【宙にあこがれて】第40回 航空機じゃない!? 知られざる無人機の世界

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2013年12月に策定された防衛計画大綱や中期防衛力整備計画において、無人偵察機の導入が検討されたり、2014年度にアメリカ空軍の無人偵察機RQ-4グローバルホークが、青森県の三沢基地に一時配備されるなど、無人機に対する世間の関心が高まっている昨今。ここで無人機について、ちょっとおさらいをしておきましょう。

無人機とはその名の通り、人間が搭乗して操縦しない航空機のことです。古くからドローン(Drone)と呼ばれていましたが、現在ではUAV(Unmanned Aerial Vehicle)と呼ばれたり、地上設備を含めた運用システム全体を指してUAS(Unmanned Aircraft Systems)と呼ばれることが多くなっています。一般的に、人間が乗った航空機では危険な場面や、負担の大きい任務で使用されるものです。

本格的な無人機が登場したのは、第二次世界大戦中。飛行爆弾V1(フィーゼラーFi-103)を航空機とするか誘導爆弾とするかは見解の分かれるところですが、自在に飛行をコントロールできる訳ではないので「本格的な無人機」とは言えないでしょう。これを除けば、アメリカで無線操縦の標的機が運用されています。アメリカ国立公文書記録管理局(ナショナル・アーカイブ)には、テキサス州フォートブリスにおいて、対空射撃訓練で無人標的機を運用する様子を撮影した、1943年制作の記録フィルム(‪War Dept Film Bulletin 58‬)が収蔵されています。

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■War Dept Film Bulletin 58‬: Radio Target Plane 1943(National Archives Identifier: 24466)
http://www.youtube.com/watch?v=woTcOTDxfec

射撃の的になる標的機は、有人機の場合バナーと呼ばれる吹き流し式の標的を曳航することが一般的ですが、それでも誤って標的ではなく曳航機を撃墜してしまうケースがあるので、無人機に最も適した用途でした。これなら直接「撃墜」しても大丈夫。

海上自衛隊チャカIII

標的機は最も古い無人機の用途として、現在でも運用されています。海上自衛隊ではBQM-34AJ改「ファイアービー改」と、MQM-74「チャカIII」という2種類の無人標的機を保有しており、訓練支援艦くろべ(ATS-4202)とてんりゅう(ATS-4203)で運用しています。どちらもジェット推進で、発進する時にロケットブースターを併用します。

■BQM-34 Firebee High Performance Aerial Target System Launch(映像:Northrop Grumman)
http://www.youtube.com/watch?v=vW2NDtae0Qk

■BQM-74E Aerial Target(映像:Northlop Grumman)
http://www.youtube.com/watch?v=2alztBBH7wc

大きなファイヤービー改は戦闘機や攻撃機といった固定翼機をシミュレートするもの、小型のチャカIIIは対艦ミサイルや巡航ミサイルをシミュレートするものとして、訓練に使用されています。もちろん無線操縦で自在に飛行することが可能。射撃側は直接狙う訳ですが、発射するのは実弾ではなく、発信器が内蔵された演習弾。その電波を標的機側でモニターしており、弾頭が近接信管作動距離を通過した場合に「撃墜」判定を出すしくみです。

標的機とはいえ高価な装備品の為、直接撃墜されると大変なので、射撃演習は標的機側も直撃されまいとテクニックを駆使した真剣勝負。訓練支援艦の格納庫には、のべ発射機数と撃破されずに無事回収できた「完全飛行」の数字が掲示されており、発射機数に近い完全飛行回数が並んでいるのは、標的機運用側の優秀性を示すものですね。

格納庫の実績表示

陸上自衛隊でも、対空ミサイルなどを扱う高射特科でチャカ標的機を保有しており、北海道の静内駐屯地に隣接した演習場で運用しています。

この他にも、ミサイルの評価試験を行う為には小型の標的機では大きさが不十分で、実際の戦闘機などを改造した原寸大の無人標的機(フルスケール・ドローン)が使われています。現在アメリカ空軍では、規定の飛行時間を過ぎて運用を外れたF-16を改造した無人標的機、QF-16の導入が進められています。

‪■GoPro: Boeing’s QF-16 goes unmanned‬(映像:Boeing)
http://www.youtube.com/watch?v=E_A_rEZoXSg

日本の航空自衛隊でもかつて、退役したF-104Jを改造した無人標的機、UF-104JAを小笠原の硫黄島で運用していた時期がありました。現在は1機(76-8698号機)だけ、浜松の航空自衛隊浜松広報館「エアーパーク」に保存され、残りの機体は任務を全うして(撃墜されて)います。

標的機の他、無人機が多く使われているのは偵察の分野。敵に撃墜される危険性が高い戦術偵察や弾着観測、人間の体力の限界を超える長時間の滞空偵察などに用いられます。陸上自衛隊ではヘリコプター型の無人機、遠隔操縦観測システム(Flying Forward Observation System:FFOS)などを保有し、運用しています。

遠隔操縦観測システム

遠隔操縦観測システムはコンピュータによる完全自動制御で、発進台となるトレーラーから離陸した後、事前にプログラムされたルートを飛行し、また自動で帰還するというもの。緊急時には手動の遠隔操作で飛行することもできます。

防衛装備や軍用だけでなく、無人機は民間の分野にも。日本では民間の無人機の方が遥かに多い状態です。

一番多く使われているのが、農薬の空中散布用に使われる無線操縦の小型ヘリコプター。ヤマハが最大手で、各農業機械メーカーにもOEM供給しています。この他、富士重工から遠隔操縦観測システムの民生型もリリースされています。

