2012年のロンドン五輪で、選手村から徒歩圏内の位置に作られ、日本食の提供のほか、柔道やレスリングの練習場も設けられ、選手を支えていたのが、「マルチサポート・ハウス」だ。

 これは、文部科学省のマルチサポート事業の一環として日本スポーツ振興センターにより設置された選手やスタッフ等の支援施設で、選手たちからは「日本食も食べられてリラックスできた」と好評だった。

 そのマルチサポート・ハウスが、ソチ五輪でも設置され、選手たちに活用された。ロンドン五輪では5億4000万円を投入して設置されていた。ソチ五輪では、氷上競技が行なわれる沿岸地区はオリンピックパーク近くのアドラーに、山岳地区はゴルキメインプレスセンターに近いホテル内に設置された。

 各30人程度の常駐スタッフで運営され、施設内では医師によるメディカルケアも可能なほか、ケアスペースも設けられ、自転車エルゴメーター、バランスボール、ストレッチポールなどを備えたトレーニングルームも完備。さらに、スケート靴の調整やスキー板の整備を行なう用具整備スペースも作られた。

 食事面のサポートも充実しており、栄養士の管理下でカフェテリア形式の日本食が用意され、館内では日本のテレビ番組も視聴可能と、選手がリラックスできる環境が整っており、広めの浴槽と、疲労回復のためのリカバリーバスも準備されていた。

 山岳部のマルチサポート・ハウスから、ジャンプと複合の距離が行なわれたルスキゴルキジャンピングセンターまでは3kmほど。日本代表チームの阿部雅司コーチは「選手にとってはアップやダウンがてらに走って行けるちょうど良い距離にあり、施設には大きな浴槽があるから選手がリラックスできています」と話していた。

 さらにノーマルヒル個人で銀メダルを獲得した渡部暁斗もこう言う。

「選手村では、暖房がつかなかったり、シャワーが水しか出なかったこともあったという話も聞いていましたが、マルチサポート・ハウスはそういうことはまったくなく、本当にありがたかったです。日本食を食べることもできましたし、大きな浴槽のある風呂にも入れて、ストレスはまったく感じなかったですね」

 彼らが普段戦っているW杯では、大会運営側が用意したホテルに宿泊することがほとんどだ。その場合、狭いシャワールームしかなく、食事も日本人には合わないこともある。そんな環境に慣れなければW杯で好成績を出すことができないということもあるが、そうはいっても環境がいいに越したことはない。渡部はこう続けた。

「普段のW杯では、けっこう過酷な環境で生活しなければいけないこともあります。それが、今回のソチではいい環境で生活ができたから、いつも以上のコンディションで最初のノーマルヒルに臨めたと思いますし、安定した結果を出せたのだと思います。ヨーロッパ開催のいつもの大会と同じ状況だったら、もしかしたら、もっと悪い結果になっていたかもしれません。こういう施設を整えてくれたことに、すごく感謝をしています」

 普段の過酷な条件を知っているからこそ出てくる言葉。渡部はこの支援施設の存在に本心から感謝していた。

「ケガをした時でもケアしてもらえて、必要なものがすべて揃っていることは心強い。今回のマルチサポート・ハウスは、僕たちにとっては十分な施設でした。これと同じことをまた次の五輪でも準備できるのでしたら、それは本当に有り難いことだと思います」

 道具の整備ができ、日本食を食べられてリラックスできる環境を選手たちに提供したマルチサポート・ハウスが、ソチ五輪で日本選手たちの活躍を支えた要因のひとつになっていたことは間違いない。コンディション調整が、トップクラスのアスリートにとっていかに重要なことかを、選手たちも実感したはずだ。

折山淑美●取材・文 text by Oriyama Toshimi