惑星- (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)』
 著者:ロラン ジュヌフォール
 出版社:早川書房
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