名脇役として知られた俳優の蟹江敬三さんが、3月30日、胃がんのため都内の病院で亡くなった。69歳だった。蟹江さんは今年1月には12年間ナレーターを務めてきた『ガイアの夜明け』(テレビ東京系)を降板。
「2月18日から3月18日放送分までの1ヵ月間だけは復帰しました。そのときは、本人もがんとわかっていたようです」(テレビ局関係者)

 66年、『おかあさん』(TBS系)でドラマデビューした蟹江さん。俳優のキャリアは50年におよんだ。長女・栗田桃子(40)と長男・蟹江一平(37)は、そろって劇団に所属し、父と同じ役者の道を歩んでいる。

「蟹江さんは30代半ばまで、その野性的な顔立ちとイメージから、演じるのはほとんどが悪役。そのために、思春期の息子さんが猛反発したこともあったそうです。でも、演劇一家となってからは仲睦まじい親子でしたね」(演劇関係者)
 
 蟹江さんといえば、半年前まで、NHK朝の連続テレビ小説『あまちゃん』で、主人公・アキの祖父である忠兵衛を演じたことが記憶に新しい。アキ役の能年玲奈(20)は、“じっちゃん”の急死によせたコメントにも、とまどいを隠せなかった。
《いつかまた絶対に共演したい、できるようにもっと頑張らなきゃと思っていました。そんななか、あまりに突然のことすぎて、どう受け止めたらいいのか戸惑っています》

 忠兵衛は、宮本信子(68)演じる妻を家に残し、遠洋漁業で一年に数えるほどしか帰ってこないという設定。それでもお互いをいちずに思い続ける夫婦の絆が描かれた。この最後に出演した連続ドラマで演じた“夫婦の愛”こそが、硬軟さまざまな役をこなしてきた蟹江さんが、「いつか挑戦したい」と願ってやまなかった役どころだったのだ。かつて蟹江さんは新聞のインタビューに、“心待ちにしている役”を明かしている。

《恋愛ドラマ。大人の精神世界を、微妙な心の動きを細かく表現したい。実生活で縁がないから、あこがれるんだ》(朝日新聞04年12月2日付)

 社会現象を巻き起こすほどの人気を集めた朝ドラで、名優の長年の夢は叶えられたのだ。50年の俳優生活に終止符を打ち、じっちゃんは帰らぬ航海へと旅立った。69歳の死は、あまりにも早すぎる。