男子テニス国別対抗戦デビスカップ・ワールドグループ(WG)準々決勝「日本対チェコ」で、日本(ITF国別ランキング12位)は、デ杯2連覇中のチェコ(同1位)に5戦全敗で敗れ、現行WGでの初のベスト4進出の夢は消えてしまった。
※デビスカップ・WGは世界の上位16カ国のトーナメントで争う。日本は今シーズン、1回戦に勝利して、初のベスト8進出。

 両国とも、タイトなスケジュールの中、ベストメンバーを揃えることはできなかったが、初めてWGのベスト8を戦う日本に対して、3連覇を狙うチェコは、力の差をまざまざと見せつけた。

 チェコは、エースのトーマス・ベルディヒ(ATPランキング5位、以下同)が代表を辞退し、直前になってヤン・ハイェク(125位)もひざのケガで出場を取りやめ。ルーカス・ロソル(40位)、ラデク・ステパネク(47位)、イリ・ベセリー(67位)の3人での来日となった。

 一方、日本は3月下旬のATPマイアミ大会でベスト4に進出した錦織圭(18位)が、左股関節の炎症の回復が間に合わず、代表入りを断念。そのため、苦しい布陣を強いられ、さらには、代表チームに合流していた添田豪(134位)も体調不良でオーダーから外れた。

 こうした状況で迎えた大会初日は、ステパネクが伊藤竜馬(146位)を4セットで下し、ロソルが日本代表デビューのダニエル太郎(190位)を5セットで破ってチェコが連勝。2日目には、初めてのペアリングとなったステパネク/ロソル組が、伊藤/内山靖崇組をストレートで破り、チェコが3連勝で早々とベスト4進出を決めた(※)。
※各試合5セットマッチ。1日目にシングルス2試合、2日目にダブルス1試合、3日目はシングルス2試合を行なう。3試合先取した国が勝利。

「40位付近にいる我々の2選手と、150〜200位にいる日本選手は、ほとんど違いはなかった。ラデクとルーカスに対して日本は失うものはなく、攻撃的だった。(3連勝で勝てて)とても嬉しい」

 チェコ代表のヤロスラフ・ナブラチル監督は、謙虚なコメントを残したものの、今回の準々決勝では、両国選手の5セットマッチにおける経験の差が如実に出た。

 現在、5セットマッチが行なわれるのは、テニスの4大メジャーであるグランドスラムとデ杯だけだが、伊藤もダニエルもランキングが低いため、まだ5セットマッチのグランドスラム本戦の舞台に立てていない。つまり、デ杯でしか5セットマッチをプレーしていないのだ。

 しかも、21歳のダニエルにとって、今回が人生初の5セットマッチだった。デビュー戦となったダニエルは勢いのあるストロークを見せ、「初めての(デ杯での)試合にしては、いい試合ができた。でも、勝てなくて悔しいです」と振り返った。5セットマッチをコントロールし、要所でポイントを奪ったのは、経験に勝るチェコのロソルだった。

「5セットマッチなので、いつでも挽回できる時間はあるし、チャンスはあると考えていた。自分は5セットの戦い方を理解していたし、それを活かせた」(ロソル)

 さらに、すでにデ杯で2連覇していても、国を代表して戦うことに対してチェコ選手のモチベーションは高かった。03年から代表入りし、シングルスで15勝目、ダブルスで18勝目を挙げ、デ杯優勝請負人ともいえる活躍を見せた35歳のステパネクは、次のように語った。

「厳しいスケジュールは、皆同じ。母国のために、誇りを持って出場して、自分のベストを尽くすだけです。ここ6、7年で、チェコはいい結果を出してきていますが、ケガなく、それぞれが自分の役割を果たしていけば、おのずと結果はついてくる。デ杯の優勝カップは、グランドスラム何個分よりも価値があるものです」

 今回の準々決勝で、錦織抜きでプレーすることを強いられた日本代表は、その選手層の薄さが浮き彫りとなった。日本はWGに属しながら、トップ100の選手は錦織だけ。チェコの4人と比べて、戦力不足は否めない。グランドスラムの本戦ストレートインの目安は104位前後で(欠場者によって若干変わる)、その圏内にいない日本選手は、常に高いレベルのツアーに身を置いて自らを高めることができないうえ、5セットマッチの経験も積めないでいる。

 準々決勝でWGの厳しさを痛感した日本代表だったが、2014年シーズンのデ杯を史上最高成績となるベスト8で終えることができた。日本男子テニスの歴史に新しい一歩を刻んだが、植田実日本代表監督は控えめに戦いを振り返った。

「たしかに、日本のテニス史上初めてのことだったかもしれませんが、いろんな運が重なったと私自身は考えています。正直、ベスト8に来たからすごいという気持ちは持っていない。ただ、可能性があることは、選手に教えられた」

 今回、エースの錦織抜きのチームにあって、日本の中心として戦った伊藤は「このプレーを今後に生かしたい。上のランクの選手とやるのは、すごく楽しみ。挑戦者として戦うことで、自分のプレーレベルが自然と引き上げられて、そういう経験を1年間通してできれば、ツアーで戦えるようになる」と前を向く。21歳の内山の成長も日本にとって今後への好材料だろう。

 さらに、今回代表デビューを果たし「これからも日本代表として、もっと活躍できれば」と語ったダニエルが、さらに経験を積み、ツアーでいかにレベルアップできるか。それが、日本代表が強くなるためのひとつのキーになるだろう。スペインのバレンシアに拠点を置くダニエルに対して、ナショナルチームがどんなサポートをしていくのかも、日本にとって課題のひとつといえる。

「来年に向けて時間はありますが、選手個々のレベルアップは不可欠。ダニエルをはじめとした若手に、もう少し目を向けながら、新しい刺激を与えていきたい」(植田監督)

 もちろん、錦織の存在抜きにして、来年のWGでの日本の勝利はイメージできない。ただ、今後も個人戦の厳しいツアースケジュールの合間をぬって行なわれるデ杯では、ベストメンバーを揃えることができないことも十分ありえる。

 それでも勝利するためには、一人でも多くの日本選手が、5セットマッチを含めたツアーレベルでの経験値を上げなくてはいけない。そして、日本代表の選手層を厚くしていくのは言うまでもない。それができなければ、新参者の日本は、トップ16カ国で構成されるWGに残ることはできないだろう。

神仁司●取材・文 text by Ko Hitoshi