消費増税から半月が過ぎたが、そろそろ「3%」という数字の重みを実感し始めた頃ではないだろうか。

今回の消費増税は、消費増税法(正式名称『社会保障・税一体改革関連法』)の“景気条項”という附則によって最終的な実施時期が決定された。昨年の4−6月期の経済成長率や物価動向のデータが昨年秋に発表され、その数値をもとにした日銀の分析結果(日銀短観)から、「増税しても大丈夫な景気状況である」と判断され、安倍政権は増税にゴーサインを出したというわけだ。

だが本当に、日本はデフレから脱却できたのだろうか? 大手外資系金融機関のエコノミスト・S氏は、「私はかなり疑わしいと思っています」と語る。

「経済成長率を算出する際に使われるGDP(国内総生産)には、『実質』と『名目』の2種類があります。

実質GDPとは国内で生産された物やサービスの総量のことで、この伸び率を算出したものが経済成長率です。一方の名目GDPとは、物やサービスの提供者(つまり企業など)が実際に受け取ったお金の総額です。

例えば実質GDPが名目GDPを上回った場合、物やサービスの供給量が需要を上回っていることを意味するので、物価は下落に向かう可能性が高い。つまりデフレになる。これが逆だとインフレ傾向になります。

ここで注目してほしいのが、名目GDP÷実質GDPという計算で出される『GDPデフレーター』という指標です。バブル期だった90年代のGDPデフレーターの数値は100%を大きく超えています。これは需要が供給を大きく上回っており、物価が上昇傾向にあったことを示しています。

では最近の数値はどうか。アベノミクスによる“異次元の金融緩和”によって物価が上昇に転じ、デフレが解消したと考えられるから消費増税を判断したはずなのに、2010年が94.15%、11年が92.38%、12年が91.57%、そして13年が91.27%と、GDPデフレーターの数値は下落し続けているのです」

GDPデフレーターとは、「100%を切った瞬間に即デフレ状態」という指標ではないが、91%台という数値はデフレ傾向の経済状態にあると見たほうが自然。それにもかかわらず、消費者物価指数は1.5%ほど上がっている。なぜか? ここにアベノミクスの危険なカラクリがあるとS氏は言う。

「“異次元の金融緩和”によって急激な円安に誘導したのは輸出産業を活性化するためだとされていますよね。しかし本当の狙いは、原油や天然ガスなどのエネルギー輸入コストを大幅に上昇させ、デフレからインフレに転じましたよという数値を手っ取り早く叩き出すことだったです」

どういうことか?

「エネルギーコストを大幅に上昇させれば、発電コストも輸送コストも大幅に上がりますから、消費者物価指数も簡単に上昇する。

しかしこれで、デフレ脱却だと胸を張られちゃたまりません。だってデフレの悪いところは物価の下落ではなく、それと同時に雇用も賃金も減って経済規模がどんどん縮小してしまうところにあるのです。なのに、賃金の上昇率を大幅に超える物価上昇に加えて増税もして、国民の生活が良くなるわけがありませんよ」

景気が上向いたから増税したのではなく、増税するために景気を上向きに“見せかけた”。生活が苦しくなったのは、気のせいではなく当然のことなのだ。

(取材/菅沼 慶)