集客数700万人を3年で50%増! USJ、背水の陣でアイデア連発
■倒産危機でも、450億円の巨額投資!
「東のディズニーランド、西のUSJ」と2001年に鳴り物入りでオープンし、世界中のどのテーマパークよりも速いペースで開業からの来場者数1000万人を突破したユニバーサル・スタジオ・ジャパン(以下、USJ)。
ピーク時は年間来場者数1100万人を達成したものの、その後は700万人台にまで落ち込んで慢性的な集客不足にあえぎ、倒産の危機さえささやかれた。
しかし、そのUSJがここ3年で業績を急上昇させ、奇跡のV字回復を果たした(2013年度は集客数1050万人)。そして満を持して、近々、パーク内に約450億円もの巨額を投じたハリー・ポッターの新施設'THE WIZARDING WORLD OF Harry potter'をオープンさせる。
西日本だけでなく、東京を含む東日本や広くアジアからの集客も見込めるこの新施設でさらなる飛躍を狙っているのだが、この一連の復活の快進撃を演出したのが、チーフ・マーケティング・オフィサー(CMO)の森岡毅だ。
現在41歳の彼は、いかに一度低迷したパークを立て直したのか。
■自粛ムードで計画頓挫の危機
2011年3月12日朝の出来事を、森岡は「全身から血の気が引いていくような感覚だった」と振り返る。
「毎時間あたりのゲストの入りをチェックするのが私の日課です。もちろん、あの大震災の翌朝なので相当低い数値を予想していました。でも、その数値のさらに半分しか入らなかったのです。最初はシステムのエラーかと思ったのですが、オフィスの上階にあるパークチケットブースに上がり、実際に来場ゲストの数を目の当たりにして、文字通り目の前が真っ暗に感じたのを覚えています」
2011年3月11日に発生した東日本大震災。その影響はUSJのある関西にも及んだ。
とりわけ震災後に日本全国を覆った自粛ムードがエンターテインメント産業であるUSJを窮地に立たせたのは確かだ。
実は、震災のわずか約1週間前に10周年イベントがスタートしたばかり。そのイベントのいわば実行隊長的存在が、森岡だった。
P&Gなど外資系企業を渡り歩いてキャリアを積み、2010年に "マーケティングのプロ"として招かれた森岡。まずやらなければならなかったのは集客数が700万人台にまで落ち込んでいた問題点をあぶり出し、テコ入れすることだ。
そこで森岡がぶちあげたのは、前出の新施設「ハリー・ポッター」を数百億円かけてつくる前代未聞のプロジェクトだった。年間売上が800億円程度の企業が手掛けるには、あまりに無謀な賭けである。逆に言えば、それほど当時のUSJが追い込まれていたということだろう。
新施設の完成予定は2014年。その一大プロジェクトにパークの命運を賭け、背水の陣で予算を投入する分、10周年を迎えた11年からの3年間、「金がない、人手が足りない、時間もない」という三重苦の状態になった。それでも、この間を黙って耐えていればいいというほど余裕はない。
低予算のなか、森岡は持ち前のマーケティング力を駆使し、アイデアを出した。
●目の錯覚を利用したトリックアートをパーク内に散りばめる
●クルー(従業員)が突然楽器を鳴らしながら踊り始めて、客を楽しませる
当時はまだ他のパークでは見られなかったサプライズ企画を森岡主導で打ち立てたのだ。また、漫画・アニメ「ワンピース」のショーもパワーアップさせた。
「これなら、新アトラクションはなくても昨年対比プラス8%も達成できる」(森岡)
いい感触をつかんでいた矢先……あのM9.0の大地震と大津波が列島を襲った。
震災による集客の落ち込みは4月に入っても収まらず、10周年の集客目標は誰の目にも達成不可能に見え、社内は重苦しい空気に呑み込まれたという。
「自粛ムードの潮目を変えなくてはならない」
そのとき森岡がひねり出したアイデアは、「キッズフリー」。子供を無料にするという突飛な案に上司も部下も絶句し、「10%オフにしたら?」「せめて半額で!」と猛反対した。
それでも、結局「子供は入場料無料」が決定したのは、「関西から日本を元気に!」というメッセージを発信し、大震災の衝撃で心を痛める日本中から肯定的に受け止めてもらうことが、USJを再起させるために必要なアイデアコンセプトであると周囲が認めたからだろう。
「震災ショック」はキッズフリー作戦というウルトラCで切り抜けた。だがピンチはまだ続く。10周年を成功させなければ、14年のハリー・ポッター計画が頓挫する可能性があったのだ。
「2011年に当たったのは、『ハロウィーン・ホラー・ナイト』です。ゾンビに扮装したクルーをパークに放って、パーク全体をお化け屋敷にしたのです。昼とは違う、夜のダークサイドな"コワ楽しい"体験は大ヒット。日本人のハロウィーンの楽しみ方自体を変革して、毎年巨大な需要を作り出すことに成功しました」(森岡)
窮地を救う、森岡のアイデア力。次回以降、その源泉と発想の手法に加え、上司説得術、部下操縦といったスキルを具体的に明らかにしていく。(文中敬称略)
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(角川書店刊)
今回インタビューしたUSJのV字回復の立役者・森岡毅氏が約3年間の復活のプロセスを執筆したビジネス書。独自のフレームワークを駆使したアイデア発想法など仕事で使えるスキルが満載。
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(大高志帆=文)