そして、最近多くなってきたのが空撮用の小型無人機。ソチオリンピック中継の空撮映像(フリースタイルスキー・スノーボードのスロープスタイルや、スノーボードクロス・スキークロスなど)でも活躍していました。様々な種類があり、安いものではカメラ込みで20万円しない機体もあります。

空撮用小型クアッドコプター

また、研究・観測用にも無人機が活用されています。気象庁の気象研究所では、台風の中でどのようなことが起きているのか観測する為に、無人観測機エアロゾンデを台風に突入させて観測する研究などを行っていました。かつてアメリカでは、有人のB-29をハリケーンに突っ込ませて観測したことがありましたから、このような危険な任務には無人機が最適です。

気象研究所のエアロゾンデ

国立極地研究所でも無人機を使った気象観測を研究しており、2008年に世界で初めて南極地域における無人機による長距離気象観測に成功しています。

この他にもJAXA航空本部で、様々な無人機が研究されています。お椀のような形をしたダクテッドファン式の機体は、自動制御で垂直離陸し、周囲の観測を行う飛行ロボットとして研究されているもの。担当者によれば「農家の人が軽トラの荷台に載せてって、飛ばすことで田んぼや畑の管理が省力化できたら」ということでした。

ダクテッドファン式飛行ロボット

この他にも、新しい形の航空機の実験として、櫛形配置のティルトウィング式主翼をもつ4発の垂直離着陸機QTW(Quad Tilt-Wing)の研究で無人機を使用しています。新しい形の航空機の場合、飛行試験までに様々な問題点がある為、人間を乗せる実験機をいきなり作ると、墜落などの危険が伴います。高精度なデータを取得できる無人機で、ある程度問題をクリアしておき、人を乗せても大丈夫……という段階まで開発を進めるというのも、無人機を使用するメリットです。

QTW風洞試験模型

さて、様々な無人機の紹介をしてきましたが、現在大きな問題が無人機にはあります。実は「無人機とは何か」が、法律で規定されていないのです。

航空法を見てみると

第二条 この法律において「航空機」とは、人が乗つて航空の用に供することができる飛行機、回転翼航空機、滑空機及び飛行船その他政令で定める航空の用に供することができる機器をいう。

とあります。つまり、人が乗らない無人機は「航空機」ではないのです。という訳で日本国内では、一般的な航空機と同じように無人機を飛ばすことはできません。航空法第81条、および航空法施行規則第174条にある、一般の航空機が飛行する最低安全高度に達するまで上昇することは許されませんし、飛行場周辺では離着陸の妨げとなる為に飛ばせません。

航空法施行規則:
第百七十四条 法八十一条の規定による航空機の最低安全高度は、次のとおりとする。
一  有視界飛行方式により飛行する航空機にあつては、飛行中動力装置のみが停止した場合に地上又は水上の人又は物件に危険を及ぼすことなく着陸できる高度及び次の高度のうちいずれか高いもの
イ 人又は家屋の密集している地域の上空にあつては、当該航空機を中心として水平距離六百メートルの範囲内の最も高い障害物の上端から三百メートルの高度
ロ 人又は家屋のない地域及び広い水面の上空にあつては、地上又は水上の人又は物件から百五十メートル以上の距離を保つて飛行することのできる高度
ハ イ及びロに規定する地域以外の地域の上空にあつては、地表面又は水面から百五十メートル以上の高度
二  計器飛行方式により飛行する航空機にあつては、告示で定める高度

現在、この最低安全高度を超える形で無人機を飛ばすには、その都度無人機を運用する期間(日時)や区域を決めて、空域を管轄する機関(自衛隊の訓練空域は航空自衛隊、アメリカ軍の訓練空域は在日アメリカ軍司令部、それ以外の空域は国土交通省航空局)に申請し、許可を受けなければなりません。そして周辺を飛行する航空機に対して「無人機が飛ぶので気をつけて」と注意情報(NOTAM)が出されます。これは自衛隊の無人機であっても同様です。

アフガニスタン等で運用されているアメリカ軍の無人機は、詳細は明らかにされていませんが「戦場」として、他の民間機が入らない飛行禁止区域を設定した上で運用されていると考えられます。福島第一原発事故の際に、無人機を飛ばして原子炉の様子を観測した時も、周辺に飛行禁止区域が設定されていた為に、自由な飛行が可能でした。

無人機を本格的に運用するには、航空法を改正する必要があります。ただ、そこにも問題が山積しています。

まず、有人機の飛行する高度・空域を安全に飛ぶ為には、航空管制を受ける必要があります。航空管制では、レーダーで機体が識別できるよう、空域を管制する機関から割り振られた「スコーク」と呼ばれる識別符号を発信する機械(トランスポンダ)が必要なのですが、現在これを搭載した無人機はありません。レーダー画面では、正体不明の飛行物体(UFO)と認識されます。

また、航空管制では管制官と音声通信をして飛行することが義務づけられていますが、その為の通信機も無人機は装備していません。このままの状態で無人機が飛ぶということは、スクランブル交差点を目隠ししたまま、誰ともぶつからずに渡るのと同じような状態なのです。

そして、これら無人機の取り扱いについて、国際的な合意がなされていないのが実情です。日本の国内法である航空法を改正したとしても、国際的な取り決めがない状態では、他国の機体に独特な「日本仕様」を強いることになり、あまり有益ではありません。

これまで以上に無人機が広く利用されるようになるには、早期に国際的な取り決めがなされ、関連する法令が整備されることが望まれますが、まだその道のりは遠そうです。それまで、無人機は大きな能力と可能性を持ちながらも、様々な制約の中、運用されることになります。

(文:咲村珠樹)