実需と虚構が入れ替わる金融市場
ヒト・モノ・カネが国境を越えて瞬時に駆け巡るグローバル経済。もはや一国の経済思考の枠組みでは対応ができない状況に。デフレから一転、インフレへと変わりつつある今、必要なこととは何か。複雑な経済を市場・通貨・金融・通商・政策等の観点からひもとき、わかりやすく説明する。

金融暴走時代の今こそ初歩から通貨と為替について理解すべき時

 昨年は円安基調の中、外貨投資でホクホクだった人も多いかと思うが、自分はどんなメカニズムの投資対象にお金を投じているのか、理解している人はわずかだろう。金融暴走時代の今こそ、初歩の初歩から、通貨と為替について、理解すべき時だと思う。

 そこで最初に問いたいのが、「通貨とは、そもそも何か」ということだ。通貨と為替の関係がいったいどういうものであるかをお話ししたい。

 「為替」という言い方をするが、これは本来牋拌惻莪〞を指す。その最も原初的な意味は、時間と場所、つまり時空を超えて通貨を取引すると、そこに「為替」が発生するということだ。つまり、遠隔地間におけるお金のやりとりを、近場のお金のやりとりに移し替える機能が「為替」なのだ。それは、日本語の「かわし」という言葉に根差している。かわしというのは「、交わす」「通交する」の犖〞で「交わし」と書いて、そこから為替という言葉が発生しているということだ。

 今、為替というと、"外国為替相場"のことを誰もが暗に指している。

 しかし本当は為替というものには、先程述べたように全く別の意味があったわけだ。国境を越えた遠隔地間の取引が発生すると、それで初めて外国為替〞というものの取引が成り立つ。そうすると、その国境を越えて通貨をやりとりするときに、"交換レート"が必要だから外国為替相場とうものが発生してくるという流れなのだ。

 そういう原初的なところも踏まえながら考えていかないと、本質的なところがなかなかわかってこないものなのだ。

 原初的といえば、たとえば「FXトレード」をしている人は多いと思うが、そのFXとはそれこそ、"フォレックス"といい、「フォーリン・エクスチェンジ」の略であることをどれほどの人がすぐに言えるだろうか。「FXトレード」で、FXは何の略だったかさえもふと忘れるような、そんな状況になっているのが今の日本だ。自分がいかなる取引に関わっていて、お金を運用しているのかということを、全部すっ飛ばして、FXというものをやっているという、若干末恐ろしい状況になっているのだ。

 今の日本人は、あまりにも本質と遊離したところで、自分の貴重な財産を増やそうとしている。リーマン・ショックでもわかったはずだが、自分がどのような世界に足を踏み入れているのかということくらいは理解してから、FXトレードを始めてほしいものだ。
 
 だからこそFXが、フォーリン・エクスチェンジの略であるということぐらいは、再確認しよう、という忠告からこのシリーズは始めさせてもらったわけである。

通貨と通貨の交換が外国為替取引の原点。しかも時々刻々と変化

 FXは、巨額のお金が、高いレバレッジが効く世界で運用されている。そこに足を踏み入れる以上、そもそもどんな仕組みなのか、きちんと理解しておくことが重要になってくる。
 
 外国為替取引というものが発生したから外国為替相場というものが生まれた。それがドル/円レートとか、ユーロ/円レートとか言われているものであるということは、少なくとも理解をしておかないといけない。つまり、通貨と通貨との交換行為があるから、FXが成り立つわけなのだ。

 では、通貨と通貨の交換行為というのが、どのような場面において発生するのか。あるいはその交換場面において、それぞれの通貨にどのような価値が与えられるのか。それは、そのつど決まっていくわけだが、まさに「変動為替相場制度」の妙で、時々刻々と交換レートが変わっていくわけだ。時々刻々と交換レートが変化していくと、どんな影響があるのか。もちろん、投資をしている人たちは損得勘定でその変化を見るだろう。

輸出入の精算手段がいつのまにか、損得勘定と化す

 しかしそれはほんの一部で、それは企業の決算にも影響する。企業における輸出入の結果を資金面で精算する際に、その損得の要となるのがその折々の通貨間の交換レートだ。彼らはその動向をある程度先まで見極めて、資金的な手当てを用意しておかなければならない。それほど、為替の交換レートは資金の規模とか、展望されるコスト負担とか、収益の猶予とかを左右してしまう力がある。
 
 だから、ビジネス上の人々も常に大きな関心を持って通貨を見ているわけだ。そういう実需的な関心のうえに、さらに相場がどうなっているかを見極め、利益を上げようという投機家たちがその上に乗っかっているのが、今の金融市場というわけだ。

 その投機家たちの役に立とうとして、ヘッジファンドとか、そういったやからも登場する。さらにそのようなヘッジファンドにアドバイスする投資コンサルタントがいるといった格好で、どんどん「根源的な通貨の交換関係」というものにぶら下がる世界が広がっている。まさに虚偽の世の中に、今やなってしまっているということだ。

 そのような虚偽の世界の広がりたるや、驚くべきものである。だからかつて、「交わし」と言っていた遠隔地の取引とは、全くかけ離れたところに来てしまっているのだ。

 今でも、外国為替相場を輸出入の精算手段として使う実需面はあるのだが、年代から年代前半はそれがこの世界の主流だった。いつの間に、主と従が逆転してしまったわけである。

浜 矩子
同志社大学大学院教授、エコノミスト

一橋大学経済学部卒業。1975年、三菱総合研究所入社。 ロンドン駐在員事務所所長兼駐在エコノミスト、経済調査部部長などを経て、 2002 年より同志社大学大学院ビジネス研究科教授。著書に『「アベノミクス」の真相(』中経出版)など多数。



この記事は「WEBネットマネー2014年4月号」に掲載されたものです。