確かにナはかつてスロープレーで何度も警告を受けていたが…(Photo by Sam GreenwoodGetty Images)

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 今季から新しい冠スポンサーを得て、バルスパー選手権と大会名が変わったが、戦いの舞台は従来と変わらず、フロリダ州タンパ郊外にある難コースのイニスブルック・リゾートのまま。この大会のときは毎年必ず寒波に襲われ、冷たい風が吹き荒れる難コンディションになる。

 今年も、やっぱりそうなった。とりわけ最終日の強風はプレッシャーと相まって上位陣のプレーを乱し、優勝争いは大混戦になった。が、上がり3ホールを見事に戦い切ったオーストラリアのジョン・センデンが混戦を制して優勝に輝いた。彼のゴルフは堂々たるもので、最高のプレーをしたセンデンが優勝者となって、まだ手にしていなかったオーガスタへの切符を掴んだことは、この大会のストーリーを締め括る素敵なエンディングとなった。
 だが、その一方で、どうしても気になって仕方がないのは3日目の出来事だ。3日目の最終組を回っていたのはロバート・ガリガスとケビン・ナの2人。どちらも好プレーをしていたが、後半に入って、前の組と2ホールも間が空いてしまい、2人はスロープレーの計測にかけられた末、ナは13番で、ガリガスも14番で警告を受けた。
 それゆえ、どちらか一人がスローだったせいで、もう一人が巻き添えを食ったということではなかったのだと思う。が、そもそもこの2人が、いや、「この2人だけが」本当に計測にかけられるほどスローだったのかという点で疑問が残る。
 前の組と2ホールも空いたのは事実だが、前の組でプレーしていたのはパット・ペレツで、短気なペレツは不調で投げやりになると、「1打を打つのに1秒もかからない」(ガリガスの言)ほどの極端なスピードゴルフになる。この日、77を叩いたペレツはまさにそんなプレーぶり。だから前の組のペースは妙に早まり、その結果、最終組がスローに見えた可能性は確かにある。実際、最終組の2人は18ホールを4時間以内で回り終えていたのだから。
 とはいえ、前の組のペレツだけがスピードゴルフをしたところで、その前にもプレーヤーがいるわけだから、ペレツの組がどこまでも早く前進できるはずはなく、そこにも疑問が残るのは確かだ。
 3日目のラウンド後のナは、ひどく憤慨していた。そもそもナにはスロープレーで取り沙汰された過去がある。12年の春ごろの彼は、素振りのようなワッグルのような動きを何度も何度も行なってからしか実際にショットすることができない悪癖に苦しんでおり、そのせいで何度もスロープレーの計測対象になった。だが、彼はその直後から必死の努力で悪癖を直し、スムーズにショットして迅速なプレーができるようになっていた。「それでも僕にはスロープレーヤーのレッテルが貼られ、偏見の目を向けられる。それはフェアじゃない」。
 ガリガスは、これまで一度もスロープレーの計測対象になったことがなく、むしろプレーが早いと言われてきた。だから今回の出来事は「ショックだった」。そのショックが最終日の出だしに崩れたことと関係があったのか、無かったのか。その答えは、ガリガスと神のみぞ知るところなのだろうし、たとえ関係があったとしても、それはメンタル的にリカバリーできなかったガリガスが精神的に弱かったと言わざるを得ないのだろう。
 ゴルフの歴史を紐解けば、スロープレーの計測対象になって「キミは今からオン・ザ・クロックだよ(タイムを測るよ)」と告げられた途端、それが悪魔の囁きとなり、崩れた例は枚挙に暇がない。メジャー大会だって例外ではない。98年の全米オープンで勝ちそこなった故ペイン・スチュワート然り。
 日本のファンにとっては昨年の全英オープン3日目に松山英樹がスロープレーで1打罰を食らった出来事が記憶に新しい。間もなくマスターズだが、そう言えば、昨年のマスターズではアマチュア少年の関天朗がスロープレーで1打罰を食らい、予選通過が危うくなるという出来事もあった。厳しすぎるのではないか?本当に遅かったのは同組の他選手だったのではないか?いろんな意見が飛び出し、あのときも侃侃諤諤だった。
 ルールが定められ、ルールを遵守することがゴルフというゲームにおける絶対ゆえ、ひとたびスロープレーの計測対象にされてしまったら、そこから先はルールに対応していく以外に選手に選択肢はない。もちろん、正当な異議であれば、申し立てることは可能ではある。が、不平不満と見なされてしまえば、それまでだ。ルール・イズ・ルールはゴルフの鉄則なのだから。
 けれど、スロープレーの問題が起こると、「ルールはルール」と頭ではわかっていても、心のどこかに釈然としない気持ちが毎回残るのは、なぜだろう。その原因は、おそらくスロープレーのルールにまつわるどこかに改善すべき点があるからではないかと思えてくる。
 世界一の米ツアーの大会、メジャー大会といえども、全選手の全組に常にルール委員が張り付いて、すべてを見つめ、すべてを記録し、すべてを測っているわけではない。だから、ルール委員の目に留まった組と留まらなかった組で差が出てしまうことが不公平性を招く最大のポイントだと思う。
 スロープレーにまつわる問題で必ずと言っていいほど飛び出すのは、ある選手やある組を計測にかけると決めたルール委員の「主観」「偏見」が取り沙汰されること。それは、差別や国境を越えて競われるべきスポーツの世界では、とても悲しい出来事になる。
 結局、基準や規定に曖昧さが多ければ多いほど、主観や偏見が入り込む余地が多いということになる。そこが最大の問題であり、そこが改善できたら、スロープレー問題はもっとすっきりした話になっていくのだと思う。
 最終日の朝。最終組で回る2人は練習場で声を掛け合い、前日のスロープレー問題の話をしたという。「どっちにしても、今日、いいプレーをすればいいんだってことは、よくわかっていた」後半に盛り返し、2位になったナは、その日の朝の胸の内を振り返りながら、そう言った。だが、さらに一言、付け加えた。
 「今日、(前が詰まって)ほぼ毎ホール、ティで待たされながらプレーした。待っているとき、ほぼ毎ホール、ギャラリーが僕らの(昨日の)話をしていた。その中で(2位になるような好)プレーをした自分を僕は誇りに思う」
 ゴルフは紳士のスポーツ。だからこそ、すべてを見張るレフリーは不要という考え方が根底にある。だが、その一方で、すべてを見張るわけではないからこそ、ルールはすべてに公平でなければいけないという考え方もある。スロープレーのルールは、まさにその双方の間で、行ったり来たりする内容だからこそ、物議を醸すのではないか……。
 最終日の優勝争いを眺めながら、そんなことを考えていた。
文 舩越園子(在米ゴルフジャーナリスト)
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