ペナントレースを牽引するチームには、必ず鮮烈な活躍を見せる選手がいる。昨季、パ・リーグで初優勝を飾った楽天では田中将大(現ヤンキース)が無傷の24連勝を記録し、セ・リーグでは新人の菅野智之がエース・内海哲也と並んで巨人投手陣の勝ち頭になった。来たる2014年シーズンは果たして、どの選手がファンを魅了するパフォーマンスを見せてくれるのだろうか。7人の解説者に、今季イチ押しの選手を訊いた。

与田剛(第2、3回WBC投手コーチ)

「3年前のキャンプで浅村栄斗(西武)を見て、しっかりバットを振れる選手だなと思って、以来、注目してきました。去年打点王に輝き、今年のキャンプ、オープン戦を見ていると、『チームを背負うんだ』という覚悟が伝わってきます。中村剛也にケガが増えてきて、浅村は間違いなくチームを背負っていかなければいけない立場。それに現在の球界を見渡すと、右打者で強い打球を打てる日本人選手は中村、中田翔(日本ハム)......本当に少ないです。浅村も強い打球を打てる打者なので、本当に期待したいですね。セ・リーグでは、筒香嘉智(横浜DeNA)にそろそろ一本立ちしてもらいたいですね。今年は勝負の5年目。ピッチャーから見て嫌なバッターを目指してほしいと思います。よく『自分のスイング』と言いますが、バッターはピッチャーの球に反応して、いかに自分のスイングをできるかが重要です。自分のスイングをできる確率は、本当に少ないものです。筒香には甘いボールは逃さず仕留め、厳しいコースにも対応し、ピッチャーにいろんなことを考えさせるバッターになってほしい。一発もあり、かつミートのうまい打者は、ピッチャーとして本当に嫌なバッターです。これまでの悔しさを晴らす意味でも、今年の筒香に注目したいですね」

◎吉井理人(元日本ハム投手コーチ)

「金子千尋(オリックス)に大注目しています。ダルビッシュ有、田中将大に匹敵する実力を持っている割に名前が売れていないので、誰もが知る有名なピッチャーになって欲しいですね。金子の良さは、右バッターへのアウトコースのコントロールがすごくいいこと。真っすぐ、チェンジアップを際どいコースに投げられ、カットボール、大きなカーブも勝負球になります。インコースのシュートも素晴らしく、ほぼ完璧なピッチャーです。今季を一軍でフルにすごすとFAの権利がもらえるので、金子もそこを意識してやると思います。そうなると、本当にすごい金子が見られるはず。これぞスーパーエースという姿を見せてほしいですね。バッターで注目しているのは今宮健太(ソフトバンク)です。去年は犠打のパ・リーグ記録を作りましたが、今年はバッティングが飛躍的に向上している。今宮が2番に入ると、首脳陣はランナーが出た時に、バント以外の作戦をとることもできます。攻撃にものすごい幅ができる。そうなると、ビッグイニングを作るチャンスも増えると思うので、今宮の活躍がソフトバンク優勝のカギを握ると思います」

薮田安彦(元ロッテ)

「今年の大谷翔平(日本ハム)はカーブを投げるようになり、ピッチングが安定してきました。しかも、しっかり空振りを取れています。オープン戦を見ていると、ピッチングのリズムをつかめているように感じますね。開幕から先発ローテーションに入る予定ですし、どんなピッチングを見せてくれるのか期待しています。バッターとの二刀流は難しい部分もあると思いますが、オープン戦でのピッチングを見ると去年より数段よくなっているので、期待できるはず。セ・リーグで注目しているのは、プロ入り2年目の菅野智之(巨人)。本当に器用で、頭のいいピッチャーです。バッターと対峙して『打ってこない』と感じれば、簡単にストライクを取りにいく。1年目の昨季から自分でしっかり考えて、ピッチングをしていました。2年目の今季は開幕投手を務めますが、去年成績を残したことが自信としてプラスになっているはず。昨季以上に活躍するのではと期待しています」

槙原寛己(元巨人)

