保険商品にはとにかく複雑なものが多い。『生命保険の嘘』(小学館刊)共著者の一人、大江英樹氏(オフィス・リベルタス代表)は、行動経済学の観点からその背景を分析。保険商品がなぜ複雑なのかを解説する。

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 保険商品が複雑な理由を行動経済学の面から考えると情報負荷と権威付け効果(権威服従原理)が見て取れます。「情報負荷」は「様々な情報が一度に与えられると人は判断できなくなる」現象です。商品が複雑になればなるほど思考停止に陥ってしまい、勧められた商品を買ってしまうわけです。

「権威付け効果」とは、複雑であることを示して「何だかよくわからないけど、凄そう!」と思わせる効果です。例えば以前、DVDレコーダーのパンフレットを見ていたら、次のような主旨の売り文句が書かれていました。

「高性能デュアルコアプロセッサーによって、クロマアップサンプリング精度が大幅に向上。S/N比、80dBを実現!」

 何かよくわからないけど凄そうです。S/N比の数字が違ったら何がどう変わるのか、詳しくない人には「?」マークばかりでしょうが、「性能が良さそうだ」ということは伝わってきます。

「イブプロフェン、エテンザミドなどが効率良く配合され、痛みをすぐにやわらげます」

 頭痛薬のCMで出てきそうなフレーズです。それぞれの効能を知らない人でも、何だか効きそうと思うのではないでしょうか。

 これらの手法はあらかじめ「情報の非対称性」を認識している消費者(「難しいことはどうせようわからん」と思っている人)に向けることで大きな権威付け効果が生じます。「今までの製品に比べて画面が鮮やかでキレイに見えます」と言うより、「S/N比、80dBを実現」のほうが何となく科学的で具体的に思えるからです。

 保険に限らず、金融商品ではこのような権威付けがしばしば見られます。金融商品はシンプルでわかりやすいもののほうがいいはずですが、そうはならずにやたらと複雑になっている背景には、「手数料を高くしてもバレない」という保険会社にとってのメリットもあると思います。

 例えば、この10年間、投資信託の手数料は上がる傾向にあります。同じ金融商品である株の売買手数料が大きく下がっているのとは対照的です。外国債券やオプションと呼ばれる金融派生商品を駆使するなど、複雑な商品が増えてきたことが理由でしょう。それでも投資信託は、購入手数料や信託報酬がハッキリ開示されているので、高いと思えば買わない選択肢があります。保険はコストが提示されないことが多いため、余計にわかりにくいことは否めません。

※後田亨・大江英樹/著『生命保険の嘘』(小学館刊)より