期待と不安――。不思議なことに、マスターズという大会は、初出場のときよりも、出場回数を重ねるほうが、選手が抱くその振幅(しんぷく)は大きくなる。

 2011年にアマチュアで初出場して、見事日本人選手として初のローアマ(ベストアマチュア。全体で27位タイ)を獲得した松山英樹。2年ぶり3度目のマスターズに挑む彼も、プロとして初めて挑む今回、激しく揺れ動く"期待感と不安感"を初体験することになるだろう。

 そんな松山が、4月8日(火)の午前10時、公式記者会見場に現れた。

 マスターズ初出場でローアマとなり、昨年プロに転向したばかりで、日本ツアーで賞金王を獲得。さらに海外メジャーの全米オープンで10位タイ、全英オープンで6位タイ、そして全米プロでも19位タイと奮闘した。加えて、今季米ツアーでも、開幕戦のフライズドットコムオープンで3位タイ、ウェイストマネジメント・フェニックスオープンで4位タイという好成績を収めて、現在の世界ランキングは26位(4月10日現在)。そうした実績により、公式記者会見場に呼ばれ、大会前の注目選手としてインタビューを受けたのである。

 その会見で松山は、きっぱりとこう言った。

「(マスターズに)出られたからには、優勝を目指す。その喜びを大事にしたい。アマチュアのときは、ローアマを目指してがんばったけど、プロになったら、優勝を目指して戦う」

 そういえば、タイガー・ウッズがプロに転向してすぐに挑んだマスターズでも、同じフレーズを聞いた。かつてフィル・ミケルソンも、「今こそ、僕ら世代の選手が優勝する時期なんだ。そのチャンスを自分が手に入れなくてどうするんだ」と言っていた。

 言葉数の少ない松山だが、彼が放った「優勝を目指す」という単純なひと言も、芯がキリリとしていて、十分に伝わるものがある。

 振り返れば、松山は2011年にマスターズでローアマになったあと、翌年も挑戦したが、ローアマ獲得は叶わなかった(最終日に崩れて、アマチュア選手で2位。全体で54位タイに終わる)。そして昨年の大会は、前年のアジアアマ(2012年11月)で優勝を果たせず、出場権を得られなかった。その出場を逃したマスターズの開幕を前にして、松山はプロ宣言。それは、自分の当面の目標を「マスターズで勝つこと」として、戦う決意したからだろう。

 そのマスターズにおいて、出場回数を重ねる選手ほど、期待と不安の振幅の波が大きくなるのは、オーガスタというコースが知れば知るほど難しくなることと、マスターズという怪物的な大会に対する"畏敬(いけい)の念"を抱くからだ。なおかつ、そこで「優勝する」という決意の強さがあるからである。

 今回、3度目の出場となる松山も、オーガスタというコースをより深く知ることになる。そこで、いろいろなことがわかるから、自分も「やれる」という思いは当然生まれる。一方で、無我夢中で手探りでプレイしていたときと違って、コースの本当の"怖さ"を知ることにもなる。そのうえで、プロとして「勝ちたい」という思いが強くなればなるほど、期待は増すし、不安も膨らむ。その気持ちをどうコントロールしていくか、それが勝負の分かれ目となる。

 さて、今年のマスターズは、タイガー・ウッズが欠場したことで、大波乱が起こりそうな気がする。なぜなら、主軸となる"ロールプレイヤー(ゲームを引っ張って、流れを作る選手。全体の目安となる選手)"がいないからだ。逆に言えば、誰が飛び出してゲームの前半を引っ張るかで、後半2日間の流れはガラッと変わるだろう。若い選手たちは、いち早く自分が主役に立って、そのまま走り抜こうするかもしれない。

 そうした波乱の展開になれば、松山にも十分にチャンスがある。特に後半2日間に強い松山は、ダークホースとなりうると思う。

 その松山のコンディションだが、練習ラウンドでは故障している左手首を気にしながら、相変わらず「まだ本調子ではない」と語っていた。こういうときの松山は、逆に要注意。もともと本番に強く、練習ではそこそこというのが、松山のゴルフだからだ。

 プロ入りしてマスターズ優勝という夢を描いた松山は、はたしてどんな戦いを見せるのか。マスターズ72ホールの激戦から目が離せない。

三田村昌鳳●文 text by Mitamura Shoho