■佐古賢一のカットインNBA

 2013−14シーズンも安定した強さを発揮し、ウェスタン・カンファレンス1位の座に君臨しているサンアントニオ・スパーズ。3月12日現在、レギュラーシーズンで47勝16敗(全82試合)をマークしており、17年連続プレイオフ進出は間違いなさそうだ。過去10年間、毎年カンファレンス8位以内に入り、1度も欠かさずプレイオフに進出しているのは、スパーズとデンバー・ナゲッツの2チームのみ(ナゲッツは10年連続)。昨年もファイナルへと駒を進めた「常勝軍団」に、はたして弱点はないのか。「ミスター・バスケットボール」こと佐古賢一氏に、今シーズンのスパーズを分析してもらった。

 たしかに今シーズンも、サンアントニオ・スパーズは変わらぬ強さを発揮しています。ただやはり、ケガの不安はスパーズの場合、特に付きまといますね。「ビッグ3」の主軸であるティム・ダンカンは37歳、マヌ・ジノビリが36歳、そして若手と言われていたトニー・パーカーも31歳。年々高齢になっていること、そして3人とも腰やひざなどに持病を抱えていることは隠し切れない不安材料です。その古傷の痛みがいつ再発し、戦力に穴が開くののか、スパーズを指揮するグレッグ・ポポヴィッチHC(ヘッドコーチ)も気が気でないでしょう。昨シーズンは主力を欠きながらファイナルまで進んだものの、最後はマイアミ・ヒートの勢いに押し切られてしまいました。今シーズンも主力メンバーが全員揃ってプレイオフを勝ち上がる可能性は低いと思います。

 また、長年に渡ってビッグ3が君臨していることで、チーム内にマンネリが生じる危険性もはらんでいます。競争意識が希薄になると刺激がなくなるので、コートでプレイしていても、「こんな感じで試合が展開するんだろうな」という計算が先行してしまい、結果的に最後の粘りがなくなってしまうのです。そういう雰囲気になると、試合終盤にイージーなミスが生まれ、勝ち星を取りこぼすようになります。僕も現役時代、同じような経験をしました。いつも同じメンバーでプレイしていると、レギュラーシーズンは順調に勝っていても、大事なプレイオフでなぜか歯車が狂ってしまい、「なんでだろう?」と焦っている間に負けてしまったのです。2010−11シーズン、スパーズはウェスタン・カンファレンスを1位でプレイオフに進出しながらも、第8シードのメンフィス・グリズリーズに2勝4敗で敗れ、足もとをすくわれた苦い経験があります。いくらレギュラーシーズンで安定していても、あのときのように突然チームの歯車が狂うかもしれないという怖さは否めません。

 しかしながら、以前のスパーズと違う点は、若手選手が大きな戦力として育っているところでしょう。特に注目したいのは、昨年頭角を現した22歳のクワイ・レナードです。衰えの目立つジノビリに代わり、シューティングガードからパワーフォワードまで、幅広いポジションで活躍しつつあります。もともとディフェンスに長(た)けた選手でしたが、今シーズンは大事な場面で3ポイントシュートを決めるシーンが増えました。

 レナードの最大の魅力は、コート上での自分の立ち位置をしっかりと理解しているところです。身体能力は高いのですが、それにおごることなく、ビッグ3がメインで攻めているときには決して邪魔をしません。そして、ここぞというシーンまでボールが来るのを待って、結果を残しているのです。ディフェンスでは相手のエースを抑える役割をまっとうし、オフェンスでは貴重なオプションとしてシュートを狙う――。こんな選手がいると、チームの戦術はグッと広がります。ポポヴィッチHCからの信頼も高いので、サンアントニオという街が育てた人気プレイヤーとして、今後さらに飛躍するのではないでしょうか。

 また、NBA5年目となるポイントガードのパトリック・ミルズも、最近は思い切りの良いプレイが目立つようになってきました。スピードがあり、シュート力も高いのですが、今まで派手なプレイを見せることは多くありませんでした。それが今シーズンは大事なシーンで3ポイントを決めるなど、ビックリするようなプレイを次々と披露しています。シカゴ・ブルズのデリック・ローズや、オクラホマシティ・サンダーのラッセル・ウェストブルックなど、同い年(25歳)のポイントガードが活躍しているので、それに負けじと自分を奮い立たせているのではないでしょうか。常勝軍団スパーズのポイントガードとして、自分もスポットを浴びようとする姿勢は決して悪いことではないと思います。

 3月6日にスパーズのホームで行なわれたヒート戦は、「仮想ファイナル」として全米中が注目しました。結果は111−87でスパーズの大勝。ただ、1月26日に行なわれたヒートとのアウェー戦では負けているので、今シーズンの直接対決は1勝1敗の五分です。スパーズが大勝したゲームを見て思いましたが、ヒートに勝つためには「相手に走らせないこと」ですね。相手のリズムになるのを押さえ込み、じっくりと攻めることで勝機が見出せると感じました。昨年のファイナルは、ヒートのリズムに飲み込まれて負けてしまったという印象があります。いかにヒートを爆発させずに、相手の嫌がるプレイを徹底できるかがカギとなるでしょう。

 ヒートとスパーズは、タイプの異なったチームだと思います。抽象的な表現かもしれませんが、ヒートは「強いチーム」で、スパーズは「いいチーム」。どちらも強豪なのですが、相手チームが抱く印象はまったく違います。格下のチームは「強いチーム(ヒート)」に勝つと、間違いなく周囲から絶賛されるでしょう。しかし、「いいチーム(スパーズ)」に勝ったとしても、「よくやったね」ぐらいの評価にしかならなかったりするのです。となると、対戦するときのモチベーションはまったく違ってきます。ヒートと対戦するなら「倒してやろう!」という雰囲気になるのに、スパーズが相手なら「やりづらいな」という気持ちが先行しがちになります。おそらくどのチームも、「スパーズとは対戦したくない」と思っているのではないでしょうか。

 相手に挑発されてもスタイルを変えず、淡々とプレイしてくるスパーズは、非常にやっかいなチームです。絶対的なエースを作らず、パスを回す流れの中でチャンスを見出し、コツコツと得点を奪っていきます。そういうシステムだからこそ、前出のクワイ・レナードやパトリック・ミルズが生きてくるのでしょうね。ビッグ3を中心に据えながら、若手の成長も促進させた今年のスパーズのほうが「いいチーム」に仕上がっていると感じます。主力が欠けたとき、若手がどうやってチームを支えるのか、7年ぶりの覇権奪還に向けて突き進む「常勝軍団」のシーズン後半戦に注目です。

佐古賢一●解説 analysis by Sako Kenichi