JAPANESE ONLYという横断幕が、浦和レッズの本拠地、埼玉スタジアムに掲示されたのは3月8日のことである。今日、Jリーグは「無観客試合」を始めとする厳しい処分を発表した。
これはJリーグと言うプロスポーツ組織が健全であり、ガバナンスが機能していることを表している。

この問題については兄弟サイト「59’S日々是口実」で昨日書いた。

どのような事情があれ、サポーターが人種差別と受け取られても仕方がないメッセージを掲示したことは厳しく処断されなければならない。
また、そのサポーターに対し、適切な対応ができなかった球団も、厳しく処分されなければならない。

Jリーグは、ほぼ完ぺきな対応をしたと思う。

まず、機構のトップが自ら処分を発表したこと。強い指導力を発揮した。
そして、その問題が表面化してすぐに対応したこと。バッドニュースには迅速に対応するという危機管理の原則が守られている。
その処分が厳格で、抜け道がなかったこと。ペナルティが骨抜きにされなかった。
またその処分が、世界基準で行われたこと。「世界とつながっている」ことを認識していた。
さらに、ノン・コレクティブ(言い訳無用)を明言したこと。

そして村井チェアマンは「僕はそう(差別だと)思う」と言った。処分が最高責任者の判断であることをはっきりと示したのだ。CEOの責任が明らかにされている。しっかりとしたガバナンスがある。

これに対し、浦和レッズも厳罰を受け入れると発表。Jリーグ、サッカー界、ファンに迷惑をかけたと謝罪した。
そして公式サイトには、事件の経緯を詳細に公表した。そこには責任の所在も明記されていた。
ディスクロージャーが適切に行われたのだ。
当事者は無期限入場禁止処分を受けた。
また、今後、浦和の試合では「応援旗」「横断幕」そのものが禁止となった。
まさに、根こそぎ処分されたのだ。
もちろん、これですべてが解決されたとは思わないが、このスピード感と処分の果断さは大したものだと思った。

一つ間違えば、Jリーグが世界や日本から信用失墜しかねない問題だった。「歴史に汚点」を残しかねなかったと言っても良い。
球団の面子やサポーターへの気兼ねなどの個別の事情を斟酌してはならない状況で、リーグも球団も厳しい処分を行った。

恐らくは、企業のリスクヘッジの原則に則って行動をしたのだろう。

残念ながら、NPBではこうはいくまい。

過去にNPBもさまざまな不祥事を起こしてきた。その都度、NPB機構が果断な処分をしたことはほとんどなかった。

「黒い霧事件」は、西鉄ライオンズの選手が八百長事件に加担していた事件だが、69年に報知新聞が最初に報じてから、処分(永易将之の永久追放)が下るまでに1か月半を要した。
このときに機構として事件の全容を究明しなかったために、醜聞は71年まで長く尾を引き、西鉄ライオンズが2年後に身売りを迫られるなど、パリーグ、プロ野球の信用は大きく失墜した。

1978年の「江川事件」は、ドラフト制度の欠陥を衝いて「空白の一日」に巨人への入団を発表。大騒動に発展した。
スポーツはルールを遵守して初めて成立することを考えれば、こうした抜け道を許すことなどあり得ないはずだが、当時の金子鋭コミッショナーは特例を認め、江川をドラフトで指名した阪神から巨人へトレードさせている。
世間の非難を浴びると、金子鋭コミッショナーは辞任したが、巨人も、江川も処分を受けなかった。

2004年には明治大学の一場靖弘を巡って複数の球団が裏金を渡していたことが発覚、巨人、横浜、阪神のオーナーが引責辞任した。
しかし、このときも裏金問題は究明されることなく終わり、今に至るも不明朗な金が選手やアマチュア球界に流れていると言われている。

2013年にはNPB機構が統一球の仕様を秘密裏に改変していたことが発覚した。また2011、12年は両リーグのアグリーメントに照らして不正な球が使用されていたことも発覚した。
このときは下田邦夫事務局長が独断で行っていたこととして、下田氏を事務局次長への降格と停職3カ月の処分を行った。
しかし、今年になって下田氏は再雇用されている。処分中に定年を迎えたので、下田氏は顧問として野球殿堂博物館などを担当するという。
要するに責任追及は骨抜きになったのである。

こうした姿勢からうかがえるのはNPB機構、球団側のコンプライアンス意識の欠如である。
自分たちで決めたルールも守れない。守らなかった者を糾弾することもできない。
ルールは常に骨抜きにされ、実権を持つものに恣意的に扱われる。

そして、プロ野球界には「世間が見ている」「世界が見ている」という意識が欠如している。彼らが好き勝手ふるまっていることを、一般社会はどう見ているか、がわからない。その怖さが認識できない。

プロ野球界は昔からそういう調子でやってきた。阿吽の呼吸で続けてきた。
社会だって、ファンだってそういうプロ野球の「やり方」を理解しているはずだ、と言うかもしれない。
しかし社会の価値規範は今世紀に入って大きく変わっているのだ。
昔ならOKだったことも、今では通用しなくなっている。
そもそもコンプライアンスと言う言葉が使われだしたのも最近のことなのだ。

若い世代で野球が好きな層が減り、サッカーが好きな層が増えているのは、両者の際立った「体質」の差と無縁ではないように思える。

良く知られているように、JリーグはNPBを「反面教師」として様々なルールを定めた。
「あのようにはなるまい」というところからスタートしたのだ。
サッカーの内実は良く知らないが、その精神は今も堅持されているように思える。
Jリーグにもいろいろな問題があるのだろうが、トップと機構がここまで果断に動くことができるのなら、今後も発展していくだろうと感じられた。