横断幕を掲げる浦和レッズのサポーター (写真:フォート・キシモト)
3月8日のJ1リーグ戦、浦和レッズVSサガン鳥栖戦において「JAPANESE ONLY」という差別的文言が記された横断幕が掲出された問題について、13日にJリーグが制裁処分を下すことを決定しました。制裁の内容は、けん責及び1試合の無観客試合開催というもの。(この処分及び本事案そのものについては、筆者自身のサイトにて考えをまとめましたので、ここでは割愛します)

今回の件は、サッカー関係者以外…多くのイベント運営者等にとっても大きな衝撃があるものです。本件は平たく言えば「来場客が起こした事件のせいで、イベント運営者が処分を受けた」という形になるからです。「迷惑な客」に責任があるだけでなく、「迷惑な客を御しきれなかったイベント運営者」にも管理責任を問う。

本件で言えば、数万人規模の入場料収入を失うことになる浦和レッズは、少なく見積もっても数千万円の「罰金」を支払ったに相当します。その責任の重さを、「たったひとりの迷惑な客」が引き起こしうるという事実。

本件がソーシャルネットなどを通じて拡散する中で、当該の横断幕が差別的であるかどうかは多くの議論が起きましたが、この責任の所在をどこに据えるかについては方向が定まらないままだったように感じます。「迷惑な客」に責任を置き、イベント運営者を被害者とみなすのか。イベント運営者の管理責任をも含めて問うのか。

もちろんここには、サッカー界の特殊な事情というものが介在します。「サポーター」と呼ばれる、より球団に密接な立場で協力関係を築く特殊なお客の存在です。「サポーター」の行為については、球団にも責任があるとみなすことは、サッカー界においてはごく普通の感覚ではあります。

しかし、実際にこのような社会的にも大きく報じられる事態となれば、その影響が波及することは避けられないでしょう。「お客を管理する責任」「お客の蛮行を見逃した責任」「お客の差別的行為を放置した責任」がイベント運営者等にも課せられる。そういう時代の始まりのように感じます。

近年、ソーシャルネットで話題になった俗に「バカッター」と呼ばれる事件は、「アルバイト店員などが店舗内で、商品や店の設備を用いてさまざまな愚行・不衛生な悪戯を行ない、それをツイッターなどで拡散する」という構造でした。この際には、まず第一に愚行を犯した当人が糾弾されました。そして各企業は、採用時にSNS利用を制限する誓約書を取り交わす、注意喚起を強化する等の対応をしています。

その構造が、今度は「従業員と企業」ではなく「客と企業」に拡大適応されつつある…浦和レッズの事件はそのように解釈できるものではないでしょうか。とすれば、先の企業のように「入場時にお客に対して誓約書を書かせる」等の対応に迫られることも想像に難くありません。チケットの裏面に細かく書かれた規約に、そうした文言が追加されるなどの形で。

お客の蛮行を、どれだけ制限し、あらかじめ他人事にできるか。

本件のように、慣例として「横断幕の掲出」などを公認していた場合、リスクを回避することは極めて難しいと言わざるを得ません。本件では問題の横断幕を掲出後、試合終了まで約1時間放置したことで問題は大きくなりました。

しかし、テレビ中継で映る位置や、スタンドから目視できる位置に掲出されてしまえば、どんなに管理責任者が急行したとしても、掲出から1分後に撤去したとしても、撤去以前にカメラで撮影され、ソーシャルネットにその蛮行が流出します。そして撤去までの「1分間」が短いか長いかで悶着しながらも、結果として蛮行が行なわれたことは拡散していきます。

今後のイベント運営にあたっては、そうした横断幕等の掲出そのものを禁じること、密かに持ち込まれないよう布類・ペン類・ペイントスプレー類を手荷物検査で没収すること、内容を問わず掲出する行為そのものを制止すること、など運営者が行為そのものを徹底的に禁じていることを示す必要が出てくるのではないでしょうか。

例えば、アラビア語で信教に関する文言を掲出された場合、それをイベント運営側が瞬時に内容を理解し、掲出可とするか撤去するかを判断できるでしょうか。できると断言できるイベント運営者は、今、日本にいますでしょうか?

そこまで含めて対応できる能力がイベント運営側になければ、オール禁止の方向に傾くしかない。浦和レッズの事件が社会に与えた影響は、客と企業との関係性を問い直す時代の、先鞭をつけるものだったと思います。

(文=フモフモ編集長 http://blog.livedoor.jp/vitaminw/