マスターズを次週に控えるシェル・ヒューストン・オープンは、優勝してオーガスタへの切符を掴み取るラストチャンスの大会だった。とはいえ、首位を独走していたマット・クーチャーはすでにマスターズ出場資格を有するベテランだ。そのクーチャーがそのまま逃げ切って優勝すれば、ドラマは起こらずじまいになる……クーチャーが15番を終えたときまでは、誰もがそう思う展開だった。
「シェル・ヒューストン・オープン」のリーダーズボード
 だが、ドラマは起こった。クーチャーから6打差で最終日をスタートしたマット・ジョーンズが最後にはクーチャーと並び、プレーオフを1ホール目で制してツアー初優勝とマスターズ出場権を手に入れたのだから、いやいや、ゴルフは本当に何が起こるかわからない。最後の最後まで何が起こるかわからないものなのだと、あらためて痛感させられた。
 終盤の2人の争いは、技術の差でも、経験の差でもなかったように思う。前日までパーオン率1位を誇っていたクーチャーの18番の第2打が、フェアウエイから池に落ちるほどの狂いを突然見せたのは、ひょっとしたら勝利を確信したがゆえの慢心や油断によるものだったのかもしれない。
 だが、ジョーンズの18番のセカンドショットがグリーンから転がり落ちそうになりながらカラー近くでぎりぎり止まり、そこからの15メートルのバーディーパットがするりとカップに沈んだのは、なぜか。プレーオフ1ホール目でグリーン手前から打ったジョーンズの第3打がチップインしたのは、なぜか。その理由は、いくら考えても、もはや運としか言いようがない。いや、運という一言で片づけたくなければ、そこに至るまでの流れや勢い、気持ちの差。そこから醸し出された目に見えぬオーラのようなものが、幸運を呼び込み、ジョーンズを勝利へ導いた。そんな不思議な力に思えてくる。
 それならば、なぜジョーンズには、そんな強い気持ちが出ていたのかというと、それはオージーパワー以外には考えられない。昨年のマスターズをアダム・スコットが制して以来、オーストラリア人選手たちは何かに目覚めたように勢いを増している。
 今季はアクセンチュア・マッチプレー選手権でジェイソン・デイが優勝し、初のWGCタイトルを獲得して気勢を上げた。3月のバルスパー選手権ではジョン・センデンが優勝し、先週のテキサス・オープンではスティーブン・ボウディッチがミラクル優勝。そして今週はジョーンズが、これまた奇跡的なチップやパットを決め、プレーオフを制してのツアー初優勝を遂げた。ジョーンズは01年のプロ転向以来、ミニツアーや下部ツアーを経て、米ツアーに辿り着くまでに7年を費やし、08年の米ツアーデビューから今日の初優勝まで6年超を要した。
 3人のオーストラリア人選手が長い道程を経て、栄光とオーガスタへの切符をマスターズ直前に続けざまに手に入れたという不思議な流れ。ある日、突然、彼らの技術が揃いも揃ってポンと高まるはずはないわけで、不思議な流れの源は自信の高まり、気持ちの高まり以外には考えられない。
 これでマスターズに出場するオーストラリア人選手は、昨夏の全米アマで2位になったアマチュアのオリバー・ゴスを含めると7名になった。オージー勢力増大の発端になったのは、間違いなく昨年のスコットのマスターズ制覇だ。
 たとえば、ずっと未勝利だった選手がついに初優勝を挙げると、そこから先は堰を切ったように2勝目、3勝目を挙げるという現象は起こりうる。ジェイソン・ダフナーは、その代表例だ。
 ずっと未勝利でうだつの上がらない地味な選手の集団から、一人優勝者が出ると、「アイツが勝てたんだからオレだって勝てる」という気持ちが芽生え、地味集団が華やかなスター軍団に変わっていくことがある。下部ツアー出身選手たちの米ツアーでの活躍は、その典型だ。
 現在のオージー勢のパワーアップ現象も、スコットのマスターズ制覇がきっかけとなって、オーストラリア人選手たちの闘志が燃え上がり、自信やモチベーションも高まって、彼らの連帯感も強まりつつある。スコット、デイ、ボウディッチの3人は、みな同じハイスクール出身の同窓生。うつ病と向き合いながら戦うボウディッチの苦労を早いうちから知り、秘かに手を差し伸べてきたのはデイと彼のキャディだ。ゴルフは個人競技ではあるけれど、仲間どうしの心のパワーがゴルフの不思議な力になることはある。
 そんなオーストラリア人選手たちがオーガスタでどんな戦いぶり、プレーぶりを見せてくれるのか。マスターズの開幕がとても楽しみになってきた。
文 舩越園子(在米ゴルフジャーナリスト)
<ゴルフ情報ALBA.Net>

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