第36回:遠藤

昨年春場所(3月場所)の初土俵から、
わずか4場所で新入幕を果たした遠藤。
この春場所では横綱との初対決が実現した。
今や相撲界屈指の人気を誇る
遠藤について、横綱が語る――。

「浪速の町」に春を告げる、大相撲春場所(3月場所)が始まりました。

 今場所の大きな話題といえば、先場所14勝を挙げて、千秋楽に私と優勝決定戦を演じた大関・鶴竜の綱獲り。そして、入門7場所目にして、上位力士たちと対戦する地位まで上がってきた、遠藤(前頭筆頭)の活躍ぶりといったところでしょう。でも、忘れないでくださいね。大阪の水が合う私は現在、春場所4連覇中。貪欲に5連覇を狙っているということを(笑)。

 それにしても、今や強烈なのは、遠藤の人気です。土俵入りのときの歓声や、土俵に上がったときの声援は、すでに横綱、大関クラス。早くもテレビCMにも起用されて、本当にすごいと思います。

 遠藤が新入幕を果たした昨年秋場所(9月場所)の前、横綱審議委員会稽古総見の場で、私は確か5、6番、彼に胸を出しました。スピード出世で幕内に駆け上がってきた若手の力を確かめたいと思ったからです。番数は少なかったものの、それなりに彼の勢いを感じたことを覚えています。

 そして遠藤は、秋場所で9勝を挙げて勝ち越し。左足首のケガのために14日目から休場してしまいましたが、力のあるところを見せました。それだけに、秋場所後の巡業では、再び遠藤と稽古をしたいな、と思っていたのですが、彼が負傷で大事をとっていたこともあって、以来、彼と稽古をする機会は訪れませんでした。

 しかし今年の初場所(1月場所)、負傷も癒えた遠藤は関脇・琴欧洲から白星を挙げるなど、多くの見せ場を作って11勝を飾りました。いよいよ、この春場所には、私をはじめ、横綱、大関と対戦する前頭筆頭まで上がってくることになったのです。それで、とにかく私は、彼と早く稽古がしたいと思いました。初場所を終えてから、その機会が来る日をウズウズして待っていました。

 待望の日が訪れたのは、場所前の3月4日のことでした。遠藤も上位陣との対戦が続くことを想定して、積極的に出稽古を重ねていました。鶴竜や日馬富士らが出稽古に来る時津風部屋にも足を運んでいて、多くの力士が集まるその稽古場に、私が乗り込んだのがその日でした。

 遠藤はいったい、どれくらい力をつけているのか? 半年前とはどこが違っているのか? 立ち合いの威力はどれほどのものか? また、痛めた足の具合はどうなのか? 実際に体を合わせてみなければわからないチェックポイントは山ほどありました。

 遠藤とは、11番ほど相撲を取りました。結果的に一番も負けることはありませんでしたが、私はそこで、いろいろなパターンを想定して、彼の感触を確かめ、彼の相撲のチェックを重ねました。

 実際にチェックしての感触ですか? それは"企業秘密"です(笑)。もちろん、力のあることは伝わってきました。できれば、個人的にはもっと多く相撲をとってみてもよかったかな、という思いがありましたね。

 遠藤はその日、私だけでなく、ベテランの安美錦関や新入幕の照ノ富士など、いろいろなタイプの力士とも稽古をしていました。また、時天空関には稽古の間合いを注意されるなど、「番数」だけではなく、プロの世界における稽古場の厳しさというものも教えられていました。そういう意味では、多くのことを学び、味わえて、遠藤にとっては有意義な一日だったのではないでしょうか。

 さて、そんな遠藤と本場所で対戦したのは、春場所3日目のことでした。ちょうど1週前に稽古場で体を合わせて、そこで私が全勝したからといって、決して油断はできません。稽古と本番はまったく違います。稽古場では見せなかった奥の手を使ってくるのが、プロの力士です。事実、遠藤は場所前の稽古ではまったく歯が立たなかったという鶴竜と初日に対戦し、土俵際まで追い詰める際どい相撲をとりました。

 ゆえに、私も遠藤との対戦を前にして万全の態勢を整えていました。加えて、3日目は奇しくも3月11日でした。3年前に東日本大震災が起こった日であり、私の29回目の誕生日でもあります。その分、私の士気はいつも以上に高まっていました。

 この3年間、私は被災地のみなさんのことをずっと考えていました。私にできることは何か? ということを考えて、慰問活動を続けてきましたし、相撲では横綱らしい強さを見せることが大切だと思ってやってきました。だからこそ、迎えた一番でも、被災地の方々に何より"白鵬らしい"、強い横綱だと思ってもらえるような相撲を見せられれば、ということだけを考えていました。

 結果、遠藤を送り倒しで下すことができました。3月11日という忘れ得ぬ大事な日に、話題の遠藤に、それも横綱相撲で勝てたことは、本当に満足しています。

 遠藤とは今後、対戦する機会が増えるでしょう。これからも彼の動向には注目して、対決する日を楽しみにしたいと思います。

 話はガラッと変わって、今年も私が主催する子どもの相撲大会「白鵬杯」が2月2日に行なわれました。4回目を迎えた今回は、初めて両国国技館で開催することができたので、感慨深いものがありましたね。

 おかげで、大会も大いに盛り上がりました。日本をはじめ、モンゴル、韓国、中国から300人以上の子どもたちが集結。小・中学生の各年代別に熱戦が繰り広げられました。見応えのある相撲も多く、あちこちで歓声が起こり、会場は熱気に包まれていました。

 私の故郷、モンゴルのチームも奮闘してくれました。モンゴルでの地区大会を勝ち抜いてきた9人の小、中学生が来日し、個人戦、団体戦に出場。それぞれで素晴らしい相撲を見せてくれました。

 実は大会前、彼らは私が所属する宮城野部屋で稽古を行ないました。したがって、本来ならば休養に入っているはずの私も、休みを返上して、彼らと一緒に稽古するはめになりました(笑)。胸も出して、彼らの練習相手を務めたんですよ。

 とはいえ、少年たちのキラキラした目を見ていると、場所後の疲れもすぐに吹っ飛んでいましたね。いつの間にか真剣になって、少年たちと一緒に汗を流すことで、とても心地よい気分になりました。

 何はともあれ、相撲をやる子どもたちは、日本の宝だと思います。そのためにも、「白鵬杯」はずっと続けていきたいと思っています。そして将来、「白鵬杯」を経験した子どもたちの中から、遠藤のような力士がたくさん出てきてくれることを願っています。

武田葉月●文 text by Takeda Hazuki