いい父親であり、いい夫であるクーチャーのメジャー優勝の日は (Photo by Streeter LeckaGetty Images)

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 RBCヘリテージは72ホール目でバンカーからのチップイン・バーディーを決めたマット・クーチャーが「64」というビッグスコアをマークし、4打差を覆す大逆転優勝を飾った。
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 最終日を首位でスタートしたルーク・ドナルドは72ホール目でバーディーを奪えば、クーチャーとのプレーオフに持ち込むことができたが、グリーン右からの第3打をチップインできず、ボールがグリーン上に静止した瞬間、クーチャーの優勝とドナルドの惜敗が決まった。
 先週のマスターズは初出場者が史上最多の24名に膨れ上がり、バッバ・ワトソンがわずか3年以内に2度目のグリーンジャケットを羽織り、そしてジョーダン・スピースとジョナス・ブリクストという20歳代の若者2人が2位になった。
 ゴルフ界の時代を担う顔ぶれは、どんどん変わっていくのだなと痛感させられた。新風と変化に溢れたマスターズの翌週だからなのか、それとも赤と白の灯台が昔も今も18番グリーン奥に変わらずそびえるせいなのか。今週のヘリテージは一転して妙に懐かしさを感じさせられた。
 最終日はクーチャーが早々にプレーを終えてクラブハウスで後続のホールアウトを待っていたため、クーチャーを応援する「ク〜〜〜!」とドナルドを応援する「ル〜〜〜!」が直接的にぶつかり合う形にはならなかったが、90年代の名残りを感じさせるこの2人が競い合ったことが、なんとなく私にはうれしく感じられた。
 思えば、90年代後半、ドナルドは「欧州一、世界一のアマチュア」と呼ばれ、全米アマを制したクーチャーは文字通り「米国一のアマチュア」に輝いた。プロ転向し、「今度は世界一のプロになることを目指す」と語ったドナルドの希望に満ちた表情は今でも忘れられない。
 一方、クーチャー旋風の中、高額のスポンサー契約のオファーをすべて断り、大学卒業と社会人経験を優先してプロ転向のタイミングを遅らせたクーチャーが「見聞を広げてからプロになって良かった」としみじみ語った日のことも忘れられない。一口にプロゴルファー、米ツアー選手と言えども、それぞれに、それぞれの道がある。
 クーチャーは2000年、ドナルドは2001年にプロ転向。以後の10数年間でドナルドは米ツアー5勝を挙げ、一度は世界ランク1位に輝いて「世界一のプロ」になった。クーチャーは2012年のプレーヤーズ選手権、2013年のアクセンチュア・マッチプレー選手権、メモリアルなどビッグなタイトルを次々に獲り、今大会で通算7勝目を挙げた。
 だが、どちらも今なお「メジャータイトルなきグッドプレーヤー」のままで、彼らがメジャー優勝できないのはゴルフ界の七不思議の1つと言っても過言ではない。
 実際、クーチャーは先週のマスターズで優勝争いに絡み、最終日は首位に立った場面も瞬間的にはあった。その前週、前々週のテキサス2戦は4位と2位。マスターズは5位、そして今週は優勝。「多くの選手はメジャーに照準を合わせて調子を上げていき、メジャーで自分のゴルフを最高レベルに持っていく。だからメジャー翌週はその余韻で好プレーができることは多い」。クーチャーは持ち前の穏やかな笑顔のまま、そう分析した。
 クーチャーの過去の戦績を振り返れば、マスターズは今年が8度目の出場で一昨年は3位、昨年は8位、今年は5位。その翌週のヘリテージは過去にトップ15入りが4回。なるほど、彼が唱えた「メジャーと翌週の好調持続説」は数字が実証している。
 けれど、どんなに上位入りを続けても「マスターズに勝っていない、メジャーに勝っていないという事実に変わりはないのでは?」。そう問われても、クーチャーは相変わらず、穏やかな笑顔のまま、こう言った。
 「そりゃあ、メジャーは重要な位置付けの大会だけど、僕は毎週、どの試合も万全の準備で迎え、全力投球する。ベストを尽くすのみ」
 クーチャーにとっては、米ツアー選手として、試合に出て勝利を目指すことこそが、彼の生きる糧であり、プロとしての仕事であり、メジャーはその中で最大の栄誉や賞金をもたらすbiggestな大会。ただ、それだけの違いだと彼は考えている。
 プロ転向したクーチャーがシード落ちして下部ツアー行きになり、再び米ツアーに戻ってきたときでさえ、穏やかに笑っていられたのは「どちらのツアーも戦う場所、戦わせてくれる場所。規模やレベルは違うけど、ただ、それだけの違いだ」という考え方ができたからだろう。
 プロになる前に普通の社会人の経験を味わうことを優先したクーチャーは、結婚し、子供ができ、父親になってからは、どんなときも家族を優先してきた。今日の最終日もドナルドらのホールアウトを待つ間、クーチャーはロッカールームで家族と一緒だった。表彰式でも妻と2人の息子を常に傍らに置き、家族みんなで優勝を喜び合っていた。
 そんなクーチャーを眺めていると、プロゴルファーはゴルフ一色、優勝一筋になりすぎないほうが、息の長い選手、安定した強さを備えた選手になれるような気がしてくる。ファミリー最優先のフィル・ミケルソンはメジャー5勝を挙げ、ファミリーマンになったと自負するワトソンはマスターズ2勝目を挙げた。
 プロゴルファーである以前に、いい社会人、いい父親、いい夫であろうとするクーチャーが、メジャー優勝を達成する日も近いうちに訪れてくれるのではないか。
そう願わずには、いられなくなる。
文 舩越園子(在米ゴルフジャーナリスト)

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