本と人との関係性を構築する場所、メディア、そしてコミュニティづくりのために日々奔走する、ブック・コーディネイターの内沼晋太郎さん。今回はそんな内沼さんが本にまつわる仕事を始めた背景と、昨年12月に出版した著書『本の逆襲』に込めた思いをうかがいました。

「学生の頃から、『本』というものが大好きでした。読むのはもちろんですが、特に大学時代には自分で雑誌を作っていたということもあって、いずれは読み手ではなく書き手・作り手として、本に関わる仕事がしたいと考えていたんです。当時、僕は自分の雑誌の営業も兼ね本屋巡りをしていたんですが、同時に出版という業界自体にも興味がわき、出版業界に関する本を手に取るようになりました。

 その頃から『出版業界は厳しい』とかよく言われていたんですが、自分自身も本はたくさん買って読んでいるし、本屋にだってちゃんとお客さんはいる。だから、正直業界自体を悲観的には見てはいなかったんです。でも、出版業界に関する本を読み進めるにつれ、だんだんとこの業界の全貌とその仕組みが見え始めてきました」

 業界の現状を知り、どうして本が売れなくなってしまったのか、その理由を探りはじめた内沼さんは、とあることに気がついたといいます。

「作者や本屋の店員は『この本が面白いですよ』『おすすめはこの本です』と、自分が買ってほしいと思う一冊を売ることで精いっぱいで、肝心の"本そのもの"の面白さを伝えようとしている人はどこにもいないように思えました。加えて、当時はインターネットやゲーム、携帯が普及し、人々の興味はそういったものにどんどん移ろうとしていた時代です。でも僕は、本はネット以上にたくさんの可能性を秘めているし、何よりも面白いものだと確信していました。本と人が出会う場所づくりをする仕事がしたいと思うようになったのも、その頃からです」

 そんな思いがきっかけで、現職に至る内沼さん。ブック・コーディネイターとしての経験を基に綴られた著書『本の逆襲』は、これから本に関わる仕事をしたいという人に対する、一種の啓蒙書のような一冊となっています。

「一般的に、出版業界でいう『本』とは、出版社がつくるバーコードが付いていた紙の束を、取次という会社が流通し、全国の本屋に並べて、一定の期間で売れなかったものは返品され、断裁されるという一連の流れに乗った商品のことを指します。でも、それに乗っかっていない『本』が、実はいま、たくさん生まれてきているんです。加えて、最近では新しい本屋や、実際に本屋を営んでいるわけでなくとも本に関わる仕事をしている人も増えてきています。この『本の逆襲』では、そういう人たちの活動や僕自身の取り組みを取り上げつつ、『本』と『本屋』の新しい形を紹介しています」

「本屋」の意味が広義化するなか、内沼さんが思う、今一番勢いのある"個人経営の本屋"は、なんと「ブログ」なのだとか。

「ブログの中で紹介された本が気になって、早速Amazonで購入することってありますよね。人気のブログであれば、一度紹介しただけで何十、何百と売れるケースもあります。小さな街の本屋はもちろん大手書店であっても、一日に同じ本をそんなにたくさん売り上げることはまずありません。ビジネスとして本を売っているわけではなくても、ブログも立派な"本屋"なんですよね。これも、ここ数年で誕生した新しい本屋の形といえます」

 新たな本との関わり方を模索し、提案することで本と人とをつなげたいと考える内沼さん。最後に、そんな内沼さんが本の未来に託す思いを、同書の中から一節ご紹介します。

「この10年現場で経験したことからも、決して未来が明るくはないということがよく分かりました。しかし一方で、例えば『飲食業界の未来』と『食の未来』、『アパレル業界の未来』と『ファッションの未来』とが別であるように、『出版業界の未来』と『本の未来』とは、別のものだと考えるようになりました。『出版業界の未来』ははっきり言って暗いけれども、生き残る方法はたくさんあるし、『本の未来』に至ってはむしろ明るく、可能性の海が広がっているとぼくは考えています」

 後編では、ご自身でも本屋「B&B」を手がける内沼さんが、本屋づくりの上で大切にしていることをおすすめの本とともにご紹介します。お楽しみに!




<プロフィール>
内沼晋太郎
うちぬま・しんたろう/1980年生まれ。ブック・コーディネイター、クリエイティブ・ディレクター。「本とアイデア」のレーベル「numabooks」主宰。著書に『本の未来をつくる仕事/仕事の未来をつくる本』(朝日新聞出版)や『本の逆襲』(朝日出版社)がある。




『本の逆襲 (ideaink 〈アイデアインク〉)』
 著者:内沼 晋太郎
 出版社:朝日出版社
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