Amazonの酒販ページの日本酒ラインナップ。
1本のみの高いお酒もあるが、缶やカップ酒30本のようなセット物も多い。

写真拡大

2014年4月8日(火)から、Amazon.co.jpがお酒の販売を開始しました。

あれ? 今までもAmazonお酒を買ったことがあるけれども? という方もいるでしょう。実はそれは、Amazonに登録していた店舗から購入していたものです。今回は、Amazonが自分のところの倉庫にお酒を置き、それを直接販売するという、直販。

Amazonの酒販は「Amazon FB Japan」で行なわれています。お酒の販売ページで左のカラムの中から「出品者」を「Amazon FB Japan」にすることで、Amazon直販のみを表示させることができます。

直販になるとどうなるのか。ちょっと列挙してみましょう。

・送料が無料になる
一番のポイントはこれじゃないでしょうか。Amazonは基本的に送料無料です。登録店舗からの購入は、送料がかかります。

Amazonプライム対応になる
プライム会員だったら「当日お急ぎ便」「お急ぎ便」「お届け日時指定便」といったサービスを無料で使えます。それをお酒に適用できるというわけです。

・他の買い物をしたときに荷物をまとめてくれる(かも)
Amazonの他の商品を一緒に買ったときに、まとめて送ってくれるかもしれません。

このように利用者にとってはいいことずくめではあるのですが、実は今、酒販の中でも特に日本酒関連ではいろいろと大きな問題が起きています。それはずばり「送料」の問題。このタイミングで基本的に送料無料のAmazonが酒販に携わってくるということは、従来の酒販店にとっては大きな衝撃なのです。
何がどうなっているのか、もうちょっと詳しく解説していきます。

●クロネコヤマトの料金改定問題

この問題は2013年10月におきた、クロネコヤマトのクール便常温発覚から始まりました。。クール便の作業中にコンテナを常温で放置したまま作業をしているということが報道され、大きな問題になったものです。

その結果、クロネコヤマト側は社内の規定を遵守、クール便の重量制限が厳格に行われることとなりました。今まではP箱(一升瓶が6本入るプラスチックのケース)に一升瓶を6本入れて送って大丈夫だったのが、P箱だと一度に4本までしか送れなくなったのです。ただ、エリアによってはダンボール(ちょっと軽めでないとダメ)だとなんとか一升瓶5本まではOKというところはあるみたいです。

今まで6本を送ることができていたのが、4本までということは、単純に送料が1.5倍かかるようになったことを意味します。さらには消費税の増税にともなう料金改定で、以前の2倍近くになったというわけです。

クール便業界最大手のクロネコヤマトのこの料金改定で、今までなあなあだった部分、クロネコヤマト側が負担していたツケが、酒販店などにまわってきただけなのかもしれません。が、この送料の問題が蔵から酒販店、酒販店から飲食店や一般顧客にいま直接きているのです。

●生酒はクール便推奨

ここでポイントになるのが、クール便の対象になるお酒が「生酒」ということです。生酒とは、できあがった日本酒を火入れ(加熱殺菌)していないタイプのお酒です。火入れをしていないお酒は、品質を維持するために冷蔵で保管をしなければなりません。運ぶのにもクール便が必要になります。これは他のお酒には無い、日本酒の特徴。

そしてこの生酒が、最近とても人気のある日本酒のタイプなのです。今後は生酒を買うのに今までよりもコストがかかってしまうという、非常に大きな問題になっています。

この状態で送料無料のAmazonが直販に乗り出してきたということは、ひょっとしたら酒販店が根こそぎつぶれてしまう危険性があるかもしれない。

Amazonと日本酒の酒販店は共存できるのか

さて、ここで改めてAmazon直販の日本酒のラインナップを見てみましょう。

基本的には、大手酒造会社のお酒が中心となっていて、火入れタイプのものがほとんどです。生酒は無く、生貯蔵酒タイプのお酒止まりです。生貯蔵酒とは、生酒の状態でいったん冷蔵貯蔵し、出荷するときに一回だけ火入れをするタイプのお酒です。生酒に比べるとフレッシュ感は弱いけれども、完全に火入れをしたお酒に比べると瑞々しさがあります。

さらに、720ml(四合瓶)では2本が基本、一升瓶では1本から、物によっては6本セットや12本セットのようなものも多いようです。これはおそらく、四合瓶2本を固定して入れることのできる箱を採用しているからでしょう。(確かめるべく注文をしてみたのですが、まだ届いていないのでもし違うことがあったら後日記事に追記いたします)

ラインナップは、クール便を使わなくて済むものばかりです。いくつか発泡清酒がありますが、これも火入れをしていて味が変わりにくいものがほとんどのようです。おそらくAmazon側の倉庫にはお酒用の冷蔵庫があるわけではないということでしょう。

というわけで、日本酒にこだわりがあって生酒とかを取りそろえている酒販店よりは、カクヤスのようなディスカウントや通販をしている大規模な酒販店が、ラインナップも客層も直接のライバルとなっていると言えそうです。通販のメリットは、近所で販売されていないタイプのお酒を購入するか、持ち帰ったりするのが面倒な量を直接届けてもらえるという点にありますが、後者を送料無料で行うのですから、脅威となりえます。

ただ、日本酒にこだわっている酒販店も安心できるわけではありません。今後Amazonが設備投資をして、倉庫に冷蔵庫を導入して、クール便に対応するときがくるかもしれないからです。どうしても送料の面では、Amazonには負けてしまいますから、そのときが酒販店にとって大きな黒船来航ということになると思います。
(杉村 啓)