「今年の菅野智之は相当勝つと思います。去年は13勝でしたが、もっと勝ってもおかしくない投球内容でしたから。最低でも15勝はするはずです。先日、本人と話しましたが、自信に満ちあふれている様子が伝わってきました。もともとコントロールのいいピッチャーですし、ボールのスピード、キレも去年よりアップ。菅野のように力みのないフォームからキレのあるボールを投げられると、バッターは差し込まれてしまいます。イメージとしては、去年の田中将大のような感じ。オープン戦で見せていた投球を1年間できれば、勝ち星だけでなく投球回数も増えていきます。そうなれば、リリーフの負担も減ります。そういった、まさにエースというピッチングを見せてくれると思います。もうひとり、キャンプを見て『いいな』と思ったのが藤浪晋太郎(阪神)です。投げる時にインステップだったフォームが矯正されたことで、コントロールがよくなりました。インステップは体の負担が大きく、ケガの不安もあります。それを直したことで、今年の藤浪はワンランク上を目指せます。ボールに勢いがあり、非常に楽しみです。菅野、藤浪、さらにはヤクルトの小川泰弘という若い投手の出現は、リーグ全体のレベルアップにつながるので、見ていてワクワクしますね」

◎金村義明(元近鉄、中日、西武)

「西武からロッテに移籍した涌井秀章に期待しています。新しいユニフォームを着ると、僕も経験がありますが、『もう一度やってやるぞ』という気持ちにさせてくれます。気分的にすごく乗っていけるので、ちょっとしたきっかけをつかめは、涌井は必ず復活すると思います。オープン戦ではなかなか思うような結果を残せていませんが、彼の力はこんなものじゃないはず。最多勝2回、沢村賞1回を獲った実力を、もう一度見せてもらいたいですね。野手では、同じく西武から巨人に移籍した片岡治大。近年はケガなどもあって思うようなプレイができていませんでしたが、彼のセンスというのは巨人にとって大きな武器となるはず。ただ、巨人というチームは西武時代と比べものにならないぐらいプレッシャーがあります。その中で、彼がどんなプレイを見せてくれるのか注目しています。片岡がうまく機能すれば、巨人打線は本当に手がつけられなくなる。相手チームにしてみれば、要注意の選手であることは間違いないでしょうね」

◎飯田哲也(元ヤクルトコーチ)

「新天地に移った片岡治大は、今年に懸ける意気込みが強いはずです。西武時代から打って、走って、守れる選手。彼の力をもってすれば、巨人でも中心選手になれると思います。昨年の巨人はセカンドが流動的でしたが、チームにとって二遊間を固定できるのはいいこと。ジャイアンツのプレッシャーに負けず、本来の力を発揮することができれば、間違いなく活躍できると思います。パ・リーグで楽しみにしているのは、新人の松井裕樹(楽天)。昨年の藤浪と同じく、勝って当然のピッチャー。それくらい、モノが違いますよ。相手打者も『打ってやる』と来るので、見ているファンもおもしろいと思います」

山崎武司(元中日、オリックス、楽天)

「キャンプでソフトバンクの打撃練習を見ましたが、長谷川勇也の実力は抜けていました。とにかく、ボールの捕まえ方が素晴らしい。必ず懐(ふことろ)で捉えて、自分のタイミングでパチーンと打つんです。ダラーンと打つのではないから、バッティング練習を見ていて気持ちいい。ホームランバッターと一緒にバッティング練習をしていても、長谷川のほうがパチーンと打つので力強い音がしていました。去年首位打者を獲りましたが、その実力は今年も健在です。セ・リーグで期待しているのは平田良介(中日)。ホームランを30本打つ可能性を秘めているバッターですが、まだパフォーマンスとしては発揮できていません。彼が一本立ちするために必要なのはメンタル。つまり、折れない気持ちを持ってやること。昔の僕みたいに、今は本能で野球をやっています。もっと野球を勉強することで、成績が上がっていくはずです。勝負強いし、素晴らしい対応力を持っているので、波の激しさをなくせば確実に素晴らしいバッターになるはずです。セ・リーグには和製大砲がいないので、平田に頑張ってほしいですね。今は与えられた4番打者だけど、その座を自分でつかみ取ってもらいたいですね」

 金子や菅野は、球史に名を刻むような大投手になることができるか。昨季ブレイクした浅村と長谷川は、2年連続の活躍が一流選手の座を確立するステップとして不可欠だ。高い潜在能力を秘めた筒香と平田にはスケールの大きな打者に、大谷と藤浪、そして新人の松井には球界を背負って立つ投手になってもらいたい。もちろん、今回紹介していないが、今年、大ブレイクを予感させる選手はまだまだいる。彼らの活躍が、今季の球界を盛り上げるはずである。

中島大輔●文 text by Nakajima Daisuke